五番道路に入った僕は肩で息をしながら木陰に移動し、その場に座った。
「ロトム・・・」
『何ロト?』
僕の問いにロトム図鑑が金具を外して出てくる。
「撒けた?」
ロトム図鑑がその言葉に僕が走って来た方の道を確認する。
『ケララッパ及びツツケラの姿は確認できないロト。撒けたと思われるロト』
それを聞いて僕は仰向けになって寝転んだ。
「ロトム、少し休みたい」
『何を言ってるロト!?ハウを追わなきゃ追いつけなくなるロト』
「それもそれで、困るな」
僕は寝転ぶのをやめて起き上がった。丁度息も整ったところである。
『さあ、行くロト』
ロトム図鑑がそう言った時に丁度爆発音が辺りに響いた。
『な、何ごとロト!?』
「行ってみよう」
ロトム図鑑が驚いて周囲を見渡し、僕は音のする方に駆けていく。ロトム図鑑もそれを見て追いかけて来た。
「あははー、流石に準優勝者は強いや」
僕とロトム図鑑が目的の場所に着くと、ハウが何やら言っている。辺りはまだ煙が立ち込めていて相手の姿は見えないが、ハウの前で目を回しているオンバットを見るに、バトルをしてやられたようだった。
「ハウ、大丈夫?」
僕はハウの近くに行って声をかける。ハウも僕達と気付いたのか、こちらを見て来る。
「あ、レーヴ。気を付けて、あいつはレーヴを探しているみたい」
ハウがそう言ったのと同時に煙が少しずつ晴れ始め、相手の姿が見える。
「レーヴ?」
同い年くらいの少年が顎に手を当てたままこちらを睨んでいる。
「そうだ、僕がレーヴだ。僕を探しているみたいだが・・・」
僕がそう言うと、少年は顎に当てていた手を腰に回した。
「フッ、用心も何もないんだな。ポケモンでも、危険予知をするのに」
「君は、何処かで見覚えがある」
僕がそう言うと少年はキョトンとした顔になった。
「まあ、お前とは戦っていないからなあ」
そう言って少年はボールを三つ取り出し、その場にポケモンを三体出す。
「俺はグラジオ。スカル団の用心棒をしていて、今はお前を倒すよう言われて来ている」
グラジオと名乗った少年の元に居るポケモン・ブラッキーが勢いよく僕の元に駆けてきて飛び掛かる。
「あぶ!?」
僕は咄嗟に掴んだ物でブラッキーの爪を受け止めた。
『盾に使うなんて酷いロト!!』
その物とは、僕の近くに居たロトム図鑑だった。受け止められてもブラッキーはもう片方の脚で攻撃してくる。
「ちょっと、落ち着いてよブラッキー!!」
またしてもロトム図鑑で攻撃を防ぎ、僕は後退する。
『また僕を盾にしたロト!!』
ロトム図鑑が抗議の声を上げるが、僕は上着からボールを取り出そうとしているので半ば無視する形になる。
「ごめんよロトム。でも、仕掛けてきたのは向こうだよ」
僕はラグラージをその場に出してブラッキーと相対する。
「ラグラージ、れいとうパンチ」
ラグラージの拳を冷気が纏い、ブラッキーに殴りかかる。
「イカサマ」
しかしそのパンチを飛び跳ねて避け、勢いに乗っていたためにバランスを崩しかけた所を降りて来たブラッキーが背中に乗り、ラグラージを俯せに倒す。
「ハイドロポンプ」
ブラッキーが背中から降りる為に飛び跳ねた瞬間を狙ってラグラージが体の向きを変えて水流を放つ。背中側であったため見えていないと思い込んでいたブラッキーは咄嗟に対応できず直撃した。
「どうだ!?」
レーダーの役目を持つヒレのお陰で死角の無いラグラージにとって背中側に居たからと言って油断したのが間違いであった。ブラッキーは上手く着地をしたが、ダメージは与えた。
「ここまでだな」
グラジオがそう言うと、ブラッキーが紫の光に包まれて別の形となって現れる。
「ゾロア!?」
変化の解けたゾロアは小馬鹿にしたように笑うが、ハイドロポンプが予想以上のダメージを与えたのかその場に目を回して倒れる。
「戻れゾロア」
グラジオがボールにゾロアを戻す。
「ご苦労様、ゆっくり休んでくれ」
グラジオは労いの言葉をかけ、ボールをしまう。
「リオル、俺たちの戦いをよく見ておくんだ」
グラジオはボールから出している残り二匹のうちの一匹、リオルに告げる。リオルは両腕を体の前で構えて『リオッ!』と鳴く。
「いけ、ヌル」
