カンタイシティを歩くと、目の前にリーリエが何やらモデルコーディネートされたマネキン人形を眺めながら立っている。足元にはシロンと・・・ほしぐもがいる。
「リーリエ、こんな所でどうしたの?」
僕が話しかけるとリーリエはこちらに気付いたのか笑顔になる。
「あ、レーヴさん。ちょっと、この服を見てまして」
見ると、緑のチェック柄のワンピースがマネキンに着せられている。
「リーリエは今の服の方がきれいだと思うよ」
「・・・嘘です」
リーリエが突然暗い表情になるので僕は
「え?いや、本当に」
「お願いです。やめて下さい」
フォローしようとするが、完全に拒絶された。
「・・・ごめん」
僕は謝罪すると、リーリエの足元に居たシロンがリーリエの顔を困り顔で見上げる。
「あ、ごめんなさい。シロン。なんでもありません」
元の明るいリーリエに戻り、僕は安堵して会話を進めようとする。
「きゅい?」
すると、スポーツバックから鳴き声が聞こえる。
「あ、ほしぐもちゃん。起きたのですね」
スポーツバックの中からほしぐもが顔を出す。
「でも、あまり見られても困るのでバッグの中で大人しくしていて下さい」
「ぴえん」
ほしぐもは鳴きながら顔をバッグの中に戻す。リーリエはこちらに向き直り
「レーヴさんは試練に挑まれますので、ホテルしおさい手前にある道が四番道路ですので、そちらを進んでいけば目的のオハナタウンに着きますよ」
「ありがとうリーリエ。ハウもマラサダショップに行ったら来ると思うから合流して進むよ」
そう僕が言うと、リーリエは思い出したような顔をする。
「ハウさんでしたら」
そう言ってリーリエは
「リーリエ、ここにマラサダショップがない!街の人に聞いたらロイヤルアベニューって所にあるって話だから先に行くね!、レーヴにも宜しく行っといて」
ハウの言い方を真似て言う。
「と言って、先に四番道路を走って行かれました」
リーリエの言い方は可愛かったが、ハウの
「ハウさん、マラサダの事には見境ありませんね」
僕は同意すると、リーリエは振り返って歩き始める。
「私は方向音痴ではありますが、流石に見えているホテルには迷わず向かえます。そこでバーネット博士と合流することになっておりますので。レーヴさんにハウさんの事は伝えましたから、ホテルしおさいに向かいます」
そう言うとシロンを伴って角を曲がって行った。
「あ、それと・・・」
曲がって行ったと思うと、その角からリーリエが僕を見る。
「皆さんは気付いていませんでしたが、レーヴさんもヨットを降りる時、『よっと』と仰いましたが、あれもギャグですか?」
僕は何気なく言ったので指摘されるまで気付いておらず、顔を赤らめ、三角帽を
『レーヴさんもヨットを降りる時、『よっと』と仰いましたが、あれもギャグですか?』
「ロトム!」
『レーヴさんもヨットを降りる時、『よっと』と仰いましたが、あれもギャグですか?』
「ロトム!!」
四番道路を進みながら、バッグの側面に金具に挟まれて固定されているロトム図鑑がリーリエの声で悪ふざけの様に言ってくることに僕は声を大きくしながら言う。
『レーヴにやられた仕返しロト』
港での事を根に持っているのかロトム図鑑は腕を組んで言う。
「悪かったってロトム。機嫌を直してくれ」
『じゃあ、今度マラサダを所望するロト』
「・・・ハウみたいな事言い始めたね。気に入ったの?」
『美味しかったことは認めるロト』
ロトム図鑑は腰に手を当てて言う。
「僕も美味しかったと思うし、分かったよ。ロイヤルアベニューにあるっていうマラサダショップを見つけたら買う事にするよ。」
暫く歩くと、きのみが落ちている。丁度良いので拾い上げようとすると
「ケー!」「ケーラ!」
何かが帽子に止まったり僕の周りを飛んだりして襲って来る。
「何!?痛い痛い!」
『痛いロト!何するロト!!』
尖がった物に連打されて僕とロトム図鑑が痛がる。僕は痛みに耐えて手で振り払いつつその場を一旦引いた。
