Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

24 / 65
第四章: Sorceress Queen (2) ― Madcap Experiment

「まっ…ことに申し訳ない!!」

観音寺はそう言いながら土下座する。

配属二日目、今日は――一応霊術院から送られてきた書類である程度は把握しているとはいえ――練習場で実力試験を行っていた……のだが。

そう、久しぶりの「やらかし」である。

「いやぁ、やらせた私の責任だよ、仕方ない」

そう言いながら笑う鹿良澤に雛森が「そんなんだから予算が減るんですよ」とツッコミを入れる。

最初のうちは通り一遍の測定などを行っていたのだが、霊圧が想像以上のものであったことに気を良くした鹿良澤が霊術院ではまったく習いもしない五十番台の鬼道を撃たせたりした結果、破道の五十四・廃炎が標的用の結界から大きく逸れ、危なく練習場を炎上させる事態になるところであった。

「まあ、でも観音寺君の実力はよくわかったよ」

ひとしきり笑ったあと、真面目な顔をして鹿良澤はそう言う。

「うちの設備は技術開発局ほど立派じゃないけど、それでも色々わかるものでね。君の素質は……普通に護廷隊でも引く手数多なレベルだと思うけど、本気でうちに来たいのかい?」

「私としては斬術や白打にあまり自信がなく、向こうでやっていける気は…」

観音寺は素直に自身の不安について素直に口にする。彼は岩鷲・竜弦のような万能型ではなく鬼道一本の腕で特進クラスにいたようなものであり、十三隊でやっていけるとはあまり思っていなかったのだ。

「なぁに、そんなのは些細な問題さ。七緒ちゃんなんか典型だけど、鬼道専門でもあっちでやっていける人は少なくないよ」

現在一番隊の副隊長を務める伊勢七緒は、元々斬術や白打の才には恵まれず鬼道衆を志望していたところ、当時の隊長・副隊長の力添えもあり八番隊に入隊した経緯がある。結局護廷十三隊は――一部の戦闘に特化した部隊でもなければ――官僚組織という側面もあり、斬拳走鬼いずれかの分野で最低限の戦闘能力さえあれば、あとは指揮能力や技術力といったそれ以外の要素によっても評価されうるのだ。

「とはいえ、威力はまあ院生としては凄い方ですが、コントロールとか考えたらそこまででもないように思うんですけど……」

本人に聞こえないように配慮しつつ、雛森は小声でそう尋ねる。

「そこなんだよ桃ちゃん。確かに観音寺君まだまだ技術的には未熟なんだけど、潜在的な霊圧が相当凄いんだよ」

はしゃいだような声色でそう答える。

「そんなに…ですか?」

怪訝そうにそう聞き返す。

「今発揮できてる力だけで言えば……古い言葉で言えば六等霊威くらい、まあ院生としては相当なものだけど、そこまでじゃないよね。ただ、潜在的にはもう四等くらいありそうなんだよ」

霊威等級というのはかつて貴族を中心に使われていた尺度で、端的に言えば霊圧の強さを示すものである。六等霊威といえば第三席クラスで、もちろん霊術院を出るか出ないかという時期としては異例の強さではあるものの、例がないわけではない。ただ、四等ともなれば副隊長でも上位に属するレベルであり、霊術院生がそんなレベルに到達していたとすれば――市丸ギンという例外を除けば――各所に衝撃の走る話である。

「なんだろう、観音寺君はどうも霊力を扱うときに変な癖があるっぽいんだよね。それでせっかくの素質がうまく活かせてない気がするんだ」

「癖、ですか……?」

「ここまでなのは初めて見るんだけど、もうちょっとわかりやすい例だと……ほら桃ちゃんの同期、阿散井君」

首を傾げる雛森。

「彼の場合はちょっと事情が違うけどね。でも隊長クラスに匹敵する霊圧だし、それなりに基礎知識もあるはずなのに鬼道がアレだけダメっていうのは……まあへんな癖がついててちゃんと霊力が出力に繋がってないってことだからさ」

