Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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さあ第三章、いよいよ物語が本格的に動きます。
……と言いながらこの第三章は過去編なのですが。


第三章: Past in Flames
第三章: Past in Flames (1) ― Premature Burial


父は説いた

我らが祖を敬えと

 

父は説いた

偽りを述べてはならぬと

 

父は説いた

奪ってはならぬと

 

祖が欺き奪う者なら、我らは誰を敬えばよいのだろうか

 


 

父親の隊葬での喪主という大仕事を終えて隊舎を後にする孫を見送り、六番隊隊長朽木銀嶺は列席していた総隊長山本重國の元へと歩み寄る。

「残念じゃったな」

自身の下十三隊に所属する死神には「護廷のために死すべし」という厳格さを求める総隊長だが、一方で実際に戦死した死神の遺族に対しては――その厳格な印象に反して――可能な限りの慰撫をするのが常であった。今回は隊長格の隊葬ということでしっかり列席していたが、一般隊士であっても献花に訪れる程度の時間を工面するのが山本元柳斎重國という男である。

「ありがとうございます」

白哉の父、朽木蒼純は温和な人柄と確固とした実力で知られていたが、病弱さがその唯一の不安材料であった。銀嶺は次代の当主として通例に従い副隊長に起用したものの、その身体の状況は思わしくなく、最終的に悪い予感が的中した形になったことには――誰しもがその生命を危険に晒す戦闘職であったとしても――悔やむ気持ちは多少なりともあった。しかしながら銀嶺とて十三隊の隊長であり、そして何より規律を司る五大貴族が一、朽木家の前当主である以上は――特に隊葬後の隊舎という場所で――身内に関して特別な感情を表に出すことはない。

「して、後継はどうするか。白哉坊も大分成長してきたようじゃが」

まだまだ少年といった相貌ではあるものの、確かに霊圧や技術という観点で大分成長してきているのは確かである。既にその霊圧は五等霊威に到達し、斬魄刀の具象化にも挑戦している今、副隊長昇進という声がかかるのは自然な話ではある。

「実力的には良いのですが、その…性格面でまだ不安もありまして」

とはいえまだ(尸魂界基準では)若者であり、すぐ熱くなる単細胞さは他の貴族の若者から揶揄われる原因ともなっていた。特に、数年前に尸魂界から行方を晦ませた四楓院家の先代当主夜一を追いかけ回す姿は瀞霊廷でよく目撃されており、こうした熱くなりやすい性格については父・祖父共々不安に思っていたのも事実である。

「よいよい、そうした心構えは立場ができれば後からついてくるものじゃ」

「どちらにせよ、そうした話は今回の戦役を片付けるまではお待ちいただけますか」

「そうじゃな。蒼純の墓前に敵の首を供えてやろうぞ」

そう言った総隊長の目には全盛期を思わせる鋭さが宿る。配下の死神に対して命を賭した献身を求めるからといって、その生命が喪われても気にしないわけではない。優秀な若手の命を奪った敵に対する怒りは、まるで自身の卍解のごとく凝縮されているのであった。

「ええ。私も前線に参ります」

そう言いながら、銀嶺も自らの斬魄刀を握りしめた。

 


 

「キルゲさん、少しよろしいですか」

「深沢さん、どうしましたか」

「今回の作戦、一体どういう意図だったんでしょうか。死神の野営地を騙し討ちして即撤退、我々の存在が露呈するリスクを上げるばかりで虚を滅却せるわけでもなく、今死神を手に掛ける大義があるとも思えません」

「それは、陛下のご決定に異議があるということですか?」

「…いえ!決してそんな――」

「ああ、別にそういうつもりではありませんよ、深沢さん」

そう言うとキルゲ・オピーは書類仕事の手を止め、声をかけてきた青年に向き直る。

「深沢さん、聖帝頌歌は覚えていますか?」

「封じられし王は900年を経て鼓動を取り戻し 90年を経て理知を取り戻し 9年を経て力を取り戻す――ですか?」

「そのとおりです。」

キルゲは目を細める。

「陛下はようやく900年の長き眠りから目覚め、今我々に新たな知恵を授けてくださっています。今回の作戦は、その新しいものを実地で試す良い機会だったのでしょう」

「それは、死神の命という犠牲と釣り合うものなのですか…?」

「進歩のためには犠牲はつきものです。それが死神の命で済んでいるのなら、安いものでしょう」

そう言うと、改めて手元の書類に視線を戻す。

「陛下は100年先まで見据えて計画をお立てになっています。私達にはその深謀遠慮のすべてを知ることはできませんし、その必要もないのですよ」

もう話は終わった、と言いたげな態度のキルゲを見て、深沢と呼ばれた青年もその場を後にした。

 


 

時は数日遡る。

大虚討伐の任務を与えられた六番隊は、その大虚が発見された現世で陣を展開していた。始解もままならない無席の一般隊士では足手まといになりかねない大虚相手という任務の性質上参加しているのは席官のみであり、その陣はさほど大規模なものではない。

「副隊長、お体の具合はいかがですか」

朽木蒼純の天幕を訪れたのは第六席、乙坂由利絵。下級貴族の出身で、数年前に席官に昇進してからは病弱な副隊長の補佐にあたることが多い。

「ああ、ありがとう」

そう答える蒼純はまだ顔色が良くないが、なんとか起き上がれる程度までは回復していた。元々体が丈夫ではなかったため斬術や白打は良くて並程度だったが、一方霊圧や鬼道の才は各五大貴族のここ数代を見通しても相当なものであった。かつて第八席として入隊した当時はまだ「たまに体調を崩すことがある」程度だったものが、その後副隊長まで昇進し、結婚して子供を授かる頃には頻繁に寝込むような状況になり、護廷隊の中では浮竹十三番隊隊長と同様「卓絶した能力を持つものの、残念ながら体の問題で常時それを発揮できない人」という扱われ方をしていた。

今回は久しぶりに体調が安定していたため現世派遣部隊を率いることになったのだが、結局三日目にして高熱で寝込んでしまい、天幕内で床に伏せる状況となってしまった。幸か不幸かこの二日間敵と遭遇することはなく、蒼純もようやく指揮が取れるレベルには回復してきたことで、乙坂をはじめ配下のメンバーは胸を撫で下ろしていた。

そこに一羽の地獄蝶が飛んできた。

「副隊長、前線から会敵の報が入りました。想定通り最下級大虚1体です」

乙坂がそう伝える。

「済まないが、私はまだ出られそうにない。事前に伝えた通りの布陣で対応するように」

「了解しました」

乙坂も瞬歩で前線へと向かう。体調が小康状態であったとはいえ、蒼純の病が再発することは容易に想像できる事態であったため、その状況を前提とした作戦も事前に用意されていたのだ。

一人天幕に残された蒼純は、次なる連絡に備え最低限の身支度を進める。まだ前線に立てる体調ではないものの、現場指揮官として最悪の事態に対処するための準備はしなければならない。

地獄蝶からの通信で戦闘開始の報告を受けたとき、天蓋の外から未知の霊圧が接近していることに気が付いた。今回の遠征メンバーに限らず自分の知る死神のものではないし、虚のものでもない、明らかに異質な存在であった。

 

「邪魔するぜ、死神さんよ」

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