Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
虚圏というのは、基本的に真っ暗な空の下に一面の砂漠が広がる光景である。もう何百年もメノスの森という「地下」にいた雅忘人にとっては懐かしい光景だが、とはいえ死神にとって何か良い印象を覚える光景ではないだろう。
「さーて、どうやって帰るかな…」
そうひとりごちていると、一緒に飛ばされてきた中級大虚が襲いかかってきた。
「てめえ、ずいぶん好き勝手やってくれてたじゃねえか」
「……この野郎っ!」
この中級大虚は実のところ雅忘人が狩り損じたメノスを闇討ちして食い漁っていたような虚であり、このような恨み言を言うような立場ではない。とはいえ一方で死神という存在がこの虚圏で「招かれざる客」であることは疑いようのない事実であり、不幸にしてこの二人が顔を合わせてしまった以上戦いは不可避であった。
中級大虚は破面と違い、「本来の」獣じみた姿で飛びかかってくる。
「お前、ずっと物陰からこっち見てた奴じゃねえか」
「気づいてたのか」
「ったりめぇだ……!」
雅忘人は中級大虚の爪を斬魄刀で受ける。
一方受けられた側は、即座に距離をとり次の一撃へと備える。
「ずいぶん慎重じゃねえか」
「これが狩人の流儀ってやつなんでね」
そう言いながら姿勢を落とす。しなやかな体躯を沈め、四肢が次の跳躍に向けた力をためていく。その姿は確かにさながら猟犬を思わせる――体高が大柄な雅忘人の5割増し近いということを除けば、だが。
「ちょうどいい、てめえを斬って手土産にしてくれる」
手段は未だ見つけられていないものの尸魂界に帰る決心を固めた雅忘人は、いままで狩ってきた最下級大虚とは一線を画する強敵との戦いを、ここ虚圏での最後の戦いと心に決めた。
一方メノスの森。
「異変」の震源地の近くに、ハリベルの従属官3人が到着した。
「こりゃぁ……また随分だな」
ミラ・ローズがそう零したのも当然、既に震源地周辺は禍々しい霊圧に満ち溢れていた。
雅忘人たちを吹き飛ばした暴力的な奔流は既に収まっていたが、並の隊長格どころか最上級大虚の破面をも上回るような重さである。
「問題は、『これ』がどこから来たかですわね……」
尸魂界や現世ならまだしも、本来虚にとって「ホーム」であるはずのこの虚圏で、「虚(かそれに類する何者か)を封印した」場所があるというのは不自然な話である。そうであるならば。
「またしても侵入者ってことか?」
実際この隔絶された空間であるはずの虚圏も、ここ暫くの間に死神や滅却師といった外部からの侵入を立て続けに許しており、アパッチはそれを念頭に置いていた。
「いや、それにしては霊圧の質がおかしいだろう」
「そうですわ。若干異質さは感じるとは言え、これは虚の霊圧。私達の『同族』ですわね」
「だけどよ、こんなところに最上級大虚がいるなんて話、知らねえぜ?」
「もう少し近寄ってみたいところだが、そうもいかなそうだな」
「近づいて気付かれでもしたら面倒ですわね」
「どうも友好的な雰囲気でもなさそうだしな」
「あとは……『上』の様子か」
「いい機会ですわ、一緒に片付けましょう」
「そろそろ決着をつけようか」
そう言いながら雅忘人は斬魄刀を鞘に納める。
「あァ?何のつもりだ……?」
「これが俺の『力』だ!」
そう言うと、雅忘人は腰を落とし、鞘に納めた斬魄刀を腰溜めに構える。
「刺し貫け―紅沙參」
雅忘人が解号を口にすると、鞘とともに斬魄刀が変化し突撃槍のような形状となる。バンプレートにあたる部分に繋げられた赤い飾り布は、持ち主の霊圧に呼応してわずかに光を帯びている。
「随分大仰じゃねえか」
「いいだろ、いくぜ!」
雅忘人は紅沙參を腰溜めに構えて突撃する。
その瞬間。
「そこまでですわ」
従属官3人が両者の間に現れた。
「おい、腰巾着風情が邪魔してんじゃねえよ」
中級大虚が吠える。
「野良犬がうるさいですわね」
「あァ?まずてめえらからやってやろうか?」
売り言葉に買い言葉とばかりにスンスンが言い返し、一種即発の空気になる。
「スンスンも取り合ってどうする。そんなことをしている場合じゃないだろう」
「そうですわね」
「で、何の真似だよこれは」
「暇なあなたと違って、用があるから来てるんですわ」
「あー…、お取り込み中なら席を外すぜ?」
虚同士のつまらない口論が目の前で始まり、居た堪れなくなった雅忘人はそう口を挟む。
すると、ミラ・ローズが向き直った。
「いや、用があるのはお前になんだよ、死神」
これにて第一章完結、次話から第二章となります。
もう少しペースアップして書ける…はず。