「ラ~」
僕の投げたルアーボールから現れたランターンが水中に一旦潜ったのち、湖面に顔を出す。
「頼むぞ、ランターン」
ランターンが提灯を発光させて答える。ヨワシは早速その大口を開け始める。
「気を付けろ、ランターン」
その動作を見て僕は注意を促す。ランターンも一旦水中に潜り、様子見の体勢に入った。潜ったとほぼ同時にヨワシの口から勢いよく水流が、まるでビームの如く一直線に放たれた。
「ラ~!!」
その水流は湖面を叩き割るように撃ち抜き、水中に潜っていたランターンに命中した。そして、その水流は向きを変えて僕の方も襲う。
「うわっ!?」
僕もその水流に襲われてラプラスから転落する。ラプラスが僕の服を咥えて背中に戻してくれたが、僕の持っていた幾つかの道具が湖面に浮かんでいる。
「あれは、ハイドロポンプかな?。凄い威力だったけど」
『違うロト。あれは只のみずでっぽうロト』
「みずでっぽう!?。あの威力で・・・」
僕は空を見上げる。あの主が現れる少し前から、激しい雷雨に天候が変わっている。
「なるほど、この雨か」
雨で無限に水を供給する関係で、雨が降っている時は水タイプの技の威力が上がる。反面、炎タイプの技の威力が下がる。
「天候が味方する状況、よく練られたフィールドだ」
帽子に溜まった雨水を落とし、深くかぶり直す。
「でも、それはこちらも同じ」
僕が言ったと同時にランターンが再び湖面から顔を出す。
「なみのり!!」
ランターンの背後から波が起こり、その波がヨワシを襲った。流されたヨワシは飛び出た岩に体をぶつけるが、直ぐに戻ってくる。
「多少は追加ダメージを与えられたと思うが・・・」
ヨワシは咆哮を挙げたかと思うと、近くに別のポケモンが顔を出す。
「ロトム、あのポケモンは?」
僕がロトム図鑑に尋ねると、ロトム図鑑が横に来て画面にそのポケモンの姿を映し出す。
『ママンボウ、かいほうポケモン。大海原に暮らし、傷ついたポケモンを見つけるとその特殊な粘液を使って回復させる』
「それは・・・良い能力だがこの場合は厄介だな」
そう言った矢先、ママンボウは口から水を吐き、空中でそれをリング状に形成してヨワシの周りを包み込んだ。
『アクアリングロト。あれで体力を回復したロト』
「さすが、快方ポケモン」
激しい雨が降り続ける中、ランターンとヨワシが正対する。ヨワシの少し後ろにはママンボウが控える体制となった。僕はヨワシから視線を外し、チラリと左を見る。
(なんとか、間に合ってくれよ)
再びヨワシに視線を戻すと、再びヨワシがその大きな口から水流を発射しようとしている。
「ランターン、さっきより深く潜れ」
僕の指示にランターンが水中に潜る。それと同時にヨワシがみずでっぽうを発射してランターンが潜った手前から撃ち抜いて来たが、ランターンがより深く潜ったために外れる。ヨワシはそれを見て水中に潜ってランターンを追いかけ始める。
「あやしいひかり」
水中では多くの技の威力が減衰するが、光なら通る。ランターンが提灯部分から青紫の光を放った。
「よし、混乱した」
真っ直ぐにランターンを追っていたヨワシから進路が左右にブレ始める。
「ママンボウを狙え。れいとうビーム」
ヨワシが混乱している隙にランターンが浮上し、今だ湖面にいるママンボウにれいとうビームを放った。
「よし、凍った」
ママンボウは周囲の水諸共に凍り付き、行動不能となる。同じく浮上してきたヨワシが湖面に顔を出したと同時に
「なみのり!」
波を起こして凍り付いたママンボウ諸共ヨワシを流した。
「よし、ママンボウは仕留めたぞ」
ママンボウは岸に打ち上げられ、目を回している。
「雨が降っているから大丈夫そうだが、後でちゃんと湖に戻してあげるからな」
水ポケモンで陸上に適応していないポケモンは長時間陸上に放置するわけにはいかない。
「ランターン、もう一度潜れ」
ランターンが水中に潜ると、ヨワシが混乱する中口を大きく開けて水流を発射する体勢になる。
「来るぞ、気を付けろ」
