順調にアローラ地方に向けて飛行していたのだが、目的の島が見えた辺りでエンジンから黒煙が出始めた。
「ヤバイ!!」
エンジンから黒煙が出たと同時に高度が下がり始める。レーヴは安全に着水させるために何とか姿勢を安定させるが、推進力を失っているので速度も高度も下がっていくのは変えられない。
「何とか、着水した」
僕はハッチを開けてエンジンの方を見た。幸い、エンジンから火災は起こっていないようなので安心して座り込んだ。
「さてと、もう少しだから曳いて貰おう」
上着からネットボールを取り出し、中のポケモンを機内に出す。
「ラージ!!」
出したのはラグラージである。ラグラージはボールから出るなり僕の方に寄って来ては頬をすりすりする。いつもの愛情表現だ。
「痛いよ、ラグラージ。すまないけど、外に出てこの機を曳いて欲しいんだ」
「グラ」
ラグラージは頷くなり、ハッチから外に出て機体の前に回る。僕もハッチから主翼に上り、曳くためのロープを点検口ハッチから取り出してラグラージの方に投げた。
「頼むよ、ラグラージ」
ラグラージはそれを受け取ると島の方に向かって曳き始めた。
暫く曳いた頃、ラグラージが機体に近づいて窓をノックし始める。
「どうしたラグラージ?」
僕はその窓に寄って尋ねるとラグラージは身振り手振りで説明し始めた。どうやら、ラグラージのレーダーに何か反応があったらしい。ラグラージのヒレはミズゴロウ・ヌマクロー時代から変わらずにレーダーとしての役目を持っている。
「分かった、行っておいで」
そう伝えると、ラグラージは猛スピードで反応があったであろう方角へと泳いでいく。ラグラージの泳ぐ速度はジェットスキーに例えられる位に速い。遠くに見えたと思っても次の瞬間には近づいているのだ。
また暫くするとラグラージが戻ってきた。その背中には一人の少女を乗せていた。
「大変だ!」
少女をラグラージの背中から機内に引っ張り上げると床に寝かせる。ラグラージも機体をよじ登って機内に入ってくるなり、心配そうに少女を見る。
「グラ・・」
「心配しなくても大丈夫だ。気を失っているだけだ」
そう言って僕は少女を見る。白い肌に長い金髪、白いノースリーブワンピースを着ていて大きなスポーツバックを持っている。スポーツバックは兎も角、どこかのお嬢様と言うような感じだった。
「ともかく、服を乾かさないとな」
機体後部からドライヤーを持って来て温風を出して服を乾かし始める。ラグラージはその様子を見た後、再びハッチから外に出て機体を曳き始める。
「ふう、ようやく乾いたか」
ドライヤーで少女の服を乾かし終えたのでドライヤーを片付けに戻ろうとしたところ、少女の瞼がうっすらと開くのを見た。
「気が付いた?」
そう僕は少女に尋ねたところ
「ひいっ!?」
少女は驚くなり、目にもとまらぬ速さで壁際に行く。その驚き様にこっちも驚いてしまった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
少女は明らかに震え、怯えている。目からは少し涙が出ている。
「弱ったなぁ」
僕は頭を掻きながら考え込んでしまう。どうしたらよいものか・・・
「ここは、何処ですか?」
ようやくまだ怯え、警戒はしているが意思疎通を図ろうとしてくれたようだ。
「アローラ地方に入っているのは間違いないんだけど、何処って言われてもなあ。メレメレ島近くの海上としか言えないかな」
生憎、アローラ地方には今日来たばかりなので正確に何処って答えられない。
「では、・・
「え?ああ、海を漂流してたけどラグラージが見つけてくれたから助かったよ」
僕は機体を曳くラグラージを指さして言う。少女は指の先にいるラグラージを見る。
「そうですか」
そう言うなり、少女は立ち上がりワンピースの裾を摘まんで少し持ち上げつつ
「助けてくれてありがとうございます。私はリーリエと申します」
そう、お礼と自己紹介してきた。僕も立ち上がって
「僕はレーヴ。今日この地方に越してきてる最中だよ。宜しく」
その言葉にリーリエと名乗った少女はお辞儀をする
「こちらこそ、よろしくお願いします。・・・・あの、レーヴさんはカロス出身の方ですか?」
顔を上げるなり、リーリエは聞いてくる。いきなり出身地を当てられて僕は驚く
「驚いた。出身地を当てられるとは思わなかったよ」
「名前が・・・カロス地方の古い言葉にありますので」
「うん、僕は最高の名前を名付けてくれたと思うよ」
リーリエは笑顔になるが、何かに気づいたように頭を触る。
「帽子!、私の帽子は知りませんか!?」
慌てた様子でリーリエは僕に聞いてくるが、心当たりはない。
「いや、近くにあったらラグラージが一緒に持ってきたと思うけど、帽子を持っていなかったし、多分近くには無かったんだと思う」
「そうですか・・・」
リーリエは再び座り込んでしまう。その様子を見て、よっぽど大切な帽子だったのだろうと僕は思った。
ラグラージに曳かれ、メレメレ島のメレメレ乗船所のドックに到着した。船台に機体を載せて海から引き上げられる。メレメレ島をはじめ、アローラ各所にある乗船所は船のメンテナンス等も行えるようドックを保有しており、その内の一つに修理のため入渠したのだ。
「エンジンのタービンブレードが破損して、中の燃焼室などを傷つけてます。完全な金属疲労ですねえ。こりゃあ、交換しかできませんぜ」
