Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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序章: Left Fathers
序章: Left Fathers (1) ― The end and the beginning


君の愛したもの

私はそれを守れただろうか

 

君が尽くしたもの

私はそれに応えられただろうか

 

君が目指したもの

私はその道筋を示せただろうか

 

君が信じ続けるもの

私は今度こそ悔いるまい

 

―この終わりなき世界の中で―

 


 

「一護、話がある」

 

喪服を着た、髭面の男がそう言った。

 


 

三界を巻き込んだ滅却師の一団との戦いから、そろそろ半世紀近くが経過しようとしていた。激動の数年間が過ぎ、ようやく平穏な時を取り戻した世界。「英雄」黒崎一護の息子に端を発した地獄を巡る一件も落ち着いて既に三十年以上が過ぎ去り、一勇も立派な好青年に成長している。そう、半世紀という時間は、時の流れに寛容な尸魂界にとってはあっという間の事に過ぎないが、現世に生きる人間からしてみれば人生の半分にも匹敵するとてつもなく長い時間なのだ。

黒崎一護の戦いに関わった多くの存在は死神や虚といった悠久の時を生きる存在だが、一方で彼自身もその友達も定命の存在であり、彼らは必然的に成長し、老いていく。そして、ついにある人物が現世を去ったのだった。

 


 

「全く、だからあの人は駄目なんだよ。」

眼鏡を拭いながら、石田雨竜はそうぼやいた。相変わらず眉目秀麗な顔立ち、そして細身でありながら老いを感じさせない体つきは健康そのものといったところだが、白の似合う彼も今日ばかりは黒衣に身を包んでいる。

「あれだけ煙草吸ってれば、そりゃ体をやって当たり前だろう。医者の不養生にも程があるよ。」

「まあそう言ってやるなって。親父さんも何かに頼りたかったんだろ。」

式場の外で彼と並んで空を眺めているのは半世紀の悪友、黒崎一護だ。彼もまた老いを意識する年齢のはずだが、還暦が見えてきているとはとてもではないが思えない若々しさを保っている。白髪になる気配もまるで感じられず相変わらずオレンジ色の頭だが、若い頃に比べて随分と表情は柔らかくなった。

「不出来な息子がストレスをかけてたのが悪かったんじゃねーのか?」

「君と一緒にしないでくれるか?そもそも悪いのは向こうだったんだから……」

雨竜の父、竜弦は滅却師としての実力を持ちながらその力を行使しようとせず、その経緯から息子との関係性は非常に冷え切っていた時期があった。結局幼いの心を傷つけた、母の亡骸を解剖した事件まで含め、ユーハバッハとの戦いを終えた今は真意もわからない雨竜ではないが、それでもやはり父親の方に責を負わせたくなるのは人情だろう。

そう、対ユーハバッハ戦の功労者の一人でもある、石田竜弦がついにこの世を去ったのだ。喜寿になるまで空座総合病院の理事長職に居続けた彼もまた、年齢を考えれば随分と精力的な人間ではあったが、それでも定命の存在である以上、いつかは「その時」が来るのが定めである。

「冗談だよ」

そう返す一護。

「ありがとうな」

「一体藪から棒に何を言い出すんだ」

「うちの親父だよ。二人きりにさせてくれてさ」

黒崎一護の父、一心はその昔、竜弦と一人の女性を救うべく困難に挑んで以来の縁だ。その顛末から一心が一人の人間として現世で暮らすようになり、医業を営み始めてからは町医者と総合病院のトップということで仕事上の縁さえもあり、息子同士に引けを取らない腐れ縁だったとも言えるろう。

「まあね。結局僕も当時何があったのかを全部聞いたわけじゃないけど」

「俺もさ」

「それでも、やっぱり深い縁なのはわかるからね」

「まあ、そもそも俺ら含めて『向こう』を知っちゃってる人間が『お別れ』をやるってのも、未だになんとも言えない感じがするけどな」

「違いないね」

 


 

そして式場から帰る途中。

 

「一護、話がある」

 

一心は、そう打ち明ける。

 

「珍しいじゃねえか、そんな改まって」

「うるせえ、真面目な話すんだから黙って聞けや」

相変わらずの親子である。

「俺な、そろそろ向こうに帰ろうと思うんだ」

一護は黙って次の言葉を待つ。

「この義骸なら多分いくらでもこっちに居られるんだけどな」

「だろうな」

「とはいえ、浦原さんと違ってそうもいかねえだろ」

「そりゃそうだな」

「明らかに変なスポット」になっている浦原商店と違い、クロサキ医院は「普通の人」とあまりに関わり過ぎている。普通の人間にとって義骸だ魂魄だなどという世界はまったくわかるものではない以上、「いつになっても死なない人がやっている医者」など、ただのホラーでしかなくなってしまうだろう。実際、一心は竜弦以上に「年の割に若い」と見られており、そろそろごまかしが効かなくなりつつあるのだろう。

「相変わらず何も聞いてこねえんだな」

「言ったろ、話す気になったことだけ話してくれればいいって。あんたが喋りたくねえなら、俺はそれでいいと思ってる」

「言ってくれるぜ」

「それより親父、向こうで仕事あんのか?もう何十年こっちにいるんだよ」

「あれ?向こうの話お前にしたっけか?」

「ああ、乱菊さんに聞いたんだよ」

「おいてめえ、聞かなくていいって言いつつ色々知ってんじゃねえかよ」

「別に俺が聞きたくて聞いたんじゃねーよ!親父こそ部下にどういう教育したんだよ!あの人酔っ払うと何でも喋るぞ!!」

「ほら、うちは放任主義だから」

「ただの責任放棄じゃねえか。冬獅郎が気の毒だぜ」

「そうなぁ、あいつも強くなったよなぁ……」

そう、ふと当時を思いかえす一心。

 

ひときわ冷たい風が吹いた。

 

「で、いつ行くんだ?」

「諸々整理したら、だな。色々浦原さんにも頼まなきゃいけねえし」

「まあこっちは任せとけ。夏梨はまあ色々察してるっぽいし、遊子……も相変わらず見えねえとはいえ多少は分かってくれるだろ」

「悪ぃな」

「あぁ」

 

 

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