Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第四章: Sorceress Queen
第四章: Sorceress Queen (1) ― Witch's Cottage


 

巡らされた(はかりごと)

仮初の結束

新しき刃

(いにしえ)の牙

 

この門の先に待ち構えるのはいずれだろうか

 


 

鬼道衆という集団は瀞霊廷に置かれた実力組織でありながら、その職掌については関係者を除くと驚く程に知られていない。例えば刑の執行や未知の敵への対処といった業務では護廷隊と連携することも少なくないが、それ以外に何をしているかについては――隠密機動や技術開発局といった護廷隊の傘下にある組織と異なり――護廷隊席官レベルでもほとんど知らないと言ってよいだろう。

元々護廷十三隊よりは遥かに世帯の小さい組織である鬼道衆は大鬼道長・副鬼道長の下いくつかの班に分かれており、各班はそれぞれ一定の職務を司っている。同じ鬼道を専門とする死神の中でも、新しいものを生み出すことに長けた者と既存技術の運用に長けた者ではその素質自体質が異なるものであり、また担当する職務の範囲ごとに班が分けられる関係上、主に研究開発や教育を担当する班と実力行使を担当する班の間で派閥化する傾向にあった。

もちろん組織上の優劣はないものの、前鬼道長握菱鉄裁が実力行使専門部隊を渡り歩いた結果その地位についており、また人数も実力行使部隊の方が必然的に多くなってしまうため、どちらかと言えば研究開発畑の職員は少し肩身の狭さを感じていた。現状組織のトップ2がどちらも外部出身ということで、こうした組織内の力関係については現大鬼道長鹿良澤三姫の悩みの一つであった。

「桃ちゃーん、羽織どこだっけ」

今日は数年ぶりに霊術院からインターン生が来るということでその受入準備をしているのだが、最近の暑さに負けて脱いでいた大鬼道長の青羽織が散らかった執務室内で行方不明になっていた。流石に新任の若手を迎えるときに組織のトップが正装でないというのは格好がつかないわけで、ちょっとした問題発生である。

「なくなったら困るから預かって、って言ったの鹿良澤さんじゃないですか」

そう言いながら副鬼道長雛森桃が入ってくる。

「そうだったっけ、ありがとう」

部下に小言を言われるのは慣れっこ、といった雰囲気で手渡された羽織に袖を通す。この羽織、実は雛森が手渡された後洗濯して火熨斗まで当てているのだが、当然ながら鹿良澤はそれに気づくことはない。

「さて、出迎えに行きますよ」

コンスタントに新規配属者が来る護廷十三隊であれば隊内の人事的な部分や後輩の教育を担当する席官が出迎えるのが通例だが、小世帯で人員にあまり余裕がなく、何よりこうした受入実績がほとんどない鬼道衆では今回トップ2が揃うという「手厚すぎる」歓迎となった。

「本日からお世話になる観音寺です、よろしくお願いします!」

観音寺は慣れない敬語でそう元気よく挨拶する。生前は長いこと「芸能人」、それも人気番組を持つ「ヒーロー」として活動してきた彼にとって、組織で働くというのは遥か昔の若い頃以来のことである。

「ああよろしく。私は大鬼道長の鹿良澤、こっちは副鬼道長の雛森だ」

そう自己紹介すると、観音寺を促して隊舎へと歩き始める。

「観音寺さんは院生時代もうちには来られてないですよね」

歩きながら雛森が尋ねる。

「鬼道衆にも十三隊にも来たことはありません」

観音寺は慣れない敬語でそう答える。

「なるほど、じゃあ今日は隊のお仕事や隊舎のご紹介からですね」

「よろしくお願いします」

 

まとまった人数が配属する十三隊――特に十一番隊を筆頭とする戦闘職――では何らかの式典をやったり全体でのオリエンテーションをやったりといったイベントになるが、鬼道衆という小さい世帯では個別の対応をする以外の選択肢はない。結果として、トップ2が――ほとんど副鬼道長の仕事になることはもう明らかだが――その面倒を見ることになった。

「ということで、鬼道衆では鬼道技術の新規開発・改良をしたり、一方で各種儀式の補佐や戦闘派遣といった実力行使の方にも携わったりしています。実際には明日以降まず適性を見てからの判断になりますが、観音寺さんはどちらに興味がありますか?」

「うぅん……どちらか言えば開発の方ですね」

かつて自ら編み出した独自の術によって除霊や虚との戦いを行ってきた観音寺にとって、死神の力という体系的なものの上に何が積み上げられるかは興味のある範囲の話である。

「なるほどわかりました。それでは、今日はそちら側の仕事をしている班の方からご紹介していきますね」

 