後ろに控えていたポケモンが姿を現す。僕が今まで見たことがないポケモンなので、これもアローラのポケモンと思ってロトム図鑑の方を見たが
『データなし、データなし・・・。あのポケモンもデータが見つからないロト!!』
「なら、アーマーガアと同じもっと別の地方のポケモンか」
僕はそう思い、ヌルと呼ばれたポケモンを観察する。鋭い鉤爪を有する前脚と鱗の様な模様がある後脚の四足歩行であり、魚の様な尻尾と鳥のようなトサカを持ち、頭部全体を覆う巨大な仮面を被ったポケモン。
「そのポケモンは継ぎ接ぎの様な異質な容姿に見える。まるで、人が手を加えた人工ポケモンみたいだ」
僕の言葉にグラジオは無言で腕を組んでいる。
「ラグラージ、じしんだ」
ラグラージが両手を地面に打ち付けるとそこから衝撃波が発生してヌルにダメージを負わせる。
「そのポケモンが異質なのは分かる。油断するなよ、ラグラージ」
僕の言葉にラグラージが構えを取って答える。
「トライアタック!」
グラジオの指示にヌルのトサカが赤青黄色の三色に発光し、続いてそこから同色の光線が放たれた。一直線に向かってきた光線はラグラージに直撃して怯ませた。
「シザークロス」
再びグラジオの指示にヌルはラグラージに向かって走り始める。
「見た目ほどスピードはないのか」
ヌルは頭部を覆う仮面が重いのか、見た目の印象程速く動けないようだった。それでもある程度近づいた所で飛び上がり、前脚をクロスさせて切り裂こうと飛び掛かってくる。
「受け止めろ、ラグラージ」
ラグラージは両手を前に出して切り裂かれる前に前脚を掴んだ。ヌルは攻撃を止め、着地した後ろ脚を使って離れようとするが、ラグラージは掴んだ前脚を離そうとしない。
「大きな岩を持ち上げたり引っ張り・・・時には大型船を曳くほどの力を持つラグラージに力で勝つのは難しいよ。そのままハイドロポンプ!」
ラグラージの口から勢いよく水流を放ち、身動きできないヌルに直撃した。ヌルは後方へと飛ばされるが、体を翻して見事に着地する。
「パワー勝負では分が悪いか・・・。ヌル、次で最後だ」
グラジオがそう言うと、
「ブレイククロー!!」
手を鉤爪状にしてヌルに指示を出す。
「グオオォォォ!」
ヌルが咆哮をあげてラグラージ向かって走り出す。
「こっちも終わらせよう。れいとうパンチで迎え撃つ」
ラグラージは腕に冷気を纏わせてヌルを待ち構える。
「今だ!!」
ヌルが前脚を突き出してラグラージに飛び掛かると同時に僕が指示を出す。ラグラージはそれに従ってれいとうパンチをヌルの頭部目掛けて放った。攻撃はお互いが相打ちの形で吹っ飛ぶ。ラグラージもヌルも木に叩きつけられ、地面に倒れた。
「ラグラージ!」
「ヌル!」
僕とグラジオはお互いが自分のポケモンの元に駆けていく。ラグラージとヌル。両者とも立ち上がろうとするがダメージが大きく再び地面に倒れる。
「無理するな、ヌル。よくやった」
「ご苦労様ラグラージ。ポケモンセンターまで休んでくれ」
僕はネットボールを取り出してラグラージを戻す。続いてグラジオの方に向き直って次のボールを出そうとすると
「待て、もう十分だ」
グラジオは制止する様に手を突き出した。見ると、ヌルの頭部の仮面にヒビが入っている。
「どうして?。そのヌルはもう戦えないにしても、そこにいるリオルやゾロアが化けていたって事は少なくともブラッキーは持っている筈」
ゾロアは自分の持つ手持ちの何かに化けて出てくる。フィールドに出るまで、トレーナーはゾロアが何に化けているのか分からないのだ。
「このリオルはまだゲットしたばかりで調整中だ。ブラッキーはリオルとの戦いで疲れている」
「こちらがその事情を考慮する理由があるとでも?」
僕がそう言うとグラジオは驚いた顔になったが、直ぐに元に戻り
「好戦的に見せかけているが、バトルの意思の無いポケモンをお前は傷つけることができない性格なのは分かってる。俺は今戦う意思はない」
グラジオがそう言うと、立ち上がったヌルと近づいて来たリオルと共に背中を向ける。
「ちょっと待った!!」
グラジオが立ち去ろうとしているとその先から二人のスカル団の格好をした男女が現れる。
