Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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今回更新で過去編は終わりです。
…次回ちょっと幕間を挟むので、元のタイムラインに戻るのは次の次からですが。


第三章: Past in Flames (5) ― Confront the Past

「何か後ろでコソコソやってたみたいですが、覚悟は決まったようですね」

前線に戻ったキルゲを、明らかに手練と見える死神が出迎える。見たところまだ青年といった風貌で顔立ちも物腰も穏やかではあるものの、一方首から下の筋肉の付き方は明らかに前線戦闘職といった佇まいで、強敵であることがひと目で理解できた。

「……別に気にしていただくようなことはありませんよ」

そう言いながら神聖弓を構える。

「そうですか」

対する死神も斬魄刀を抜く。

「まあ貴方達が何を企んでいようが関係ありません。ここで皆斬って仕舞いです」

「そうはさせませんよ」

瞬間、キルゲは神聖滅矢を死神に向かって連続的に打ち込む。

当たればそれなりのダメージは与えられるはずの攻撃だが、もちろんそれが相手に届くことはない。死神は事もなげに矢を避けると斬魄刀の刀身に左手を添える。

()(くず)せ、瑯嶽(ろうがく)

死神が解号を唱えると、斬魄刀が両刃の大剣へと変化する。特筆すべきはちょうど左手を添えていた鍔より刀身側の部分に別の「柄」のような部分が形成されている点だろう。

「……死神に洋剣を扱う人がいるとは思いませんでしたよ」

「ほう、やはり滅却師はあちらの文化に詳しいんですね」

そう言いながら、左手で刀身側の柄を握り、槍のような構えを取る。

「斬る相手には名乗るのが流儀ですので。六番隊第三席小此木洸、参ります!」

そう言うと、瞬歩で距離を詰め突進する。滅却師にも飛廉脚という高速移動手段はあるものの、自らの体内の霊圧を用いる――どちらかと言えば体術の範疇であり、どの領域でもある程度のパフォーマンスを発揮できる――瞬歩とは違い、周囲の霊子濃度に左右される飛廉脚は現世において死神の後塵を拝する結果となってしまう。

「くっ……!」

結局、避けきれずに神聖弓でいなすことを強いられる。一旦突きの軌道を弓で逸らしてから、離れ際に矢を打ち込むことを狙ったのだが――

「!?」

軌道は確かに逸らしたはずなのだが、衝撃の瞬間に左肩に激痛が走った。痛みにひるんだところに二撃目が繰り出され、今度は弓でまともに受けてしまう。その衝撃は膂力による突きの重さでは説明がつかないほどであり、左腕を動かすことが困難な状況にまでなってしまった。

「あっけないものですね。それではもう弓を構えることさえできないでしょう」

そう言いながら小此木と名乗った死神は大剣を構え直す。

「私の瑯嶽は、与える衝撃力を損失なく伝播させます。衝撃を殺したりいなしたりしようとしても、その力はすべて一点にかかるのです」

腱が切れたのか、あるいは関節が抜けたのかは分からないが、確かに左腕はほとんど動かない。

「もはやあなたに反撃の手はありません。潔く投降しなさい」

そう言いながら、斬魄刀をキルゲの顔へと突きつける。

「…断ります!」

とっさに飛廉脚で距離をとる。

確かに左腕が使えなくはなったが、弓以外の戦闘手段がないわけではない。相手の斬魄刀への対抗手段はまだ分からないが、一旦時間稼ぎとして魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)を取り出す。

「まだ終わりませんよ…!」

 

 

とは言うものの、時間が経てば経つほど状況は悪くなった。いくら魂を切り裂くもので霊子結合を緩められる可能性があったとしても、その力を発揮させるためには実際に切り結ぶ必要があり、一方相手の斬魄刀の特性上―特に片腕となった現状では―受け止めることは困難であった。結果として自らの刃はあくまで反撃の手段でしかなく、相手の攻撃に対しては回避に徹する他ない。だが一方速度でも相手の方が勝っている現状では致命傷を受けないまでも少しずつ体の各所にダメージを負っていくことになる。

「いい加減諦めたらどうですか」

「ご冗談を」

そう返しはするものの、もはや息も絶え絶えといった状況だ。

「もう立っているのもやっとではないですか」

「なぁに、まだ奥の手があるのです……!」

キルゲがそう言うと、その背後に弧状の霊子が浮かび上がる。

次の瞬間、動かなくなっていたはずの左腕が本来の動きを取り戻し、小此木に向かって大量の矢を放つ。不意を突かれた形となった小此木はとっさに斬魄刀で防ぐも、防ぎきれなかった数本が四肢に刺さってしまう。

「…どこにこんな力が……!」

小此木は知る由もないが、これは乱装天傀という滅却師の奥義の一つとされる高等技能であり、撚り合わせた霊子の糸によって体の動かない部分を傀儡のように強制的に動かす技術である。本来は老いて体の動かなくなった者がなお前線に立つために生み出されたものであったが、応用すれば戦闘中に負傷した部分を補うことにも利用できるものだ。

