朝起きて着替えを済ませた頃に玄関の呼び鈴が鳴る音がする。暫くすると母さんが僕の部屋に入ってきた。
「レーヴ、お客さんよ」
そう言われて僕は部屋を出ると、玄関の所に
「アローラ、レーヴ」
ハウが居た。
「リーリエに家を聞いて来たんだ。リーリエとククイ博士は先に船の用意をするってハウオリシティに行ったよ」
「アローラ。もう少しで準備が整うから少し待ってて」
僕はそう言ってハウに待って貰い、再び自室に戻る。
「帽子はリーリエから貰ったので良し、バッグとボールも良し、っと」
リーリエから貰った三角帽を被り、バッグを背負う。ボールは全て上着のポケットに仕舞って自室を出る。
「お待たせ。ハウ。・・・・何してるの?」
部屋から出てみると、ハウが仰向けに倒れ、お腹にニャースが乗っている。
「いや~、毛繕いしてたから猫じゃらしで戯れようとしたら、飛び掛かられた」
見るとハウの手に猫じゃらしが握られている。
「こらニャース。毛繕いの邪魔されたからって怒ってはいけません」
僕がニャースを抱えて床に下ろすと、少し離れた所で再び毛繕いを始める。
『ニャースは毛繕いを邪魔されると怒る。データ収集完了ロト』
何処からか現れたロトム図鑑がニャースのデータを取得したと言う。
「ハウも、あまりウチのニャースを
ハウはそれを聞いて『うへ~、凄いや~』っと言う。
「そうだ、ロトム。ちょっとここに試してくれないか?」
僕がバッグを下ろして側面に上下で取り付けた金具を指差す。ロトム図鑑が『何だロト?』と言いながら近づく。
「ロトムを運べるようにバッグに金具を取り付けたんだ。少し大きさを微調整するから収まってみてよ」
ロトム図鑑が言われたように下部の金具に座るように収まる。それを見てレーヴが少し金具の間隔を広げて調整し、上部の金具を下ろして閉じる様にロトム図鑑を挟む。
「これなら落ちないし、出たければ自分で金具を広げて出れる。戻りたいならこうやって金具を閉じれば大丈夫」
『凄いロト。楽ちんロト。それじゃあ、休眠モードに入るロト』
そう言ってロトム図鑑は目を閉じてしまう。
「それじゃあ、準備できたし港に向かうとしよう」
僕がハウに向き直って言う。すると母親がベランダから部屋に戻ってきた。
「出発するのね、レーヴ?」
「・・・行ってきます」
「ぎこちないわね。まあ良いわ。あなたが同年代と旅するのは初めてだろうし、色々とそれで学べることもあるでしょう」
ああ、母さんは知らないんだ。僕はそう思い、母親に向き直る。
「旅は楽しいって、学んでくるよ」
「それはいつも思ってるでしょ。ハウ君・・って言ったわよね?レーヴの事お願いね」
「まっかせてよ、ママさん。レーヴはアローラでできた初めての友達だしね」
「前はククイ博士の車で来たからそんな距離を感じなかったけど、意外と歩くと距離あるんだね」
自宅を出てハウオリシティの方に歩いて行くと、以前来たポケモンスクールの前まで来た。
「ハウオリシティにはもう少しだね、レーヴ」
地図を見ているハウが言ってくる。
「ハウ、地図もいいけども景色を見るのも大事だぞ」
僕は道から見える海を見ながら言う。見渡す限り海が広がる光景だった。
「アローラは本当に景色が良いよ。特に夕焼けに染まる海を見ながらビーチに寝そべるのとか最高だよ」
「それはどうか~ん。俺も小さい頃は時間を忘れて浜辺で寝てて、夜に帰って父ちゃんに怒られたっけ」
ハウがそんな昔話を口にしているとハウオリシティの入り口にやってきた。
「お、そこの方々。折角だし、辻馬車に乗って行かないかい?目的地まで楽々移動できるよ」
そう呼び止められて見ると、ケンタロスに繋がれたカブリオレタイプの馬車が止まっており、その脇に御者と思しきトレーナーが居る。
「どうする?」
僕はハウの方を見ると、ハウも『乗って行こう』という顔で見るので
「お願いします」
「それじゃあ乗って乗って。あ、荷物は後部に積めるよ」
通常のカブリオレタイプの馬車は御者が後部に乗って操るのだが、この馬車はそこが荷物置きになっている。
「あの~、トレーナーさんは何処に乗るんですか?」
この馬車は二人乗りみたいだから、僕とハウが座ればトレーナーが乗ることができないので聞いてみる。
「ん?お客さん、アローラは初めてかい?」
「まあ、引っ越してきて日が浅いです」
「それでしたら、御存知ないのも仕方ないです」
そう言ってトレーナーはケンタロスに跨って見せる。
「自分はここに乗るので、ご心配なく」
「レーヴ、これはアローラ地方伝統のライドポケモンを利用した文化だよ。アローラはポケモンの力を利用して発展してきた面がある。それを今でも受け継いでいるんだよ」
