Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第一章: Lingering Souls (3) ― Spatial Contortion

「で、最近どうしてるのよ」

所変わって瀞霊廷の片隅。行きつけの居酒屋で、護廷隊の副隊長3人が卓を囲んでいた。

……ただし、そのうち1人はすでに飲みすぎたせいか机に伏しているが。

「どうって何のことですかぁ」

そう応じた吉良イヅルも、既に大分呂律が回らなくなってきている。それもそのはず、護廷隊きっての酒豪として知られていた十番隊副隊長松本乱菊は、この数十年でそのザルっぷりに更に磨きがかかったと評判である。

「雛森と最近会ってるの?あの子向こう行っちゃったじゃない」

乱菊が話題に出すのは、以前よく目にかけていた後輩のことである。イヅルが雛森に対して並々ならぬ感情を抱いていることも重々承知しており、それを踏まえての質問といえよう。

「会えるわけないじゃないですかぁ」

そう返すイヅルは泣き出さんばかりの雰囲気である。元々絡み酒の傾向がある彼だが、こうして「素」が出せるというのはそれなりに信頼している仲間だからだ、ということにしておこう。

「新しいところに行って忙しくしてるだろうに、そんな気軽にいけるわけ……」

「うじうじしてんな、男だろ!」

持ち前の気風の良さを存分に発揮し、イヅルの背中を叩いて気合を入れる乱菊。

「そうやって勝手に思い込んで勝手に自己完結するから男は嫌なのよねぇ」

そう言って遠くを見つめる。その脳裏には、かつて彼女への想いを拗らせた結果大逆の徒藍染惣右介の手勢となり、最後はその手にかかって殺された男の姿が浮かんでいるのだろう。イヅルにとっても敬愛する上司であったその男に対し、乱菊もまた思うところがあったことを知っている彼としては、その件を念頭にものを言われてしまうと二の句が継げなくなるきらいはある。

「そうだぞ吉良、男は思い切りが必要なんだ……」

「あ、修兵生きてたの?」

面白そうな話題を察知したのか、酔い潰れていた檜佐木も話に参戦する。

(……檜佐木さんも人のこと言えないでしょ)

と内心でツッコミは入れるものの、確かに自身の引っ込み思案が祟って現状を招いている自覚もあり、反論する元気はないようだ。

 

「実際恋次はルキアちゃんとくっついたし、せっかく異動して平子隊長とも離れたんだから今がチャンスじゃないの?さっさと手を出さないとまた向こうで誰かに絆されちゃうわよ」

実際雛森桃は霊術院時代に藍染と出会って以降彼に心酔しており、その後五番隊隊長に復帰した平子真子の(実質的な)カウンセリングで依存癖は収まったように見えているものの、やはり先輩女子としては悪い癖がまた出ないか、真面目に心配しているところもあるのだろう。少しくらいは。

「もう少しマシな言い方はないんですか」

「まあでも実際護廷隊からわざわざ雛森ちゃんを連れて行ったってことは、こっちとの交流を期待してるところもあるんじゃないのか」

瀞霊廷通信の編集担当である檜佐木としては色恋沙汰のゴシップも気になるところではあるものの、それ以上に「中間管理職」として組織全体を見た考えをしがちである。

「そうよ、せっかくだから仕事ってことにして呼んじゃいなさい」

「そんな手もありますかねぇ」

「ほら、そうと決まったらまだ飲むわよ。おかわり3本くださーい!!」

「えぇ…まだ飲むんですか……」

 

翌朝、二日酔いの青い顔で隊舎に現れた副隊長が二人ほどいたことは言うまでもない。

 


 

一体どれだけの夜をここで過ごしただろうか。

最後に人と言葉を交わしたのももはや数十年前。ここで虚の数を少しでも減らすことが散っていった戦友への手向けになると信じて戦い続けてきたが、そろそろ一度尸魂界に帰ろうかという気にもなってきた。問題は、ここからどうやって抜けるかなのだが。何分このメノスの森は虚圏の広大な砂漠の「下」に存在しており、まず地表に出ないことには始まらないだろう。

「さーて、どうやって帰ったもんかね」

実際虚圏と他の世界を結ぶ黒腔は基本的に上位の虚にしか開くことはできない。一部の死神もまた開く術を持っていないわけではないが、少なくとも雅忘人が尸魂界を起った時代には非常に大掛かりな準備が必要な術式であり、当然今の彼にそれを単独でどうこうできるわけはない。

「まあ考えても仕方ねえ、まずは外に出ることだ」

……とはいえ、実際には尸魂界と虚圏の関係性は当時より遥かに近づいており、おそらく虚圏に入り込んだ「異物」を送り返すためということであればある程度協力してくれるだろうが、言うまでもなく雅忘人はそんなことを知る由もない。

 

その時、ふと空間がねじ曲がるような違和感を覚えた。

 

実際に何かが歪んでいるとかそういったことではないし、物が動いている様子もない。ただ、霊圧の感覚として何か巨大な力が空間を引き伸ばしているような感覚がある。

 

「……下、か?」

 

その力の源は地面の下に感じられた。この霊子に満ちた虚圏さえも揺るがす程の「何か」が、恐らく下の方から近づいてきているのだろう。異変を感じ取ったのか、雅忘人を遠巻きにしていた虚・大虚が一体、また一体とその場から離れていく。

 

そしていよいよ「それ」が訪れる。

 

「それ」が虚空を超えて虚圏に入った瞬間、力の向きが変わる。引き伸ばされた空間は、ちょうど引き伸ばしたゴム紐から手を離したときのように反発し、逆方向へその歪みを吐き出した。

しかしその「歪み」は実際にものを動かしていたわけではなく、反発によっても同様にほとんどのものは動くことはなかった。

 

……極めて高い霊圧濃度を持つ、ごく一部の魂魄を除いては。

 

自身の霊的な強さを感覚として知っている雅忘人、そしてその場に唯一いた中級大虚はどちらも違和感こそ覚えたものの、「逃げ出す」という選択をしなかった。それ故にこの反発の「爆心地」に近いところにおり、霊的な振動によって直接的な影響を受けることになってしまった。結果、両者は霊圧振動をモロに受け、メノスの森から弾き出されるように地表に向かっていった。

 

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