「な、なんだこのポケモンは?」
全身が黒色で、顔から首までと翼の内側が白色、くちばしから頭に掛けて赤色の鳥ポケモンが羽ばたきながらこちらを威嚇する様に三匹が見ている。
『ツツケラというポケモンロト』
「ツツケラ?」
『ツツケラ。きつつきポケモン。秒間16連打で木を突き穴を空ける。木の実を餌とし、その空けた穴に仕舞いこむ習性を持つ』
「木の実が餌。なら、この木の実は彼等が狙ってた物なのか」
ロトム図鑑の説明に僕は納得する。
「君たちの木の実を横取りするつもりはないよ。取ろうとしてごめんな」
僕は手を振りながら近づく。ツツケラはお互いに顔を見合わせ、警戒を解いたのか地面に降り立って一匹が僕の方に跳ねながら近づく。
「ほら、お詫びに僕が持ってる木の実もあげるよ」
僕はカバンから木の実を取り出して差し出す。ツツケラは首を傾げた後、差し出した木の実を啄む。すると、気に入ったのか翼を広げて鳴き、他の二匹のツツケラを呼び寄せて共に啄み始める。
「時々掌に嘴が当たって痛いけど、どうやら警戒は解いてくれたようだ」
僕がそう言うと、ロトム図鑑が自分で金具を広げて出てくる。
『では、データを記録するロト』
そう言って木の実を啄むツツケラの周りを飛んで撮影を始める。
「その子たちを手懐けるなんて、凄いじゃない」
いきなり上から声がして、驚いた僕は立ち上がって上を見上げた。
「この場所に主は居ないけど、彼ら一家は主みたいなものよ」
見上げると、上空に鋼の様に黒光りする大きな体と翼を持つ大型の鳥ポケモンが自動車の様なゴンドラを持たせて羽ばたいている。
「な、デカい鳥ポケモン!!」
僕は驚いて後ろに倒れる。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったのだけど。・・・こっちの人間にはこれは異様に映るわよね。アーマーガア、降りて貰って良いかしら?」
「ガア」
アーマーガアと呼ばれたポケモンは鳴き声を上げて降下してくる。ゴンドラを着地させると、そのポケモンは翼を畳んで休み始める。
『何度検索してもデータなし、データなしロト。新種のポケモンロト!!』
ロトム図鑑が興奮する様にそのポケモンの周りを飛び始める。鬱陶しいと感じたのか、そのポケモンは羽で周りを飛ぶロトム図鑑を払いのける。
「残念ね。このポケモンは確かにアローラにはいないけど、新種と言う訳ではないわ」
ゴンドラのドアが開き、中から水色のゴルフウェアを着た女性が降りて来る。
「この子はアーマーガア。去年全ガラル女子オープンに参加したときのガラル滞在中に捕まえたポケモンなの」
「ア・・・・・アナ・・・タハ」
僕は緊張のあまり震えながら言う。
「私はカヒリ。プロゴルファーをしているの。偶々移動中に貴方がツツケラに襲われていたから助けようと思ったのだけど、必要なかったみたいね」
ツツケラは先程の敵意など忘れたかのように僕の帽子の上に止まるなどしている。
「とりあえず、立てるかしら?」
カヒリと名乗った女性は手を差し出す。僕は差し出された手を掴んで立ち上がると
「カヒリさん、レーヴと申します!。早速で申し訳ないのですが、サインください」
目にも止まらぬ速さでカバンから色紙とサインペンを取り出し、お辞儀をしながら頼み込んだ。
「え、ええ、良いわよ」
カヒリは一瞬面を喰らったようになったが、我に返って僕から色紙とサインペンを受け取る。
「クチバ出身のフミカ選手との全イッシュオープン戦での激戦を見て以来ファンでした!。お会いできて光栄です!」
「ありがとう。はい、これ。宛名はレーヴくんで良かったかしら?」
「はい、ありがとうございます」
僕はお礼を言って色紙とサインペンを受け取る。
「それじゃあ、大丈夫そうだし私は行くわね。そうそう、さっきも言ったけどそのツツケラ達ドデカバシ一家はここら辺を根城に木の実を集めているから、無暗に地面に落ちてるからって手を出さない方が良いわよ」
