海岸線を歩き、ハウオリシティの街外れにあるログハウス。これが、今回母が購入した家のようだった。
「さて、緊張するなぁ」
後ろにはリーリエがいる。いきなり見知らぬ少女と一緒に自宅に入って母親に何て説明すれば良いか凄く迷う。その思いが玄関のドアを開けようとする僕の手を止める
「開けないのですか?」
その後姿を見てリーリエは不思議そうに僕に尋ねる。
(うん、リーリエ。今の君なら自宅にも帰れるよ)
そんな風に悩んでいると不意に玄関が開いた。中からはニャースが歩いて出てくる。
「ギニャァ」
ニャースは鳴くなり、家の中に戻っていく。
「ちょっとレーヴ、そんな所に突っ立ってないで。先ずは『ただいま』でしょ」
奥からは母親の声がする。久しぶりに帰ったら、自分の息子に黙って引っ越しをしてて、自分が玄関先で悩んでたのが
「何なんだろう?この普通の対応」
馬鹿らしいと思えるくらいの普通な対応だった。まあ、これが母親の良い所でもあると言えばそうだが。
「相変わらず、状況を軽く考えるというのか・・・あまり深刻に考えないんだね、母さん。・・・・ただいま」
「一言余計よ。お帰り」
安心する。何処まで行っても、母親は母親だ。
「あのー・・・」
リーリエがドアの所に立って申し訳なさそうにしている。それを母親が一瞥し
「何?彼女?・・・。アンタ、ここに来ていきなりナンパしたの?。なら遅くなったのも許すけど」
「本当に状況を軽く考えますね、母さん」
ごめん。今度は怒りが込み上げてきた。リーリエは戸惑ったようにアタフタしている。
「そう。リーリエちゃんも大変ねえ」
ここまでの状況を母親に説明し終えた所で母さんはリーリエの方を向いて言う。リーリエはとりあえず事故で漂流していた事にしておき、家に関しては一切触れないように説明しておいた。
とりあえず、自分の荷物を自分の部屋として使う所に運び込んだ。引っ越しして少し時間が経っているので家の中は粗方片付いていた。あとは僕が到着して自分の荷物を整理するだけとなっていた。
「っと、こっち来て色々とあったから忘れる所だった」
アローラに来る前にオーキド博士から預かった荷物。最初にククイ博士に渡そうと思っていた荷物が出てきた。
「母さん、ごめんだけど。今からククイ博士の所に行ってくるね」
母さんは台所で食事の準備をしており、リーリエもそれを手伝って野菜を切っていた。
「あ、待って下さいレーヴさん」
リーリエが呼び止めようとしたが、レーヴはそのまま出ていく。
「もう!」
リーリエは溜め息を付きながら言う。それを見ていた母親は
「行ってきなさい」
リーリエは驚いたように母親を見る。
「大丈夫よ、私一人でも。今夜はククイ博士とその奥さんも呼んでのバーベキューだけど、殆ど下ごしらえは終わってるのよね」
台所の下の扉を開けると既に幾つかの料理が準備できていた。
「それに、短い距離とはいえリーリエちゃんはあの子と一緒に来た。今までそんな事無かったのよ、あの子。遊ぶのは常にポケモンと一緒だけど、裏を返せばポケモンとしか一緒にいなかった」
母親はレーヴが出て行った扉の方を見ながら言う。
「そんな風に見えないかもしれないけど、あの子はあまり他人と関わらなかったの。そりゃあ、何人かとは関わったわよ。ククイ博士もその一人ね。でも、同年代では私が知る限りリーリエちゃんが初めてね」
母親はリーリエの方に向き直ってから、
「だから、貴方には一緒に居て欲しいの。この先も。恐らく、あの子はまた旅に出るから」
そう伝えた。リーリエはそれを聞くなり、椅子の上に置いてあったスポーツバッグを肩に提げると
「分かりました、お母さま。行ってまいります」
リーリエは急いでレーヴの後を追うように出ていく。母親はリーリエの切りかけの人参を掴んで持ち上げる
「それに、この腕じゃあ幾ら食材があっても足りなくなっちゃうし」
切ったつもりが切れていない、片側が繋がった人参が伸びていた。
「レーヴさん、待って下さい」
僕が浜の方にあるククイ博士の研究所に向かって駆けていると、家の方からリーリエの声がする。振り返るとリーリエが慌てた様子でこちらに向かって来ていた。
「リーリエ、どうしたの?」
リーリエが追いつくなり、僕は聞く。リーリエは息を整えると
「私も一緒にククイ博士の元に行きます」
