ククイ博士のヨットに乗って海に出た僕達は東に向かって大海原を進んでいた。
「海風が気持ちいい!」
「うん、最高」
双胴船であるため船首が二つあり、それぞれに僕とハウが手すりに掴まって身を乗り出している。
「あんまり身を乗り出すと、落ちてしまいますよ。レーヴさん、ハウさん」
「大丈夫大丈夫。落ちてもレーヴのランターンが助けてくれるから」
リーリエの警告にハウが応える。
「ら~」
ランターンが呼ばれたと思ったのか、海面に顔を出して近づいてくる。
「潜ってて大丈夫だよ」
僕が手で合図を送ると、ランターンは再び海中に潜って姿を消す。
「ランターンさん、船の周りを周回しているのですか?」
リーリエがこちらに恐る恐る歩いてくる。時々吹く強い海風に備えて片手で帽子を抑え、もう片手でシロンを抱き抱えながらゆっくりとやって来た。
「そうだよ。久しぶりに広い海に出たんだから、ランターンも泳ぎたいんだと思ってボールから出してる」
僕は水平線を見ながら答える。時々水面が発光しているが、これはランターンが自身の居場所を教えるために発光させている。
「ハウさんも、モクローさんをボールから出して肩に乗せていらっしゃいますね」
リーリエはハウの方を見て言う。リーリエの言う通り、ハウはモクローを肩に乗せて
「コ~ン」
リーリエに抱かれたシロンが鳴く。リーリエはそれに気づいて
「分かってますよシロン。少し降りて下さいね」
リーリエは姿勢を低くしてシロンを離し、バッグから容器を取り出して蓋にポケモンフーズを出す。
「はい、シロン」
リーリエはそれをシロンの前に置く。すると、シロンは嬉しそうにポケモンフーズを食べ始めた。
「ポケモンフーズを用意してたのか」
「シロン用に調合したポケモンフーズですので、レーヴさんのポケモン用のフーズもいつかは・・・」
「よろしく頼むよ」
視線をシロンに向けると、いつの間にかシロンの横にモクローが居て僕は驚いた。
「ははは、ごめんごめん。モクローもお腹空いたみたいだな」
ハウがやって来て言う。モクローはシロンの横からポケモンフーズを一つ
「モクローさんもこの味が気に入ったのですね。今度からは多めに作るようにします」
「ありがとうリーリエ」
ハウは頭の後ろに手を組んで言う。
「ハウとモクローって仲良いんだね。肩に止まったまま寝てたし」
僕がそう言うとハウが笑顔になって
「うん、まだ俺がアローラに居た頃からモクローはじいちゃんの所に居て、一緒に森に行っては遊んでたんだ。アローラを離れた時には別れていたけど、帰って来た時にモクローは覚えてたみたいでね。そのまま手持ちに加わってくれた」
ハウが視線をモクローにやると、モクローの首がクルッとこちら側を向く。
「最高のパートナーだよ」
首を元の方向に戻すと翼を広げて飛び立ち、ハウが差し出した腕に止まる。
「それにしてもアーカラ島にはまだ着かないのか?」
ハウはそう言うとリーリエは苦笑いを浮かべる。
「博士のヨットはその・・・古いヨットですので」
「聞こえているよ」
声の方を見ると、ククイ博士がこちらに歩いてくる。
「でも、少しずつ見えて来たぞ。あれが、アーカラ島だ」
指差した方角を見ると、島が見え始めた。ひと際大きく目立つ噴煙を上げる火山が特徴的な島だった。
「アーカラ島にあるヴェラ火山は一番体積の大きな山として有名だ。自然豊かな島だよ」
「噴火は大丈夫なんですか?」
僕はククイ博士に聞くと
「近年マグマ溜まり形成されていると聞くし、膨張現象も確認されているらしい。近い未来、噴火するかもな」
サラッと怖い事を言われて僕はヴェラ火山を再び見る。
「どうか、噴火しませんように」
手を合わせて祈っておいた。
「それじゃあ、上陸するぞ」
