Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
「そういえば、そろそろ次のインターン生が来る時期だっけ」
副隊長の集まりで、松本乱菊がそう切り出した。
護廷十三隊の意思決定は当然責任者である隊長達が下すものだが、一方大半の隊で実際の隊務を取り仕切るのは副隊長であり、結果こうした副隊長が定期的に集まって情報交換や各種調整が行われている。
「そういやそんな時期だな、もう各隊希望者のリストは来てんだろ?」
そう返すのは斑目一角十一番隊副隊長。先の大戦以降副隊長を引き継いだ身だが、元々三席時代から隊務を取り仕切っていたこともあり、死神としてのキャリアの長さも相まってこの副隊長会では実質トップ的立場である。
「ウチは先週来てたよー」
そう気軽に返すのは八番隊副隊長、八々原熊如。死神としてのキャリアも副隊長としての長さもこのメンバーの中では圧倒的に短く、ギャルかぶれのファッションも言葉遣いも相変わらずであるが、これでいて仕事は相当にできるため周囲からは一目置かれている。
「どうだ、今年は面白い奴いるか?」
「そうだねー、霊術院からは久々に早い子きてるっぽい!」
「らしいな。お前より早いんだろ、確か」
「五番隊に行く豊川って子は1年9ヶ月だから八々原さんよりはちょっと遅いですが、残りの二人……と珍しく鬼道衆に希望出してる一人は在学1年なので現行制度になってからは最速記録でしょうね」
資料を確認しつつ、一番隊副隊長伊勢七緒はそう答える。
「あとは……橙璃(とうり)坊も今回か」
「そうですね。吉良、よろしく頼むぜ」
同期のよしみでそう声をかける恋次。
「自分たちのところで見ればいいのに」
そう口では悪態をつくものの、その表情は決して固くはない。
「朽木隊長の性格的に、な。贔屓目抜きにちゃんと育って欲しいのさ」
「あー……」
かつては「掟を何よりも重視する氷のような男」と見られていた白哉も、ルキア周りの一件や苺花が生まれてからの甘やかしっぷりから「ただのシスコン」扱いが標準となりつつある。
「てっきりうちに来るもんだと思ってたんだけどな」
姉である苺花同様に「見習い」として稽古をつけていた一角が疑問を口にする。
「ほら、あの性格ですから」
「まあそうか、てめえによく似た苺花ちゃんと違ってな」
「…そんな変わった子なんですか?」
四番隊副隊長、虎徹清音がそう口を挟む。
「変わってる、っていうより普通にいい子なのよ、親に似ず」
「親に似ず、は余計でしょ乱菊さん」
「まあ『新しいお父さん』似にはなりそうだしー、ちょうどいいんじゃないのー?」
「違ぇねえな、そのうち本当の親子って言われそうだ」
そう茶化す乱菊と一角。
「実際、『いつから』なんです?」
書類上気になるところがあるのか、伊勢が問いかける。
「一応このインターンで十三隊に入るタイミングの予定です」
「じゃあもう最初から『朽木』姓で来るんだ?」
「ええ、まあ書類上は。実際にはまだうちから通わせるつもりですけど」
「了解、それじゃ書類の方は『朽木』姓にしておくわね」
「お手数おかけします」
「で、配属式だけど今回の当番はどこだったかしら?」
「あー、
そうして副隊長会の議事は進行していく。
「随分と――」
ここは地下大監獄最下層、【無間】。通常の手段で「処刑」することも能わない大罪人を収監するこの場は、通常無音の暗闇に閉ざされている。だが一方で、そうした存在が気まぐれに声を発することもあり、此度静寂を破ったのは前五番隊隊長藍染惣右介その人である。
「面白い事態になっているようだな、痣城双也」
言葉を投げかけられたのは八代目剣八、痣城双也。本来この【無間】に収監される罪人はすべて霊的な能力から身体的な自由まで拘束されることにはなっているが、特にこの両名に関してはそのような制限はあって無きが如しである。
「……藪から棒に、何の話だ」
「例の『彼』だよ」
そう言われ、痣城は久々に瀞霊廷に意識をやる。彼の斬魄刀、雨露柘榴の卍解によって瀞霊廷全土の事象を掌で起きているかのように知る事ができる。しかしながら、特に以前の脱獄事件の後は斬魄刀自身との対話に多くの時間を割くようになっており、以前常時卍解を展開していた時期ほど積極的に外界の情報を手に入れているわけではない。
「……なるほど、相変わらず君の『お気に入り』というわけか」
そうして瀞霊廷内の霊圧を探り、懐かしい存在に気づく。
「君も憎からず思っているはずだろう、痣城双也」
「……ご想像にお任せするよ」
(少なくとも誰かがそう願わない限りは)一切の明かりの存在しない【無間】である。そう言い捨てた痣城の口元に、かつての彼を知る人間には予想もできない笑みが浮かんでいることは、誰も知ることはできない。
「君らしいな」
『キヒヒ!随分楽しそうじゃないか!』
――藍染惣右介と雨露柘榴を除いては。
そして当の観音寺本人は、自らが無間にいる二人の大罪人から熱い視線を注がれていることなど、露ほども知る由もない。
「鹿良澤さん、鹿良澤さん!」
そう呼びかけながら部屋に入ってきたのは副鬼道長、雛森桃。まだ着任して一年にも満たないが、努力家の彼女にとって新しい職場の仕事を覚えていくのはむしろ楽しいことのようだ。
「お願いしていた書類、できてますか?」
「えーと、なんだっけ?」
声をかけられたのはこの部屋の主、鬼道衆大鬼道長
「インターンの受け入れの件ですよ。今日中に出さないと私が怒られちゃうんですから」
「あー、そんなのあったっけ」
「お願いしたの先月ですよ?!」
「いやほら、普段うちになんて人こないからさー」
「久しぶりなら尚更ちゃんとしなきゃだめじゃないですか」
「えー、桃ちゃん代わりに書いといてよ」
「隊長の花押が必要だからそういうわけにもいかないんです、ってお渡ししたときにも言いましたよ?!」
「仕方ないなー、ってあれ、どこ置いたっけ」
「右側の棚の二段目に平積みされてるファイルの中だと思います」
とっ散らかっている上司の机をよく把握している副官である。
「おー、あったあった」
鹿良澤は感心しながら書類に目を通し、必要なサインをして雛森に渡す。
「ありがとうございます。ところで、そんなに珍しいんですか?」
書類を受け取りながらそう問いかける。
「ほら、桃ちゃんも霊術院出身ならわかるでしょ?うちって地味だからさ」
「そんなこともないと思いますけど……」
「せっかく霊術院で斬拳走鬼ちゃんとやってもうちじゃ鬼道しか使わないからねー。不人気になってもしょうがないのよ」
「あー、なるほど……」
「ま、元からうちは少数精鋭だし、それでも困ってないんだけど」
「とりあえず、これ出してきますね」
「よろしくー」
本来であれば裏廷隊なり部下に頼めば良いところではあるのだが、真面目さからか自らの足で書類を運ぶ雛森。
「それにしても、どんな子がくるのかなー……」
見送りながら、そうひとりごちる上司であった。
ようやくペース掴めてきたので、当面は毎週この時間に更新したいと思います。