発射されたみずでっぽうは水中にいるランターンに直撃した。しかも、最初に喰らったみずでっぽうよりも威力が上がっていた。
「たった二発喰らっただけで、ここまで消耗するのか」
ランターンは湖面に顔を出すが、その表情は明らかに体力の限界を示している。
『レーヴ、ママンボウが戦闘不能直前にてだすけをしていたロト。それで技の威力が上がっていたんだロト』
ロトム図鑑が解説してくれる。僕はランターンの方を見て
「ランターン、もう少し頑張ってくれ」
と言う。僕の言葉にランターンが提灯部分を発光させて答え、僕はヨワシから視線を外して左を見た。
(よし、間に合った)
僕はそう思い、ヨワシに視線を戻す。
「ランターン、もう一度潜れ」
ランターンが潜ると、ヨワシも追うように潜ってランターンを追いかける。
「あやしいひかり」
再び青紫の光を放ち、それを見たヨワシは混乱する。
「そのまま浮上」
ランターンは向きを変えて浮上し始める。ヨワシも混乱しているのを物ともせずに追いかける。
「主として、同じ水ポケモンには負けないという矜持か・・・」
徐々にランターンに追いつくヨワシを見て、僕は言う。
「ランターン、方向転換」
真っ直ぐ湖面目指して浮上していたランターンはヨワシに追いつかれる寸前に方向転換して避ける。ヨワシはそのままの勢いで水上へとジャンプしてしまった。
「ハイドロポンプ」
そこへ左からのハイドロポンプが命中した。ヨワシは何が起こったのか理解できないのか、一旦水中に逃げた。
「よくやった、ラグラージ」
僕が左側を見ると岸に岩で囲われた場所があり、その岩の上からラグラージが顔を出した。
「はえ~、レーヴはいつの間にラグラージを?」
見物していたハウはレーヴを見ながら言う。片手にはスイレンが渡したと思しき和傘をさしている
「最初にヨワシがみずでっぽうを放った際、レーヴさんが道具を落としたのに気付きましたか?」
スイレンがハウの疑問に答える。
「その時レーヴさんボールは直ぐに回収したんですが、一つだけボールを開けていたんです。それが、あのラグラージが入っているボールでした」
スイレンは岩で囲われた場所を指差し
「その後でラグラージはこっそりとあの場所に移動。もともとあった岩を積み上げ、足りない分は水中や別の場所からかき集めてあの要塞を築きました」
「スイレンさん、よく見えてたね。俺なんか全然見えなかったよ」
ハウが感心する様にスイレンを見て言う。
「ハイ、私は家の手伝いで海に出ますので。頻繁に遠くを眺めたりする関係で目は良いんです」
ヨワシは状況を理解したのか、湖面に現れてラグラージが潜む岩の要塞に向かってみずでっぽうを放った。しかし、岩を貫けずに阻まれてしまう。
「ハイドロポンプ」
岩に囲われていてラグラージの姿は見えないが、ヒレのお陰でヨワシがどこに居るのか正確にラグラージは把握している。岩の隙間からピンポイントに放たれたハイドロポンプはヨワシに命中し、空中に飛ばされる。
「ランターン、止めを刺すぞ」
ランターンは湖面に顔を出した。
「この天候のお陰で必中技だ。かみなり!!」
ランターンの提灯部分から帯電している光の玉を空中に発射する。光の玉は雲に到達したかと思うと、ヨワシ目掛けて雷が落ちた。ヨワシはそのままママンボウの近くの岸に同じく倒れた。
「うわー、これがヨワシの本体か」
潤んだような体長に比して大きな目を持った白と青い体を持ったポケモンがピチピチと地面の上をはねている。
「戦闘不能にしても、元気に跳ねるんだね」
僕の手の上に載ったヨワシもまだ跳ねている。ラグラージがママンボウを抱えて湖に戻すと、ママンボウはランターンと共に泳ぎ始めた。
「ランターン、ママンボウに付いてそのまま海には出ないでくれよ」
ランターンが答える様に提灯を発光させてママンボウと共に潜った。僕は跳ねるヨワシを湖に帰しているとスイレンとハウがやってくる。
「レーヴさん、おめでとうございます。私が丹念に育てて鍛え上げたヨワシを倒されるなんて」
「丹念に育てて・・・・鍛え上げた?」