そう言ってカヒリはゴンドラに乗り込んだ。アーマーガアがゴンドラを持ち上げて上昇していき、飛び去って行く。
『レーヴ?レーヴ?』
ロトム図鑑が僕の周りを飛んでいる。
『どうしたロト?レーヴ?』
「ロトム・・・・」
『?』
「僕は今日・・・死んでもいい」
『何を言ってるロト!?疲れたロトか!?』
ロトム図鑑が僕のカバンに潜りこんで、中にしまってある木の実を取り出して僕の帽子の上に置く。すると、ツツケラが帽子の上に移動して木の実を突き始めた。
「ガー」
アーマーガアに吊られたゴンドラに乗るカヒリは海の上を飛行している。
「ハラさんの話し通りの子ね。私のファンなのは驚いたけど」
『貴方も有名人だもの。本当は貴方がアーカラ島の島クイーンに成って欲しかったのよね』
カヒリの持つタブレット端末にはライチが映し出されていた。
「私はゴルフツアーでアローラに居ない事の方が長いので辞退しました。それに、実力じゃあライチさんの方が上です」
『謙遜しちゃって』
カヒリは溜め息交じりに言ったのを、ライチは『謙遜』と返す。
『もうじきワールドゴルフチャンピオンシップスが開かれるのでしょう?』
「そうね、名だたる強豪が参加しているので私も燃えているわ」
『そうは見えないけど』
「プロとして感情を見せないようにしているだけよ」
『そう、それじゃあ先に言っておくわ。頑張ってね』
「ありがとう、ライチさん」
カヒリは通信を切って、窓から見える水平線を眺める。
「アローラは外から見たら平穏そのもの・・・・。それ故に・・・ね」
カヒリは椅子に深く座り直し、ゴルフキャップを取る。
「案外
正面の窓にはメレメレ島の輪郭が映り始めていた。
「何で!?何で通せんぼしてるの!?」
全力でロイヤルアベニューを目指していたハウの目の前にはウソッキーが横一列に並んで立ちはだかっていた。
「これじゃあマラサダショップに行けないじゃないかー!!」
ハウは頭を抱えてその場に蹲る。
「こうなったら、上から行けないか行ってみよう」
しかし、直ぐにハウは気持ちを切り替えて来た道の反対側へと全力で駆けて行った。
「はあ」
僕は溜め息を付く。
『目的のオハナタウンに着いたのに溜め息ロトか?』
「危うく、リーリエから貰った帽子を台無しにする所だった」
『レーヴが呆けてたからロト』
ロトム図鑑は腕を組んで言う。
「まあ、それは良い。いや、良くは無いけど置いておく。問題は二つ・・・」
僕はその場にしゃがみ込んで頭を抱える。
「一つ、ハウに追いつけない・・・・」
『街の人に聞いたら、『マラサダー!!って叫びながら走って行く少年』を見ているロト。追いついてはいるロト』
「ハウはマラサダに関してなら体力は無尽蔵なのか・・・どこ行っても休まずに走るマラサダと叫ぶ少年の話ししか聞かない」
『この先の牧場を抜けた先に五番と六番道路ロト。でも、街の人の話だと六番道路方向にはウソッキーが封鎖していて五番道路方向しか行けないロト』
「いつかは追いつくと思うけど・・・二つ目というか、最優先したい事」
僕は立ち上がって歩き始めながら、後ろから跳ねながら追って来るポケモン達を見る。
「先ずはこいつらを何とかしたい!!」
僕は全力で走った。すると、跳ねて追ってきたポケモン達は翼を広げて飛びながら追いかけて来る。
『ツツケラが更に増えて、それに何匹かケララッパも加わったロト。ケララッパはツツケラの進化形ロト』
ロトム図鑑が説明してくれる。
「説明は良いから、ロトムも自分で飛んで逃げてくれよ。意外と君は重いんだぞ」
『失敬なロト。僕はこれでも種族の中では軽い方ロト』
「筐体が重いし、種族内の重さ何て誤差だ!!」
僕は走りながらロトム図鑑にツッコミを入れる。
「こうなったら」
カバンの中に手を入れ、瓶を取り出す。
「ミツハニーのハニーシロップだ」
立ち止まってツツケラとケララッパの群れに向かって投擲する。群れは瓶を突き始めたので、今のうちに僕は五番道路に入った。