『レーヴは何も知らないロトねえ』
今まで休眠していたロトム図鑑が目を開けて僕を馬鹿にするように言う。
「仕方ないだろ。他所にはそういう文化がないんだから」
僕は金具を外してロトム図鑑ごとビーチの方に放り投げた。『ロト~~!!』という声が聞こえたし、ハウやトレーナーが苦笑いしていても気にしない。
ケンタロスに曳かれた馬車に乗ってハウオリシティの中央街道にある市場を通る。ここはハウオリシティで一番の大通りで両脇の歩道には多くの商店が野菜や果物などを売りに出しており、それだけでなく一般の人が自分の育てた野菜や使わなくなった物などを空いたスペースにマットを広げて売っている。
「フリーマーケットか。ちょっと見て行こう」
トレーナーに言ってケンタロスを止めて貰い、僕は馬車から降りる。
「お、丁度いいカメラが売ってる」
並べられている品を見ているとカメラが置かれている。
「お客さん、良いのに目を付けたね。そいつはまだ今年出たばかりのシルフカンパニー製の最新型さ。ちょっと構えてみな」
僕は言われた通りカメラを構える。すると店主が何やら指をさす。
「あそこに何か見えないか?」
僕は言われた方をカメラ越しに見ると、
「ゲ~~ン!!」
いきなり画面一杯に大きな口と舌が映り、僕は驚いて後ろに転ぶ。暫くするとそこに実体化したゲンガーが現れて笑っている。
「驚かせてすまない。そのカメラのレンズはシルフスコープを兼ねていてな。今みたいな透明化しているポケモンとかも映し出せるんだ」
「確かに驚きましたが、凄い機能ですね。値段は?」
「驚かせちゃったしな。今買うってんならこの値段でどうだい?」
僕は提示された値段を見て財布からお金を出して支払った。
「毎度」
店主にそう言われ、僕は馬車に戻る。
中央街道を抜けた先に役場などがあり、僕たちはそこで馬車を降りる
「またのご利用を。良い旅を」
トレーナーと別れ、僕とハウは役場を通り過ぎるとき、柵の所で見覚えのあるトレーナーを見つける。
「あれ?イリマじゃん。アローラ!」
ハウが見つけるなり、イリマの元へ駆けていくので僕も後を追う。
「はい、イリマです。アローラ」
イリマが振り返って挨拶をする。
「こんな所で何してたの?」
ハウが屈託のない笑顔で聞く。
「はい、ここの柵のペンキが落ちて来たので色を塗り直してます」
見ると反対側からドーブルが丁寧に柵のペンキを塗り直しているのが見える。
「キャプテンも大変なんですね」
僕がねぎらいの言葉をかけた。
「キャプテンは、街の美観向上も仕事ですので」
イリマは何でもないと言った感じで応えた。
あまり邪魔をするのも悪いので先に進むと、何やらハウの目が輝き始めた。
「この匂いは!?」
そう言うなり、ハウは突然の全力疾走。僕は慌てて追う。
「やっぱり、マラサダショップ!!」
そう言うなり、店内に入っていく。僕はそのままスライディングの要領で店の前を滑った。ハウは相変わらず、マラサダが好きなようだ。
「ハウ、先に船着き場に行ってるからな」
僕は店の外で力なくハウに向かって言うしかなかった。最も、マラサダに夢中になるハウに言葉が届いたかは不明だが。
船着き場に着くと、遠くからでも見分けられる人物が居る。白い帽子にワンピースを着る金髪の少女、リーリエが船着き場で傍にアローラロコンを連れて待っていた。
「アローラ、リーリエ」
僕が声をかけると、リーリエが気付いたように振り返る
「アローラ、レーヴさん。帽子、被っていただいてありがとうございます」
僕がリーリエの買ってきた帽子を被っているのを見て笑顔を見せる。すると、周囲を見渡す仕草をし
「あら?ハウさんは?」
僕に聞いてくる。傍のアローラロコンも困ったような表情をした。
「あ~、ハウならマラサダショップに入って行ったよ」
するとリーリエが笑う。
「そういえばククイ博士から聞きました。リリィタウンでマラサダを数分で六個も食べたって話し」
アローラロコンも『コーン』と鳴く。
「シロン、あんまり食べ過ぎてはいけませんよ」
『コン?』
「シロン?」
「はい。白いロコンなのでシロンです」
アローラロコン改め、シロンは誇らしげに鳴く。
「良い名前だと思う。大切に育てれば、必ずポケモンは応えてくれる」
「ありがとうございます。私もレーヴさんの様に大切にシロンを育てます」
そう言われて僕は少し照れくさくなった。
「さて、ククイ博士はもう少しかかるそうなのでこちらで待つように言われています」
「ハウも来るまで少しかかると思うし、丁度いいと思う」
そう言って僕とリーリエは船着き場のベンチに腰掛けた。