僕はスイレンの言葉に一瞬理解が追いつかなかった。
「え?だって・・・釣り人から苦情とか・・・え?」
「ああ、その話しですか」
スイレンはそう言うと、舌を出して
「嘘です」
と言った。
「では、試練達成の証です。これを受け取ってください」
スイレンは僕に青く透き通ったひし形のクリスタルを渡す。
「それはミズのZクリスタルです。私、スイレンの水の試練を突破した証でもあります」
そう言ってスイレンは数歩後ろに下がり
「そして、Z技を発動させるためのポーズはこれです」
そう言ってスイレンは顔の前で腕をクロスさせ、大きく回したのち再び腕をクロスさせたまま前に突き出すように止め、体の左側で波を意識する様に腕をユラユラと揺らして体の右側に腕を持って来て止めた。
「これが、ポーズです。覚えて下さい」
そう言ったと同時に、雨が止んで太陽が出る。
「さて、雨が上がったみたいですし五番道路のポケモンセンターまで戻りましょう」
スイレンがそう言うなり、振り返って歩き始める。僕とハウもそれに付いて行った。帰り道に赤いギャラドスを釣った話やマナフィ―に会ったことがある話をされたが、僕やハウが驚いて聞き返したりすると『嘘です』や返答を濁されたりした。
「次の試練場所はヴェラ火山の公園ですね。元来た道をオハナ牧場まで戻って南下すればたどり着けますよ」
五番道路のポケモンセンター前まで戻って来るなり、スイレンは振り返って言う。
「あ~、そっちはウソッキーが封鎖してて通れないんだ。レーヴ、別の道から行こう」
ハウが僕の方を向いて言ってくる。するとスイレンが口に手を当てて
「またあのウソッキー達は悪さをしてるんですね。・・・大丈夫ですよ。先ほど渡したミズZのZ技を繰り出せば逃げていきます」
「そうなの?」
ハウが聞き返すと、スイレンは笑顔になり
「はい。あの子たち、前にも同じ悪さをしたのでお仕置にミズZを放って追い払いましたから。多分、ミズZの恐ろしさは覚えていると思いますよ」
「ウソッキーにみずタイプの技は効果抜群なのに・・・更に威力の高いZ技を使うなんて・・・」
僕はスイレンの方を見て小声で言う。
「それじゃあレーヴさん、ハウさん。私はこれで失礼します。釣りの話をしていたらしたくなりましたので。あ、今度せせらぎの丘に訪れたら良い釣りスポット紹介しますね」
そう言ってスイレンはせせらぎの丘の方に戻っていく。僕とハウはそれを見送り
「スイレン、底の知れないキャプテンだ」
「嘘なのか本当なのか、分からなかったね~」
そう言い合った。
「フフフ、あのレーヴさんのポケモン。強かったな~」
せせらぎの丘の浮き橋を渡りながらスイレンはそんな独り言を言う。
「それに、水ポケモン。ランターンとラグラージ、可愛かった」
その時、湖面に巨大な影が現れて浮き橋を渡るスイレンに近づく。そして、渡り終えたスイレンの近くの岸で影が姿を消す。
「でも、やっぱり一番かわいい水ポケモンは」
その瞬間、巨大な水しぶきを上げて水しぶきに劣らない位巨大なポケモンが岸に上ってくる。蜘蛛のような出で立ちで頭の周りと脚の関節部に水泡を有する体長三メートルは有ろうかと思えるポケモンだった。
「オニシズクモですね。あまごい、ご苦労様」
「あわあわあ!!」
水泡から泡を発生させてスイレンの言葉に答えたオニシズクモと呼ばれたポケモンはスイレンの後に付いてせせらぎの丘奥地へと入って行った。
「雨が止んだようだな」
アーカラ島、ヴェラ火山と呼ばれた火山の火口付近に設けられた木組みのフィールドの上に赤と黒のメッシュの髪、上半身半裸のズボン一丁の出で立ちでせせらぎの丘方面を眺める少年が居た。
「スイレンの試練を突破したという事は、次に俺の元に来るのか」
その少年の後ろには三匹の青緑色の炎を纏った骨を持つポケモンが骨を回転させながらダンスをしていた。
「よし、来た時に備えてもっとダンスのキレを磨いておくぞ」
そう言って少年は三匹のポケモンと同じような骨を持ち、共にファイアーダンスを始めた。