 

朽木家の屋敷の一角。

一頃は五大貴族本家の屋敷として相応しい賑わいを見せていたこの屋敷も今やかなりの寂しさとなっており、その結果使われていない場所というのが数多く存在している。そんな中、事後承諾的に……というよりはほとんど勝手に作られた隠し部屋がこの女性死神協会の本部である。実際作られてからしばらくの間は完全に無許可であったものの、先日朽木ルキア十三番隊隊長が会長に就任した結果として、なし崩し的に許可が「降りた」ことにされてしまったというのが真相なのだが。

さてこの女性死神協会、元々は男性社会である護廷十三隊における女性死神の地位向上という建前で設立された組織ではあるものの、設立当時から既に隊長格の半数近くを女性死神が占める状況になっており、また男性の隊長格が軒並み女性陣に大して強く出られないという属人的な状況も相まって、現在は――議題によっては中央四十六室に匹敵するほどの――瀞霊廷屈指の圧力機関となっている。

「さて今日の議題の一つ目ですが……」

あいも変わらず議事進行を担当する伊勢七緒は、手元の書類に目をやりながらそう言う。以前の草鹿やちる会長体制下から席次が2つほど上がり、今となっては名実ともに女性死神を代表する立場になっているのだが、結局彼女以上にこうした仕事に向いている者がいないため、理事長自ら進行役を担うことになっている。

「ルキアさんの昇進に伴い空いた理事の席について、十一番隊第五席阿散井苺花さんを推挙する議案が会長から出ておりますが、異論はありますか?」

「認められるわけがなかろうが、身内の推薦など」

最古参の理事の一人、砕蜂が不機嫌を隠さずに言う。

「えー、席次も足りてるし、十一番隊の女性少ないからいいと思うけどなぁ」

一方同じく古参理事の松本乱菊が反論する。確かに十一番隊という隊は荒くれ者の集団という側面があまりにも強く、戦闘職がそれなりに多い七番隊などと比べても完全に男社会である。元々十一番隊に在籍し斑目副隊長を師と仰ぐ父によって半ば叩き込まれた感はあったものの、父親譲りの勝ち気な性格から十一番隊では極めて珍しい女性隊士としてその立場を確立しつつある。元々女性死神の地位向上を目的とした組織である以上、確かに苺花に地位を与えるというのは筋が通っているようにも聞こえる。

「だからといって会長が自身の娘を推すのは公私混同だろう」

砕蜂が強硬に反対しているのは、彼女のいう表向きの理由の他に協会内の力関係という裏事情を考えてのことでもある。先の大戦で会長と理事長を一気に失った協会は――尸魂界全体がそうであったように――変化を余儀なくされたが、その後協会の実権を握ったのは最古参の女性隊長である矢胴丸リサであった。しかし、かつての上司以上に奔放なその性格が災いし女性死神協会の運営自体も相当にいい加減になり、砕蜂を筆頭とした規範意識の高い死神が反発、あわや協会分裂の危機に瀕したのが30年ほど前のことである。結局両者の仲裁に入った七緒がリサに代わり理事長となることで一旦収まりはしたものの、今でも派閥争いの火種は燻っている。会長も中立的な人選を、ということで指名された雛森桃が鬼道衆に異動となり一旦協会から抜けることになったのだが、その後任に据えられた朽木ルキアは中立の立場でありながらも、事あるごとに乱菊や夜一といった奔放な人間に言いくるめられる状況が頻発しており、砕蜂としてはこれ以上自由人が理事の席に増えるのは何としても阻止したいというのが内心であった。

一方こうなってくると頭が痛いのは取りまとめ役の七緒である。卯ノ花が理事長を務めていた頃は、最終的に自体が紛糾した場合でも最終的には――「剣八」という素性を知っていた人間はほぼいなかったとしても――実力・凄みによって有無を言わさず黙らせることもできていた。一方七緒は鬼道では隊長格を見渡してもそうそう並ぶ者のない実力者であるとはいえ、二番隊・八番隊両隊長を抑えられるほどの実力があるわけでもない。実際以前小競り合いに発展した場合にはこの協会本部の部屋自体に被害が出るに至り、最終的にはルキアの仲介でなんとか追い出される事態を回避した、という経緯もあった。結局七緒としては争いが表面化しないよう、何とか両者を説得するしかないというのが現状である。

今回、阿散井家から2人という絵図が良くないのは確かだが、一方で十一番隊からのメンバーを受け入れるという点では筋が通るのも事実であり、そういう面では無下に却下するわけにもいかない。今日も今日とて七緒は個性の強いメンバーの議論をなんとか調整することに心を砕くのであった。

 

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