「まだ続きますよ!」

そう言いながらキルゲは銀筒を小此木に投げつける。

銀鞭下りて(ツィエルトクリーク・フォン・)五手石床に堕つ(キーツ・ハルト・フィエルト)――五架縛(グリッツ)!」

キルゲがそう詠唱すると、投げた銀筒を起点として星状に銀色の帯が展開し、小此木を包む。

「畜生――!」

小此木はとっさに帯を斬ろうとするが、その抵抗も虚しく繭状のものに取り囲まれてしまった。

「時間稼ぎに過ぎません、が……」

技が決まったことを見届けたキルゲは、飛廉脚でその場から急いで立ち去る。

「十分目的は果たしたと言えるでしょう…」

そうして彼自身もまた命からがら見えざる帝国へと逃げ延び、その場で気を失ったのだった。

 


 

――銀架城の一角、自らの執務室でキルゲは100年ほど前の戦いを思い返していた。

先程部下に対して厳しいことを言ったはものの、自身もあの時死神から寝耳に水の襲撃を受けたあの日までは、「滅却師と死神が力を合わせる日がいつか来る」と信じていた口であった。

しかし、その日は来なかった。尸魂界は騙し討ちの如く突然に武力をもって侵攻してきたのだ。結局自身のいたコミュニティは早期に見えざる帝国への退避を決めたことが奏功しそれなりの生存者を残すことこそできたが、その他のコミュニティではほぼ全滅に至ったところも少なくないようだ。その上、逃げ延びた先ではより力のある元々居住していた滅却師たちから「離反者や敗残兵の末裔」と蔑まれる生活になっており、命が助かった「だけ」でしかない状況であった。

キルゲ個人にとっては幸いなことに見えざる帝国は実力主義の世界であり、怪我から回復しその実力を示すことができた彼はあっという間に責任ある立場へと登用された。一方、一緒に逃げてきた者の多くは元々非戦闘員であり、必然的に苦しい生活を強いられることとなってしまった。彼らをここに逃した事自体が自身の判断であったキルゲにとっては、たとえ自身が良い生活を遅れていたとしても心苦しさに苛まれる状況であった。

あれから百余年。

積んできた研鑽と、始祖ユーハバッハから与えられた力により、ついに滅却師は高位の死神とも渡り合えるほどの存在となった。勿論死神に対する憎悪は当然ながらあるものの、一方で個人的な感情では未だに「話せばわかる死神もきっといるのだろう」という思いは心の片隅に残っている。しかしながら、既に彼は星十字騎士団の一人であり、自らの背に多くの同胞の命運を背負う立場である。100年前、自らの力が及ばなかったが故に多くの仲間の運命が狂った、あの時のような悲劇はもう起こす訳にはいかない。その信念のもと、キルゲは今日も業務と訓練に勤しむのであった。

 


 

朽木銀嶺にとって100年前の戦いがなんであったかと言えば、とにかく「後味が悪い」の一言に尽きるものだったと言えよう。もちろん尸魂界の死神も実力主義であり、いわゆる「女子供」がいないわけではない。だがそうした者は例外なく卓越した実力を持つが故にそうした場にいるのであって、乏しい力を振り絞って勝てるはずのない相手に向かうようなことは想定されていない。結局最後「一騎打ち」をした黒崎某を名乗る女性滅却師でさえ――他よりは確かに強かったとはいえ――せいぜい上位席官レベルというのが関の山で、到底隊長格と渡り合えるようなものではなかった。

最終的に彼女を斬ったあたりで組織的な抵抗はほぼ収束し、戦闘能力をほとんど持たない者を僅かに残すレベルにまでなったため、銀嶺は自らの権限で作戦終了を宣言し尸魂界へと帰投した。無論「殲滅」を掲げていた隊長紅伶からは叱責を受けることとなったが、一方その後四十六室の判断としては特に問題なしという判断であった。元々今回の作戦の目的は「滅却師が虚を滅却することで三界のバランスが崩れることへの対処」であり、主だった戦力さえ壊滅させてしまえば残った僅かな者たちではそれほどの影響力を発揮することはもう無いと考えられたのだ。

最終的に各分隊の報告を総合する限り、非戦闘員など一定の「取り逃し」はあったものの、大部分の――特に尸魂界の席官に匹敵するレベルの――有効な戦力はほぼ完全に壊滅したものと考えられ、実際その後しばらく状況を見る限り滅却師の手によると思われる虚の消滅はほとんど観測されなくなった。

