Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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完全に毛色の違う現代転生モノのオリジナル小説を書き始めました。
よろしければ著者ページからご覧ください。


第三章: Past in Flames (3) ― Spectral Binding

――爆炎。

 

中からナジャークープが現れる。

致命傷というほどではないが、結構な痛手を受けてしまった。

「そうか、その『霧』が増えてるんだな……」

「私の水霞流桜から発生する霧は霊圧による攻撃を打ち消すことができる。そして、これは私が解放している限り発生し続ける」

そう言うと、3つの嘴状の突起が空中に現れる。

「貴様は時間が自分の味方になると思っていたようだが……残念だったな」

突起がナジャークープに向かって疾走する。

「縛道の三十、嘴突三閃」

ナジャークープは背後の――キルゲが能力によって作り上げた――檻に拘束される。

「外のお前も首を洗って待っていろ」

蒼純は目線を外で待機しているキルゲに向ける。そして改めてナジャークープに向き直り、言霊の詠唱を始める。

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節――」

そして、違和感に気づいて目を見開く。

 

「残念だったな」

ナジャークープは自身を拘束していた突起を砕きながら歩き出す。

「あんたの霊圧はもう見切ったぜ」

ナジャークープに与えられた力は無防備(ジ・アンダーベリー)。相手の霊圧配置を観察し、「モーフィン・パターン」を打ち込むことで一定時間麻痺させることができる能力である。その「観察」にはそれなりの時間がかかるため決して使い勝手の良い能力ではないが、今回のようにお互いが時間をかける選択をした場合にはデメリットを無視できるのだ。

「貴様……」

先程のナジャークープのように目に見える形で拘束されてはいないものの、四肢の動きが奪われただけでなく霊圧も封じられており、詠唱に入っていた鬼道も不発となってしまった。

 

「あんたに恨みはねえが、これが仕事なんでな」

そして、ナジャークープに貫かれた朽木蒼純は息絶えた。

 


 

本来の討伐対象であるメノスを倒し戻ってきた隊員が副隊長の死体を発見したのは、結局キルゲが「監獄」を解除し、滅却師一行が見えざる帝国に帰還してから更に30分ほど経ってからのことであった。

死体にも周辺にも霊圧の痕跡は残されておらず何によって殺されたのかはわからなかったが、状況から見て護廷隊には戦死として報告された。残された隊員の一部は予定を延長して現世に残り索敵を行ったが、結局成果を得ることはできなかった。

 

一方、帰還した滅却師達は見えざる帝国で得られた成果についての検討を進めていた。ユーハバッハから与えられた「聖文字」は一定の有効性はあるものの、一方で基礎戦闘力に直接寄与しない関係上(特に「聖文字」を与えられない一般の滅却師にとっては)そちらの方の充実も必要である、というのがキルゲの感想であった。実際今回もナジャークープは最後蒼純の鬼道をまともに受けて相当なダメージを負っており、しばらくは戦線に出られる状況ではない模様である。

「報告ご苦労」

治療で出てこられないナジャークープに代わり報告に来たキルゲに、ユーハバッハは声をかける。

「無論わかっている。基礎能力についても、近々お前達に話してやれることがあるはずだ」

部下の大怪我の報にも特に動じる様子もない。

「案ずるな。私と歩む限り、道に障害など存在しない」

 


 

「――滅却師、ですか。また懐かしい響きですな」

「確定情報ではありません――というより、『僅かな可能性』程度の話です」

四番隊隊長卯ノ花烈。治療部隊の総責任者である彼女はその経験から人体の構造に詳しく、治療のみならず不審死や戦死者の検死を担当することも少なくない。卯ノ花がこうして未確定の情報を口にするのはあまり例のないことではあったが、隊長同士の業務連絡というよりは、検死を担当した責任者として遺族への情報提供といった意味合いなのだろう。

 

「蒼純さんのご遺体にはほとんど霊圧の痕跡が残されておりませんでした。こと知性のない虚であれば尚更、霊体同士の戦闘があれば何らかの痕跡が残るもの。それが全く存在しないということは、何らかの作為があったことを意味しています」

