Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第二章: Divergent Growth (3) ― Bond of Discipline

「お久しぶりですね、雛森副隊長」

「もう副隊長じゃないですよ、石和さん」

「すみません、つい昔の癖で……」

書類を届けに来た雛森は、霊術院の院長室でかつての部下と話していた。かつて積極的に教壇に立っていた藍染惣右介の影響で五番隊は霊術院の運営に力を貸すことも多く、結果大戦終結後にこの石和厳兒が新しい学院長としてこの霊術院に転属したのだった。

「いやあ、でも驚きましたよ。雛森さんが鬼道衆に行かれるとは」

「私だって驚きましたよ」

「まあでも副鬼道長は長いこと不在でしたし、言われてみれば適任じゃないですか」

「そうですかね?」

「鹿良澤さん、『ああいう』方ですし平子隊長と近いものを感じませんか?」

石和はかつての上司を思い出しつつ、笑みを浮かべながらそう問う。

「あー、確かに……」

「とはいえ、彼女も元々護廷出身ですし、長いこと一人で鬼道衆を切り盛りしていたんでそれはもう優秀な方ですよ?」

「……そういうところまで含めて平子隊長っぽいところありますね…」

「まあ、雛森さんもお元気そうで安心しましたよ」

「そういえば、うちに来る人ってどんな方なんですか?」

「ちょっと五月s……元気さが目立ちますが、非常に優秀ですよ」

「あー……そういう……」

「在学1年で教わってもいない詠唱破棄を途中まで成功させるくらいですからね。霊圧もかなりのものがありますし」

「それは凄いですね……!」

「他にも優秀な子が3人ほどいますし、今期は久々の豊作です」

「石和さんの努力が実ったんじゃないですか?」

「いえいえ、結局のところ生徒の素質と努力ですよ。私たちにできることは、ただその背中を押すことだけですから」

そう言うと、学院長は窓の外に目をやるのだった。

 


 

「伯父様、只今参りました」

「隊長―、来ましたよー」

ここは瀞霊廷の一角、四大貴族が一、朽木家の屋敷。かつては多くの死神が住んでいたが、今や白哉と僅かな使用人が暮らすのみであり、来訪者も時たま妹家族が顔を出す程度と寂寥たる有様である。

「苺花は息災か」

「はい、姉は最近第五席に昇進いたしました!」

今でも阿散井恋次は六番隊副隊長であり、常日頃顔を合わせる関係性である以上は家族の様子などいくらでも聞けるはずなのだが、規律を司る四大貴族としての立場からか、こうして私用で屋敷を訪れた際によく気にかけている。

「そうか。まだ一緒に暮らしているのか?」

「勿論っすよ」

「まあ、それがよかろうな」

基本的に護廷十三隊に所属する死神は、席官に昇進することで自身の私邸を瀞霊廷内に持つことが許される。一方一般隊士は通常各隊の寮に入るのが原則だが、一方で貴族を筆頭に実家が瀞霊廷内に既にある場合には親元から出勤する者も多く、実際苺花は正式入隊して席官になってからもずっと両親の屋敷から通っている。何分両親のみならず伯父までもが過保護気味のため、なかなか一人暮らしをしたいとは言い出せないようだ。

「一応伊勢さんにも話通しておきましたよ」

「手間をかけるな、恋次」

「礼なら俺じゃなくて、事情わかってくれた橙璃に言ってください」

「―そうだな。ありがとう、橙璃」

「いえ、伯父様にも大事なお役目があることは理解しておりますので!それに、伯父様も元々家族なのですから、書類上多少関係が変わるなど些細な事です」

まだまだあどけない少年だが、それを感じさせないほどに「できた」答えをする橙璃。(十一番隊に所属してしまったことも影響してか)完全にやんちゃ娘となってしまった姉とは本当に対照的である。

「実際、まだ大変ですか」

そう気遣う恋次。流魂街出身の彼にとってみれば貴族の世界のやんごとなき事情はまるで想像の埒外ではあるものの、一方で妻ルキアを朽木家から奪った形になる以上は単なる上司・部下、あるいは義理の兄弟といった関係性以上に気遣うようになっていた。

「一旦の決着は見た。そもそも――」

そこで少し言い淀む白哉。

「もはや我々貴族の仕来りなど、然程の価値もないのかも知れぬ」

掟や規範を何よりも重んじてきた朽木家の現当主の口から出るにしては、少々意外性のある発言である。

「綱彌代の一件以後、我々がこれから果たすべき役割について、少し考えているのだ」

実際、四大貴族の筆頭と言われていた綱彌代家は時灘の謀略と自身の死により遠縁の分家を僅かに残すのみという滅亡寸前の状況であり、また四楓院家も前当主の事実上の出奔、現当主はあまり表舞台に姿を表していない。かつて五大貴族と呼ばれていた志波家に至っては元より奔放であったところ当主の戦死と(最近ようやく帰還したとはいえ)分家筆頭の出奔で事実上その地位を追われている。当の朽木家自身も蒼純や当主夫人緋真の早逝もあり本家筋は絶えつつあり、尸魂界の根幹を作り上げた各家の伝統は風前の灯火であった。一方で、現在の護廷十三隊を見れば貴族でない――即ち流魂街出身の――隊長格が多く存在し、以前よりも生まれの差はなくなってきたと言えるだろう。

「……俺にはそういう難しいことは分かんねえっすけど」

そう前置きをして、恋次は答える。

「大事なのは生まれとか立場より、何を護りたいかなんじゃないっすかね」

「……恋次らしいな」

「隊長が四十六室や貴族会議の人達とやりあってまで大事にしてくれてるってのは、ルキアも橙璃もわかってると思いますよ」

実際、子を産むことなく朽木緋真が亡くなって以降まるで再婚する様子を見せない白哉に対し、四十六室を筆頭に尸魂界指導部は本家筋の血筋を絶やさないための何かしらの行動を要求し続けてきた。(血の繋がりはないものの)妹ルキアの元に長男が生まれ、ついに「再婚するか養子を取るか」という二択を強いられた結果としてこのような形になったことを、白哉としては妹一家に対して引け目に感じていたのだ。

「――改めて、礼を言う」

「水臭いなぁ、家族じゃないすか」

 

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