作業員がエンジンをチェックすると直ぐに原因が分かったのか、下に居る僕やドックの親方の方を見て言う。
「だそうだ、ニイチャン。エンジンを交換しなきゃならない。序に、艇体をメンテするから図面が欲しい。何処で作られたんだ?」
艇底には貝やフジツボが付着しており、機体の外板も
「エンジンはデボンコーポレーション、胴体はクスノキ造船所です」
「そうか、分かった。まあ心配するな。ウチの職人は皆優秀だ。綺麗に直してやるからよ」
安心させるように親方は肩をバシバシ叩く。力仕事をしているために力は強く、少しよろめきそうになる。
「よ、よろしくお願いします」
それを聞いた親方は他の船大工たちに指示するために歩いて行く。僕はリーリエを探すと船台近くでラグラージにお礼をするようにお辞儀をしていた。
「ここまでご苦労様ラグラージ」
僕もお礼を言いにそちらへ歩く。ラグラージは照れたように片手で頭の後ろを搔いている。
「やっぱり、ラグラージさんも帽子は見ていないと言っています」
リーリエはこちらに向き直って言う。それにはラグラージも申し訳なさそうにしている。
「あ!、いえ。ラグラージさんのせいではありません。私が確りとしていれば」
リーリエはラグラージの方を向き直って言う。僕もこれ以上気まずくなるのも嫌なのでネットボールを取り出す。
「ラグラージ、ここまでご苦労様。ゆっくり休んでくれ」
ラグラージを戻すとリーリエは再びこちらを向く。
「すみません、私のせいで。助けて頂いたのにラグラージさんに嫌な思いをさせてしまったでしょうか?」
リーリエは申し訳なさそうに下を見ている。
「気にしなくて大丈夫だよ。でもリーリエさん、そんなに帽子は大事なものだったんですか?」
「あ、私の事はリーリエで構いません。帽子、というよりもあれに付いてたのはおにぃ・・あ、いえいえ何でもありません」
最後の方は聞き取りにくくて分からなかった。しかし、本人が良いとはいえ女の子を呼び捨てにするのは・・・・
「リ、リーリエ・・・」
どうにも慣れない。
「はい、何ですかレーヴさん?」
・・・僕の事は呼び捨てにしてくれないようだ。
僕とリーリエは船大工達の仕事の邪魔しないよう、ドックの外に出て海岸線を歩いて行く。
「そうだ、これからどうする?ご両親が心配していると思うし、一旦家に帰らないと」
その瞬間、リーリエの顔は一瞬で青ざめる。白い肌なのが本当に青くなったように、血の気が引いている。腕も痙攣しながら自身を守るように両肩に触れる。歯もガチガチと音を立てる。そして、その場に座り込んだ。
「ちょ、リーリエ!どうしたの!?」
あまりの豹変ぶりに慌てて僕もしゃがんでリーリエの顔を見る。絶え間なく歯が音を鳴らしているが、その隙間から微かな声が漏れている。しかし、聞き取れない。目の焦点も合っていないようだった
「リーリエ!、リーリエ!!」
僕は肩を揺すって何とか正気に戻そうとする。雪のように白い肌は本当に雪のように冷たく感じる。
「・・・ごめん」
そう言ってレーヴはリーリエの頬を軽くビンタする。それで正気に戻ったのか目の焦点が合い、痙攣等も治まってくる。
「あ、私・・・は?」
先ほどの記憶が抜け落ちているのか、茫然としてリーリエは僕を見てきた。
「ごめん、リーリエ。あのままじゃあ極度のストレスで失神しそうだから強引に戻した。その為に、頬を軽くとはいえビンタした」
リーリエは痛みに気付いたのか、ビンタした頬を撫ぜる。
「いえ、すみませんレーヴさん。家の方は大丈夫ですので・・・」
「え?・・・分かった。」
僕はそう言うと立ち上がる。
(あの症状、普通じゃない。家に帰るのがそんなにトラウマなのか・・・?)
考え込んだが分からない。
「じゃあ、どうしようか?僕はこれから自宅に行くのだが・・・」
それを聞くなり、リーリエも立ち上がった。
「あの、私も一緒に連れて行って貰えませんか?」
いきなりの申し出に再び僕は驚いた。危うく変な声が出そうにもなった。
「ちょ、リーリエ。良いのかい?」
なるべく平静を装って聞くが、心臓は鳴りやまない
「はい。大丈夫です」
リーリエは笑顔で答える。先ほどの症状が嘘みたいだった。
「そ、そうか」
僕はそう言って歩くのを再開する。内心は・・・・まだ心臓が鳴りやまない。ドキドキしている。
「ん?あれ?・・・リーリエ?」
後ろを振り返るとリーリエが付いて来ていないことに気付く。先ほど足を止めた所から動かず、何やら提げているスポーツバックに話しかけているようだった。
「あのスポーツバック・・・」
前後にモンスターボールの装飾をあしらった白い大きなスポーツバック。彼女の服装とあまりに不釣り合いなそのスポーツバックが時々揺れている。彼女が
「あ、待って下さい、レーヴさん」
リーリエはそう言うなりこちらに駆けてくる。色々と彼女には事情がありそうだ。
ようやくポケモンを出せましたが、鳴き声をどうしようか最後まで悩みました。
最終的にラグラージは主に種族名を
主人公やオリキャラ、その他のトレーナ等も殆どが手持ちポケモンを既に決定していますので、今後登場していきます。原作では殆どトレーナーとして活躍しなかった彼女も既に手持ちを設定しています。その際は原作の手持ちは泣く泣くリストラ(泣)
では、次回にまた。