「なるほど」

「涅隊長の見解ではごく僅かに残された痕跡に滅却師の可能性を疑う余地があるとのことでしたが、いかんせん微量過ぎて断定はできないとのこと」

20年近く前、十二番隊に新たな組織が作られた。名を技術開発局といい、護廷十三隊における開発や分析といった技術的な部分を一手に引き受けるものである。検死などを通じて未知の残留物などに触れることのある四番隊は、必要に応じて彼らの協力を仰ぐことになっているのだ。数年前の一件で初代局長が追放刑に処されて以降、十二番隊隊長の座とともに涅マユリがその後を継いでいた。

「まあもっとも、滅却師は100年も前にほぼ滅んだはずですし、いくら病の影響があったとはいえ席官クラスの隊員の霊圧知覚にも察知されずに副隊長を殺害できるほどの手練がまだ残っているのか疑問ではありますが…」

もっともな疑問である。

いくら隊長格は限定霊印による力の制限を受けているとはいえ、それでも本気で戦えば周囲に展開していた隊士達に霊圧が察知されるはずであり、そうならなかったということは「戦闘になる前に一方的に殺害された」可能性を示している。実際、滅却師の掃討作戦にはさほど大きな戦力が投入されたわけでもないにも関わらず、滅却師の主だった戦力は壊滅したと評価されており、そこからせいぜい3世代やそこらでそれだけの実力者を散発的に使うというのは合理性を欠いて見える。

「当時あの戦いに参加された方としては、どのようにお考えですか」

「……私も概ね同意見です」

銀嶺も卯ノ花の意見に同意する。件の掃討作戦より前から滅却師との小競り合いによく関わってきた彼からすれば、滅却師の技術のレベルや方向性がこんな短期間で大きく変わるというのは考えにくいことだった。何より、彼の知る滅却師は「誇り」を頻繁に口にするような手合であり、このような「騙し討ち」を仕掛けてくるとは思えなかったのだ。

 


 

一方銀架城の一角、とある研究室で若手滅却師の深沢宗は報告書を取りまとめていた。今回上司であるキルゲ・オピーの配下として隊士達の動向を監視していた彼は、その作戦の副次的な成果として席官の戦闘力・戦術を観察しており、それを今後のための資料にしていたのだ。

「はぁ、やっぱり後味よくないなぁ……」

先だってキルゲに違和感の相談をしたはものの望むような答えは得られず、むしろ自身の信念との齟齬に更に頭を悩ませることになってしまっていた。元々滅却師にとって打ち倒すべき敵は死神ではなく虚であったはずだ。今回打ち倒すべき虚を「利用」して死神を殺害するという作戦に参加したことは、――おそらく上司が思っている以上に――自身の心に大きな影を落としていた。

そうした想いから、現在作成している報告書は単なる「敵方の戦力分析報告」ではなく、「いかに彼らの利用価値があるのか」という点に視点を置いて作られている。同じ虚という共通の敵に対処するのだから、変に対立することなく協力できるのではないかと考えているのだ。

 

「深沢さん」

そうして作業をしていると、研究室にキルゲが現れた。

「すみません、今日中には提出できると思います」

上司に仕事の進捗を報告する。

「いえ、別に急かすつもりではないんですよ」

あくまでも物腰は柔らかに、しかし眼鏡の奥から鋭い眼光を覗かせつつ部下に声をかける。

「どうも、良くない『誤解』をしているのではないかと思いまして」

そう言いながら深沢の手元にある書類を一瞥する。

「今回あなたにお願いしたのは、あくまで『戦う相手』としての彼らの分析です。あたかも私達が彼らと共闘する可能性があるかのような話は……」

そうして目を深沢の方に向け直す。

「わかりますね、深沢さん?」

「は、はい……」

「そもそも、彼らが虚を斬るのは三界のバランスを保つためであって、虚に襲われる人間を守るためではありません。だからこそ、『魂の救済』などと甘いことを言えるのです」

そう語るキルゲの表情には一抹の憎悪が浮かぶ。

「三界のバランスというのなら、そもそも今の循環を作ったのも彼ら自身なのですから、虚を滅しても問題のないシステムを彼らが作るべきなのです。それをせずに、あまつさえ私たちに刃を向けた人達を『敵』とみなすことに、何の問題がありますか?」

 

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