Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
「ただいまー」
「てめえ岩鷲、何しに戻ってきやがった!」
久々に流魂街の実家に顔を出した途端、姉の怒号が飛ぶ。
「もう尻尾巻いて逃げてきやがったのか?」
「違えよ姉ちゃん…」
相変わらずの迫力に対し若干後ずさりながらも説明する。
「この休み明けたら隊配属なんだよ、見習いとは言え」
「おおう、そりゃがんばってんじゃねえか」
空鶴も弟が一年ちょっとで卒業間近になっているとは予想していなかったのか、珍しく驚いた顔を見せる。
「いやー、入ってみて改めて実感するけど兄貴って凄かったんだな」
「そらそうよ」
志波海燕元十三番隊副隊長。
霊術院を二年で卒業し、入隊から五年で副隊長まで上り詰めたというスピード出世は、市丸ギンという更なる「怪物」を除けば――あの「天才児」日番谷冬獅郎よりも早い――未だに並ぶもののない記録なのだ。
「最後にルキアちゃんに会ったのは……橙璃が生まれた頃だったっけか」
元五大貴族当主と現四大貴族当主の妹という家柄のみならず、過去色々な因縁のあった志波家とルキアだが、特にルキアが隊長に就任してからは相当多忙になり、最近はほとんど会う機会もなかった。――なにぶん空鶴が西流魂街のはずれなどに住みたがるせいで、瀞霊廷中心部に住むルキアにとって気軽に訪れづらい場所だった、というのが大きな理由なのだが。
「その橙璃だけど、どうやら同期になるっぽいんだよな」
「ほー!そりゃ楽しみじゃねえか」
「まあ、どこの隊なのか分かんねえからアレだけどよ」
「どうせそのうち会う機会あるだろうさ」
「多分別の隊だし、そんなに無いと思うぞ?」
「連れてこいっつってんだよ」
「う、うっす……」
「あぁ、ルキアちゃんにもよろしくな」
「よろしくっつったって流石に隊長だぞ?そう会える気がしねえんだけど……」
「席官にでもなりゃすぐだろ、すぐ」
「無茶言うなよ!」
「さて、それじゃあ当日はよろしく頼むよ」
「本当に自分でいいのか不安なんですが……」
「二年もたたずにここまで来た逸材が何を言うんだい?」
「それ言い出したらあの三人の方がもっと早いじゃないですか」
「あの3人は同期だしね。誰か一人選んだら角が立つでしょう」
インターン配属を目前に控えたある日、豊川翔太は学院長室を訪れていた。
一年間のインターンで特に問題がなかった者は通常そのまま卒業し継続して隊務に就くことになる。インターン中にも定期的に学院に戻って授業を受ける機会自体はあるものの、基本的には配属先ごとに違うスケジュールで動くことになるため、学生全体が一堂に会する機会はこのタイミングで行われる配属式が最後であり、事実上これが「卒業式」のような扱いとなっていた。
世の多くの学校同様、「卒業生」の代表はいわば主席に値する学生が選ばれるのが通例であり、今回は彼が選ばれたのであった。
「こういう機会は早く慣れておいた方が得ですよ、どうせすぐ人の前に立つ立場になるんですから」
旧制度の飛び級経験者、あるいは新制度下でも6年の年限を半分以下で卒業していくような優秀な学生は、配属後まもなくして席官となることが多い。各隊とも席官という立場はいわば中間管理職であり、こうして「人の前に立つ」経験というのはいくらあっても損にはならないだろう。
「そういうの、苦手なんだけどなぁ……」
不安さを隠さず嘆息する豊川。
「特に五番隊は今難しい時期ですから、きっと君が来ることを楽しみにしていますよ」
「そうか、雛森さんが鬼道衆に行かれたんでしたっけ」
石和が学院長に就任して以降は特に五番隊と霊術院の結びつきは強くなっており、頻繁に同期筆頭のような扱いで学院長達に呼び出されていた豊川は、訪れていた雛森と何度か顔を合わせていた。
「いくつか席があいたような話もしていましたし、本当に待望の人材ですよ」
「僕まだ学生なんですけど!?」
実際、これはインターン制度のもう一つの目的である。以前の制度で飛び級していった学生の大半は卒業と同時に席官以上の地位についており、それは即ち「一般隊士としての経験」がないまま管理する立場になるということを意味していた。実力主義の組織である以上それも仕方ないと捉えられてはいたものの、やはり戦闘員であると同時に管理者でもある以上は一度現場を見ておく重要性というのは(特に生前「組織人」として働いた経験を持つ流魂街出身者を中心に)話題に上がっており、このインターンを通じて一般隊士としての経験を積むことが定められたのであった。
「まあ、君なら大丈夫だよ。僕が保証する」
自身は一般学級の出身ではあるものの、特進学級から隊長格に上がった同期と今でも交流のある石和は、友人を思い浮かべながらそう太鼓判を押した。
配属式当日。
この式は各隊持ち回りで取り仕切っており、壇上では今回の担当である檜佐木修兵が訓示を述べていた。
「あー、まあ堅苦しい話はこのくらいにして。これからは皆それぞれの隊に散っていく。とはいえ、今ここに集まっているのは入学時期が違っても『同期』だ。配属後も同期の縁ってーのは何かと切れねえもんだから、ぜひ大事にして欲しい」
彼自身の同期は多くが大戦で――あるいは在学中に死んだ蟹沢を筆頭に、藍染などの手によって――戦死したり、あるいは既に除隊していたりで、もう四番隊の青鹿くらいしか残っていない。そうした意味では逸材揃いで未だに交流の続く五年下の代を羨む気持ちは確かにあった。
「あと、良くも悪くも護廷には変わった人が多いと思うが、まあ困ったら色んな人に相談するといい。皆怖い人じゃないんだ、見かけほどは」
自らが編集長を務める瀞霊廷通信の「見た目で損している死神ランキング」で毎回ランクインしている檜佐木がそう言ったことで、学生の間に笑いが伝播する。
「じゃあ学生総代、よろしく」
そう声をかけられて、豊川が壇上に登る。その評定には緊張が感じられるが、意を決して挨拶を始めた。
「二一五一期、豊川翔太です。本日は我々のために、このような式を開いていただきありがとうございます。思い返せば――」
そうして式次第が進行していく中、壇上来賓席に座っている総隊長、京楽春水はふと気になる存在を察知する。以前はこの配属式に各隊の代表者が揃って出席していたものの、今は持ち回りの担当隊と総隊長のみが出席するのが習わしで、他隊の人間が現れることはそうそうない。そんな中、霊術院の方に副隊長クラスの霊圧が接近してきているようだ。
「うん……??」
とはいえ、大半の死神は霊術院出身であり、時々母校を訪れること自体はそこまで珍しい話でもない。配属式が行われているタイミングという不審さはあるものの、自らの立場上式典を放棄してまでその違和感の正体を追及するほどのことには感じられなかった。
最終的に、その存在は配属式が終わるまで霊術院内に入ってくることはなかった。
一方京楽は多忙の身であり、この霊圧の主を探る暇もなく、自らの隊舎へと戻っていく。
そして、その姿を見送った学生たちがそれぞれの道に散っていく中で、ついに学生の一人に接触する。
「石田竜弦くん、ちょっといいかな。話があるんだ」
これにて第二章終了です。
そろそろ色々なところで話が動き始めます。
……が、次話からはしばらく過去編です。
結構な分量になりそうですねこれ……