そう宣言する。
「別に構わないけど、ただ荷物を渡しに行くだけの予定だけど」
僕は歩くのを再開して浜辺の研究所兼ククイ博士の自宅に到着する。
「ここですか?」
リーリエが横に来て聞いてくる。
「うん、聞いてる場所はここの筈だけど」
僕は中に入るために段差を超えようとしたら、中から音と声が聞こえてくる。
『うお!、良い技の威力だ!!』
『ドゴン!!』っという何かが壁に叩きつけられるような音がしたかと思うと、中から男性の声が聞こえる
『よ~し、もういっちょ来い!!』
再び、今度は『パリン!!』という何かが割れるような音が聞こえる。
『よし、最後に全員で来い!!』
その言葉と同時に『バキッ!!』という音と共に人影が天井を突き破って出てくる。その人影は重力に従い空中を暫く飛んだ後はリーリエの近くに落下した。
「ひゃあ!?」
リーリエは驚いて尻もちをつく。僕はリーリエの所に駆けよって立つのを手伝いつつ
「まさか技の研究って、自らに打ち込んでやっているんじゃないですよね?」
先ほど宙を舞った人影。上半身裸の上に白衣、グレーの短パンにサングラス姿の男性を見る。
「オーキド博士から聞いたが、電光石火のように到着が早くて助かるよ。それと、ポケモンの技をその身に受けないと分からんこともあるんだよ」
男性は立ち上がりながら僕の方を見て言う。
「直接会うのは8年ぶりですかね、ククイ博士。お久しぶりです。それと、」
「アローラ。初めまして、ククイ博士。リーリエと申します」
僕が紹介しようとするとリーリエは一歩歩み出てスカートの裾を摘まみ、少し持ち上げてから名乗る。
「アローラ。初めまして、リーリエ。僕はポケモンの技に関して研究しているククイだ」
ククイ博士はリーリエの挨拶に答えたのち、僕の方を見る。
「元気そうで良かったよレーヴ。あの時と変わらず、ポケモンが好きなのはお母さんから聞いたよ」
僕は上着から一つのスーパーボールを取り出し、中のポケモンを出す。
「ララ~」
中から出てきたラランテスは鎌を前方に構えて戦闘態勢になる。
「ラランテス、別にバトルの為に出したんじゃないよ」
「ラ?」
僕の言葉にラランテスは構えていた鎌を下ろす。ククイ博士はゆっくりとラランテスに近づく。
「ほお、非常に鮮やかな体色だ。ラランテスの鮮やかな体色を保っているって事は、かなり手入れをしている証拠だ。ポケモンが好きなのは本当に変わってないんだな」
ククイ博士は近づくなりラランテスを観察しながら言った。
「本当、綺麗なポケモンですね」
そう言ってリーリエもラランテスに近づこうとする。
「リーリエ、危ない!!。ラランテス、止まって!!」
急に近づこうとするリーリエに反応してラランテスが下ろした鎌を再び上げ、切り裂きにかかろうとしていた寸前で止まる。
「きゃあ!」
リーリエは驚いて後ずさった。
「ごめん、リーリエ。怪我はしてない?。ラランテスは急に動いた者を敵と見なすんだ」
「は、はい。大丈夫です。こちらこそ御免なさい。ラランテスさんにそんな習性があるなんて知らなかったです」
リーリエはラランテスの方にお辞儀をしながら謝る。ラランテスは落ち着いたのか、鎌を下ろした。
「このラランテスは警戒心が強いのか特にね。でも、もう仲間と認識したから大丈夫だよ」
「ララ」
ラランテスも謝るようにお辞儀する。
「そうだ、ククイ博士。オーキド博士から頼まれていた荷物です」
僕はバッグの中から段ボールを取り出し、ククイ博士に渡す。
「お、やっぱり頼んで正解だったな。船便だと十日くらい待たなきゃいかんからな」
ククイ博士はそれを受け取ると研究所の中に持ち込む。
「それじゃあお二人さん、今夜はレーヴのお母さんがバーベキューやるそうだからまた後でな」
僕とリーリエはククイ博士の研究所を離れ、家路についている。
「アローラか。こっちでの挨拶なの忘れてた」
「私も、最初は慣れませんでしたが今では自然に言えるようになりました。レーヴさんでしたら直ぐに言えるようになりますよ」
その時、リーリエが提げているスポーツバッグが突然激しく揺れ始める。
「あ、駄目です。おとなしくして下さい!」
リーリエの言葉も空しく、スポーツバッグのジッパーが外れて中から
「待って、ほしぐもちゃん!!」