「ボスが高く評価しているから任せてみたけど、それでも負けるなんてね」
女性の方が言い、男性の方が一歩前に出る
「でも、そいつ・・・レーヴだっけか?そいつのポケモンは今弱ってる。やるなら今がチャンスだ」
そう言ってボールを取り出そうとするが、
「オヒア、レフア。やめておけ」
グラジオが二人を制止する。
「お兄ちゃん、用心棒が何か言ってるよ」
お兄ちゃんと呼ばれた男性、オヒアがグラジオの方を見つつ、ボールを取り出す。
「妹よ、先にこの用心棒を叩き潰すか?」
妹、レフアもオヒアに倣ってボールを取り出した。
「俺に勝てた事もないのに、ポケモンを無駄に傷つけるのか?」
グラジオは凄みをきかせて二人を睨む。
「傷つけるだ!?。スカル団に用心棒としているお前の口からそんな言葉を聞くとはなあ」
オヒアは笑いながら言う。すると、ポケギアのメール受信があり、レフアがそれを確認した。
「お兄ちゃん、その用心棒を伴って来いって姉御が」
レフアの言葉にオヒアは僕の方を見る。
「運のいい奴だ。でも、今後もスカル団の邪魔をするならいつか相手になるぜ」
そう言って二人は引き返していく。
「俺としたことが、バトルの心構えができていなかった」
グラジオはこちらに向き直り、腰に手を当てて言う。
「強いやつを相手にするのに、連続でバトルするべきではなかったという事だ」
グラジオはハウの方を見て言う。
「俺が強いやつ?」
「お前は弱くない。ポケモンを鍛えればお前の祖父の様な立派なトレーナーになれる」
グラジオは再び反対側を向き、オヒアとレフアの歩いて行った方を見る。
「このヌルにまともにダメージを与えたのは、ハウと言ったな?。お前が初めてだ」
そう言って歩き始める。
「レーヴ。今日のバトルは俺の負けで良い。だが、いつか本気のバトルをすることになるだろう。あと忠告だ。スカル団には関わるな」
グラジオの左側をリオルが。右側をヌルがそれぞれ歩きながら遠ざかって行く。
「関わるなって言っても。悪事を見て見ぬふりはできないよなぁ」
ハウが頭の後ろに手を組んで言う。
「あのグラジオ、悪人なのかなぁ?」
ハウの言葉に僕はロトム図鑑を呼び寄せてリオルの説明文を出してハウに見せる。
「リオルは心を読むことができるポケモンだ。そんなポケモンがグラジオを信頼して付いて行った。グラジオは、悪人じゃないよ」
「そっかぁ。良かった」
ハウは無邪気な笑顔を浮かべる。
「待っていましたぞ、カヒリ殿」
リリィタウンにあるメレメレ島の島キング・ハラの自宅を訪れたカヒリをハラは迎え入れた。
「まずは座って下さい」
ハラはカヒリをソファに案内し、テーブルを挟んで向かい合って座る。テーブルには弟子がお茶を淹れたグラスを置く。
「アローラ代表として前のオープン・ド・カロスでも優秀な成績で終えたと聞きましたぞ。次のワールドゴルフチャンピオンシップスにもアローラ代表として参加するとライチ殿から聞きましてな」
ハラはそう言いつつ、お茶を飲む。
「他の地方からも多くの強豪が参加しますので、毎回良い結果を残せるとは限りませんが、応援してくれるアローラの人達の為にも全力を尽くします」
「いつもは遠征前に丁度奉納試合を見学に来られますが、今回はお見えになられなかったので心配しましたぞ」
カヒリは飲んでいたお茶を一旦テーブルの上に置く。
「ごめんなさい。練習場で最後の調整をしたいましたので」
「そうですかな。まあ、その奉納試合で面白い少年が優勝しましてな。その少年は今島巡りでアーカラ島に挑戦中との事ですぞ」
「レーヴ君ですね」
「なんと!?。御存知でしたな」
ハラは驚いたように言う。
「偶然ここに向かう際に会いました。彼、私のファンと言ってました」
ハラの自宅で話し込んだ後、カヒリはゴンドラに乗り込んでアーマーガアが飛び立つ。
(ハラさんの息子は脱落から立ち直れず別の地方暮らし。でも、孫がアローラに帰って来て島巡りをするための実力を身に着けるために修行中。・・・彼は達成したのにグレたのよね)
カヒリの乗るゴンドラは再びメレメレ島とアーカラ島の中間の海上を飛び続ける。
(貴方はいつまでこんな事を続けるつもりなの)