「なるほど……?」

「多分観音寺君の場合はもっと手前、魄睡で生まれた霊力を鎖結で出力する過程でなんかロスが起きてるんじゃないかなー、と思うんだよね。何か自覚はないかな?」

言われてみれば腑に落ちる話でもある。観音寺は現世にいた頃――通俗的な表現をするのなら「生前」――ドン観音寺なる霊能者として長く活動していた。メディアに出演する多くのインチキ霊能力者と違い、彼は人間の身としては卓越した霊能力を有していた。代名詞たる「観音寺弾(キャノンボール)」はその弾速の遅さと消費霊力の大きさから侮られがちではあるものの威力は一般隊士の鬼道に匹敵するものであり、何よりその霊力の感知能力はともすればそうした方面を苦手とする一部の隊長格を上回るほどに高いものであった。だが、彼自身は――現世で行われている種々の無根拠な「修行」はいくつか経験したものの――霊力の使い方に関する何らかの体系的な訓練を受けたわけでもなく、また滅却師や完現術師のような「生まれ持っての特殊な素養」があるわけでもない。結果彼の使っていた力は「魂魄に有り余る霊力から漏れ出たモノの力押し」であり、そうした力押しを何十年も続けた結果として「変な癖」がついてしまっている可能性は十分にあった。

「恐らくですが、現世で暮らしていた頃に少々変な力の使い方をしていたようで……」

「なるほどね、じゃあまずはその癖を抜くことから始めることになるのかな。霊術院でそこら辺は……そうか、そのままでも院生としては十分過ぎるくらいだから気付かれなかったのか……」

そう一人で納得する鹿良澤。

「よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

そうして観音寺は再度基礎訓練に向き合い始めた。

 


 

配属から数日。

観音寺は教育資料を編纂する部署で下働きをしながら霊力運用の基礎訓練を受けていた。途中技術開発局の協力も受けたが、おおよそ鹿良澤の予想通り――恐るべきことに、だが――鎖結がほとんど働いていないという結果だった。つまるところ、霊力の発生源である魄睡で生まれた力が、ブースターである鎖結の作用をほとんど受けずにそのまま外部に放出されているということで、鎖結が正常に働くようになれば相当なものになることが予想された。一方で、通常霊力を扱う魂魄は意識せずに両者をバランスよく成長させていくものであって、尸魂界に蓄積された過去の事例を見てもこの状況の解決方法は思い浮かばなかった。……技術開発局の涅局長には「面白い事例だネ、私のじっk…被検体になれば助けてあげるヨ」とか言われたのだが、丁重にお断りしたのは多分正解だったはずだ。

仕事の方では思った以上の収穫があった。霊術院での初等教育は霊術院の教師陣の作成した資料で十分なのだが、それ以降――たとえば四十番台以降の鬼道や詠唱破棄のような高等技術に関しては、霊術院で使うものであるか配属後に利用するものであるかを問わず鬼道衆の監修のもと作られている。これらの資料の修正や整理をしていく中で、今まで見よう見まねや断片的な知識を元に無理やりやっていたものが体系的な知識の裏付けを得ていくことで、それなりに洗練されてきているのだ。

「大分サマになってきたね、観音寺君」

一通りの雑用を終え、練習場で一人自主練習に打ち込んでいた観音寺のもとに鹿良澤が現れた。

「お疲れ様です!」

「どうだい、感覚は」

「なんとなくつっかえみたいなのが取れてきた気はします」

「そりゃ何よりだよ」

鹿良澤はそう言って目を細める。

「さて、じゃあそろそろ新しいことにも挑戦していこうか。そろそろ基礎練習ばかりじゃ飽きるだろう」

「ありがとうございます!」

鹿良澤三姫は元々護廷隊出身ではあるものの、鬼道衆に異動してからそろそろ百年は経とうかという古株であり、近年は新しく入ってくる隊員の教育に関わることが多い。同じ護廷隊の鬼道の達人といえば副鬼道長雛森や伊勢七緒のように新しい物事を生み出すことに長けた者が多い印象だが、鹿良澤はむしろ卓絶した基礎能力によってその名を知られていた部分がある。即ち扱える鬼道の多さであるとか、霊力を無駄なく結果に結び付けられる効率性であるとか、そういった部分こそが彼女の強みであって、それは必然部下を指導する際にはかなり有効に働いていた。

「多分まだ縛道を使うのは難しいだろうし、観音寺君のせっかくの霊力を活かしやすい単純高出力なものをやってみようか」

鬼道の基本はある種の「回路」に霊力を流すことで変化させて出力に結びつけることにあるが、その出力の結果が複雑な効果になる傾向が強い縛道は破道に比べると「回路」の正確さや霊力のコントロールといった要素が――単純な霊力量に比べて――重視されるものであり、多少改善しつつあるとはいえまだまだ霊力の扱いが器用ではない観音寺にとってはやはり破道の方が当面扱いやすいものなのは確かだろう。

「とりあえず、こないだ無茶させちゃった廃炎をもう一回基礎からやり直そうか」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。