ククイ博士のヨットは外洋では風を受けて進むが、港などでは取り回しを重視する為に小型エンジンを搭載した機帆船である。故に港に近づいたところで帆を畳み、エンジンを始動して船着き場に近づいた。
「よっと」
係留場所に近づいた所で僕はヨットを降りる。そしてククイ博士が投げて渡したワイヤーロープを引っ張って
「よし、アーカラ島、とうちゃーく!!」
僕は振り返って街の方を向き、両手を万歳する様に上に開いて大声を出した。
「ら~」
海面から顔を出したランターンも鳴く。僕はボールを取り出して
「久しぶりの海は楽しかったろ。ゆっくり休んでくれ」
ランターンを戻した。ククイ博士とリーリエも船から降りて来る。残るハウは
「あらよっと!」
ヨットからジャンプしてアーカラ島に上陸した。モクローは羽ばたきながらハウの頭の上に止まり、翼を広げた。
「アハハ、モクローも新しい島に上陸して喜んでる」
ハウはモクローを持ち上げて肩に載せてあげる。
「あらよっと!、と言いながらヨットから降りたのはもしかしてギャグでしょうか?」
リーリエが笑顔を浮かべて言う。
「なるほど、あら
僕が納得すると
「えー、レーヴはこういう時どういう反応するの!?」
「大丈夫だ、ハウ」
そう言って僕はリュックの横に付いているロトム図鑑を持ち
(ロトム、僕が反応しなかったから微妙な空気になってしまった。もう一度、今度はロトムがやってくれ。ちゃんと反応するから)
(しょうがないロト。ハウにはマラサダの恩もあるロト)
そう小声で会話し、ロトムがヨットの甲板の上に移動した。
『あらよっと、ロト』
そして、ジャンプする様に浮遊して着地した。それを僕は冷めた目で見て
「ハウ、これが僕の反応だ」
『酷いロト!レーヴがやれ、と言ったロト!!』
ロトム図鑑が抗議する様に蹴りを入れて来たので、僕とロトム図鑑とで喧嘩が始まった。
「博士―」
涙声でハウがククイ博士に助け船を頼むように見ると
「バスでふっと
ククイ博士が助け船を出す様に腰に手を当て、笑顔で言う。ハウとククイ博士は笑い合っており、僕とロトム図鑑は喧嘩している。・・・リーリエは苦笑いを浮かべて、抱き抱えられているシロンは困った顔をしているが、持っているスポーツバックは揺れている。・・・ほしぐもには面白かったのだろう。
「ここはアーカラ島の玄関口、カンタイシティだ」
ククイ博士が説明しながら船着き場から道に出ると、街並みが見える。何処かレーヴにとって見慣れた街並みだった。
「アーカラ島はカントーやジョウト地方からの移民達が多く居て、レーヴにとって懐かしい街並みだろ?」
「確かに、懐かしい街並みですね」
そう言っていると、前から二人の人物が歩いて来た。
「へえ、懐かしさを感じるって事はアンタはこの地方出身じゃないのね」
黒い肌をした、文句なしの抜群のプロポーションを持つへそ出しスタイルの女性が話しかけてくる。
「え?」
いきなり話しかけられて僕は驚いたようにその女性を見る。
「ククイ博士と一緒にいるって事は、アンタが島巡りの挑戦者ね」
「そうです。レーヴと申します」
僕は名乗ると、女性は考えるようなポーズをとる
「レーヴ・・・なるほど、確かにアローラの人間の名前ではないわね」
「出身はカロス地方です」
「なるほどね。あたしはライチ。このアーカラ島で島クイーンを務めているわ。こっちは」
ライチと名乗った女性が後ろに居る褐色の少女を見る。短パンタイプのオーバーオールを着た少女が一歩前に出て
「はい!、まいどどーも」
と、元気のいい声を上げた。
「あたしはマオ。このアーカラ島でキャプテンをしてまーす」
マオと名乗った少女は笑顔で言う。
「アンタ達がアーカラ島に向かったと言うんで見に来たら、丁度そこで出前に来てた彼女に会ってね。一緒に見に来たって訳」
ライチがそう言うと、マオが一歩前に出る。
「はい!。あたしの家は食堂をしているので、そこのホテルに食事を卸しに来てて、その帰りにライチさんに会いました」