その後まもなくして引退した父紅伶の後を継いだ銀嶺は「滅却師対策」の責任者も同様に引き継いだわけだったが、その任もしばらく前に「滅却師側の戦力が有意に回復する見込みは当面なく、その役割を終えた」として解かれている。今回息子の戦死に滅却師が関わっている可能性があるという情報が十二番隊からもたらされたとしても、自身がその滅却師をよく知っているが故に、やはり実感として納得できるものではなかった。

結局その後銀嶺の指揮のもと、蒼純が陣を張っていた地域でしばらく「下手人」を捜すための作戦が展開されたはものの、結局明確な成果を上げることはできなかった。

 


 

数年後。

もうほとんどの者が寝静まった深夜だというに、銀架城の一角にある資料庫に動く人影があった。キルゲ・オピーの元で研鑽を積み今や部下を持つ立場になった、若手滅却師深沢宗その人である。戦闘能力というよりは事務作業や教育といった側面が評価されて立場を得た彼が資料庫に出入りすること自体は珍しいことではないのだが、深夜に人目を避けるような形で行動するというのはただ事ではなさそうだ。

深沢が触っていたのは主に教育用の資料であった。滅却師最終形態や各種銀筒の取り扱いに関するものの他、最近ユーハバッハからもたらされた「血装」なる新しい戦闘技術まで、新旧取り混ぜられている。ここ数年間ユーハバッハは聖文字を筆頭にいくつかの新しい力を与えており、そうしたものが星十字騎士団隷下の各組織で文書化・共有されていたのだ。深沢は、こうした資料やそのための資材を取りまとめているように見えた。

そして、しばらくの作業ののち、深沢はその場から忽然と消えた。

 

上司であるキルゲ・オピーが異常の報告を受けたのは、その翌朝のことであった。深沢が朝礼に出て来ないことを不審に思った部下から相談を受け、彼の居室を訪れたところ既にもぬけの殻だった。彼が居室に持ち帰っていたはずの研究資料や銀筒、苦難の手袋(ライデンハント)といったいくつかの古い戦具も同時に消失しており、彼が持ち逃げしたであろうことはほぼ確実な状況である。事を荒立てたくないキルゲは一旦腹心の部下数名に城下の様子を見に行かせたが、案の定その痕跡はまったく発見できない。

結局キルゲは状況の隠蔽はもはや不可能と判断し、ユーハバッハに報告に向かった。

 

「以上の状況を考えると、一部の備品・資料とともに現世へ出奔したものと思われます。私の管理不行き届き、申し訳ありません」

「良い、捨て置け」

ユーハバッハはそう一言で切り捨てる。

「……はい?」

叱責を予想していたにも関わらず想定外の言葉が飛び出し、思わず素の言葉で聞き返してしまう。

「捨て置け、と言ったのだ。その者が今知りうる程度の情報がどこへ流れようと、私の描く未来に支障などない。お前には、もっと価値のある仕事をしてもらわねば困る」

「了解しました」

 


 

現世へと出奔した深沢は、そのまま現地の滅却師に合流した。

百余年前の侵攻で主だった戦闘力が壊滅したとはいえ、非戦闘員を始めとしてある程度の生き残りは――特に誇りに重きを置く六番隊の隊士が力のない人間を斬ることを嫌った結果として――まだ現世各地に点在していた。深沢は最終的に、日本は東京の西部で人間社会に混じって生活を送っていた最大級の共同体の一つに身を寄せることになった。死神の襲撃によって戦力になりうる者の大半を失った共同体はいずれも、日々の対虚戦闘のみならず血統の維持が非常に困難になっており、若い男性である彼は歓待されることになる。

奇しくも日本では社会制度として人間を管理する仕組みが作られ始めた頃であり、以前の出奔者に比べるとそうした体裁を整える点においては多少の苦労はあった。近世の世の中であればどこからか人が一人街に紛れ込んで生活を送っていたとしても特段の不都合はなかったが、こうして人間の管理が行き届き始めた時代には事あるごとにその素性が要求されるようになるため、現世の外側という一般の人間には認識できないところから流れ着いた人間をどう扱うかというのはこの時代以降霊能力者の共同体はどこであっても頭を悩ませる問題となる。とはいえ、深沢は単に若い男性の純血統滅却師というだけでなく、持ち込んだ各種の技術は戦力的に壊滅したコミュニティにとっては非常に有用なものであったため、結果周囲の滅却師達の支援によって現世にしっかりと根を下ろして生活できることになった。

最終的には血統を守りたいという一族のニーズと、自身の居場所を公的・書類的にもしっかり確保したいという深沢自身のニーズが噛み合った結果、合流早々に意気投合した現地の女性と結婚し、純血統滅却師の家である石田家に婿入りすることになった。婿入りに際して石田家の仕来りに従って「弦」の字を足して「宗弦」と名乗るようになった彼は、その後一児の父として滅却師としての生活と同時に定命の人間としての生活を送るのであった。

 

 




やっとアニメ見始めました。
冒頭の演出、明らかにエヴァのオマージュですよね??
ああいうの大好物です。
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