リーリエはそう言うなり、ほしぐもと呼ばれた
「待って、リーリエ。野生のポケモンがいるかもしれないから」
ポケモンを持たない状態でもし野生のポケモンに遭遇したら危険に晒される。僕は急いでリーリエの後を追う。
ほしぐもと呼ばれた
「マハロ山道。この先戦の遺跡。神聖にして犯すべからず」
僕は看板に書かれたことを読み上げる。この先にリーリエは入って行ったのだ。僕も急いで山道を駆け上って行く。
山道を上った先には滝があり、川の上を繋ぐ木製の吊り橋が掛かっている。その手前にリーリエがいた。
「リーリエ、大丈夫?」
「あ、レーヴさん。ほしぐもちゃんが、ほしぐもちゃんが」
リーリエの元に駆け寄ると、リーリエが涙目でこちらに訴えてくる。僕は吊り橋を見ると、ほしぐもと呼ばれた
「あれは、ポケモン・・・なのか?」
初めて見る存在だった。体色は紫っぽく、手と思われる部分は青い。輪郭はほしぐもっと呼ばれるだけあって本当に星雲みたいでゆらゆらと揺れている。
「お願いしますレーヴさん。ほしぐもちゃんを助けて下さい!!。ほしぐもちゃんはとても弱い存在なんです。このままじゃあ」
リーリエは今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「分かった。行くよ」
僕は揺れる吊り橋に足を踏み入れる。ポケモンを使ってオニスズメを追い払いたかったが、オニスズメがほしぐもに近すぎるので、技の巻き添えになりかねない。また、下手に攻撃して吊り橋のケーブルや桁を破壊したら吊り橋が落ちる。それは避けたい。
「ほしぐも、今行く」
オニスズメが吊り橋のケーブルに触れたり、強い風を受けて吊り橋が揺れる。そんな不安定な振り橋の上を慎重に歩いてほしぐもの許へと向かう。
「よし、大丈夫だ。もうちょっとの辛抱だぞ」
何とかほしぐもの許へとたどり着いた僕はほしぐもの上から覆いかぶさる形になって守る。オニスズメは自分たちの獲物を横取りされたと思ったのか、今度は僕へと攻撃してくる。
「痛い、痛いよ」
鋭い鉤爪状の足とくちばしで攻撃されて軽く出血する。
「レーヴさん!!」
リーリエが叫ぶのが聞こえる。僕は安心させるため、そしてほしぐもを救うために抱えて立ち上がろうとした時に突然橋が破壊される。
「え?」
ケーブルが切れたのか、もしくは桁が破壊されたのか。何れにせよ、僕は下の川に向かって落下を始める。
「待っ!!」
その時、上空からもの凄い勢いで急降下してくる
「コケ~!!」
その
「コケ~コ」
僕とリーリエがその
「何だ、こいつは」
突然現れ、オニスズメを吹き飛ばして僕を助けてくれたが、味方なのか敵なのか判断できない。僕は念のためポケットの中にあるモンスターボールを掴もうとすると
「コケ~!!」
再び鳴き声を挙げ、その
「レーヴさん、ほしぐもちゃんを助けて頂いてありがとうございました」
リーリエはお辞儀をしてお礼を述べる。僕はそのほしぐもを放してあげる。ほしぐもはリーリエの許に移動していく。
「もう、ほしぐもちゃん。レーヴさんに迷惑かけて。・・・さあ、ここに戻って」
リーリエはスポーツバッグを開けてあげる。ほしぐもは素直にそこに入るなり、眠ったのか動かなくなる。
「リーリエ、そのポケモンは?」
「レーヴさん、この子の事はあまり他言しないようお願いします」
リーリエが念を押して言ってくる。その目は詮索しないでと言っているようだった
「わ、分かった」
僕は同意し、立ち上がる。
「それにしても、あれもポケモンなのか?飛び去る直前に電気みたいなのを発していたが」
立ち上がるなり、ガラス状になった場所に近づく。あのポケモンがいた場所は砂がガラス状になっており、その周囲は焼け焦げている。そのガラス状の砂の上にガラスとは別の石を見つけた。
「これは?」
僕はそれを拾い上げて観察する。その石はキラキラと輝いており、中央が窪んでいる。まるで
「一応、手掛かりになりそうだし持っていこう」
僕はあのポケモンの正体を知る手掛かりになるだろうと思ってバッグの中にそのかがやくいしを入れる。
「リーリエ、陽も落ちそうだし帰ろう。今夜はククイ夫妻を招いてのバーベキューだ」
気持ちを切り替えてリーリエに言う。
「はい、レーヴさん」
リーリエもそれに同意し、一緒にマハロ山道を下って行った。