そう言うと、更にこちらに近づいてきて、僕の前で止まる。
「あたしの試練は素材の良さを光らせる試練でね・・・」
僕を真っ直ぐに見るマオの視線に、僕は少し気圧されそうになる。
「特にレーヴとレーヴのポケモン、とても良い素材を持ってる」
そう言ってマオは戻って行った。僕は緊張の糸が切れたように安堵する。
「あたしはアーカラ島最後の試練だからね。レーヴがあたしの試練を受けに来るの、楽しみにしてる」
そう、笑顔で僕の方を見て言う。
「最後?」
「そう。アーカラ島のキャプテンはマオ以外にあと二人居るんだけどね。途中で脱落するんじゃないよ」
僕の疑問にライチが応える。どうやら、メレメレ島と違ってキャプテンが複数人いるようだ。
「それじゃあ挑戦者の顔も見れたし、あたしの大試練まで来れることを楽しみにして待ってるわ」
そう言うと二人は去って行く。
「それじゃあ、僕はハニーに呼ばれてるし空間研究所に向かうよ。皆も、それぞれの目的地に向かってくれ」
そう言ってククイ博士は街の中心部に向かって歩いて行く。
「僕は島巡りだから」
ククイ博士に先ほど渡された紙を広げる。そこには『4番道路を越えてオハナタウンを目指す』と最初に書かれている
「オハナタウンって所を最初に目指すみたいだ」
「俺はマラサダショップに行くー!それからレーヴに付いてくー」
ハウは相変わらずだった。
「私は遺跡を目指したいと思います。ほしぐもちゃんの手掛かりを探して」
『僕はレーヴに付いて、アーカラ島のポケモンのデータを集めるロト』
「それじゃあ、行こうか」
それぞれがそれぞれの目的の為に歩き始めた。
アローラ地方南東部の島、ウラウラ島。その島の北西部にあるポータウンにグラジオが居た。
「ここが俺たちのアジトにしている街、ポータウンだ」
オヒアに案内されてポータウンを訪れたグラジオは街道を進んでいくと、大きな屋敷があった。
「ここにボスがいらっしゃる。グズマさんに会うには合言葉がいるんだが、俺のような幹部には不要だ」
中に入ったオヒアとグラジオは階段を上って下っ端が警備するドアを潜った。
「ボス、
頭を下げて一段高くなっている部分に備えられた椅子に座るグズマに対して言う。
「おう、ご苦労だ」
そう言ってグズマは立ち上がる。
「どうだ?この街は?」
グズマはグラジオを見て言う。
「何も。薄暗い、汚い街だ」
グラジオは街の壁や建物内が荒らされ放題の落書きされ放題を見ながらここまで来ている。
「そう言うなよ。ここに居る連中は皆
横のテーブルの上に置いてあるコーヒーメーカーでエネココアをカップに淹れながら自嘲気味に言う。
「クソみてえな風習に縛られて、外を見ない頭の固い連中からはみ出ちまった出来損ないかもしれねえが、それでも俺にとってはな・・・」
エネココアを容れ終えてグラジオに差し出す。
「飲めよ」
「要らない」
グズマの容れたエネココアを拒絶して、そのやり取りを見ていたオヒアは冷汗をかいた。
「フン」
しかし、グズマはそう言って自分で飲み、椅子に座り直す。
「さて、辛気臭え話しはここまでだ。仕事の話をしよう。レーヴとか言うガキは覚えているか?」
「ああ。試合に出てた」
「お前が決勝で戦う筈だった相手だ。そいつがアーカラ島に上陸したとの連絡を受けてな。ちょっと仕事の邪魔になりかねない」
グズマは椅子に深く座り直してグラジオを見る。
「決勝で戦えなかったようだし、そいつをぶっ潰してこい。これが、用心棒としての仕事だ」
「・・・別に試合をしたかった訳じゃないが。雇われた以上、仕事をしてくるよ」
中二病前回のポーズをした後、出て行く。
「ボス・・・」
オヒアがグズマを見る。
「あいつ、あれがカッコイイと思ってるのか?」
グズマは歩いて行くグラジオの背中を見ながら言った。