Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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初代隊長がいきなりお出しされて驚いてます。
新情報が本作と時系列的に絡まないのは幸運なのか不運なのか……。


第四章: Sorceress Queen (3) ― Resourceful Return

「で、なんで俺は連れてこられたんだ」

ここは虚夜宮。かつて自分が虚圏に来た頃は、「虚圏の王」が居を構えると言われてはいたものの、屋根すらない名ばかりのものだったはずだ。そのはずなのだが、今自分が連れてこられた場所は巨大な白亜の建造物であり、確かに宮という表現は適切に思えた。自分がメノスの森で戦っている数百年の間に、恐らくこの虚圏でも色々な変化があったのだろう。

「貴様に一つ、頼みがある」

玉座に座る、褐色肌の女破面がそう言う。メノスの森からここまで同行してきた部下と思しき3人も、また玉座の側に控える破面も全員が女なのだが、虚圏は女性上位社会にでもなったのだろうか……?

「気づいているとは思うが、貴様のいたメノスの森に巨大な霊圧源が発生した。その霊圧の質は虚に近いものだが、我々が知る限りあのような霊圧の主が虚圏にいた記録は、ない」

なるほどその件か、と雅忘人は納得する。確かに自分が地上へと弾き出された時に異常な霊圧を感じており、虚圏側が何か干渉してきたのかとも思っていたが、どうやらあれは虚圏の連中にとっても想定外のことだったらしい。

「どうやら、アレはこの虚圏の『外』から来たようでな。それはつまりこの虚圏だけでなく、現世や貴様らの尸魂界にも影響が及びかねない、ということだ」

話が大分見えてきた。つまり、あの謎の霊圧源にはこいつらも手を焼いている、ということなのだろう。確かにアレはやたらに異質なものだったのは確かで、それが虚圏の「外」に手を出しかねないというのであれば虚どもにだけ任せておくわけにはいかないかもしれない。

「そこで、だ。貴様には一旦この情報を持って尸魂界に帰ってもらいたい」

「また随分一方的な注文じゃねえか」

「私が知る限り、貴様にはここから尸魂界に帰る手段もないはずだが……?」

「別に俺は帰んなくてもいいんだ、ずっとあそこで狩りをしてたっていいんだぜ」

途端に剣呑な雰囲気になる。

「ちょっとちょっと、ここで争ってどうするのよ」

一種即発の空気の中、玉座の脇に控えていた碧髪の女破面が口を挟む。

「ここで私たちが争ってる場合じゃないでしょう。くだらないメンツは一旦横に置いて、まずはこの事態に対処するべきだわ」

「そんなにヤバいのか」

思わず反応してしまう。

「ええ、私たちの見立てでは、ね」

実際のところ、話の持ってこられ方は不愉快であるものの、懸案だった尸魂界への帰還方法が手に入るだけでも意味のある提案ではあった。虚圏の虚が尸魂界の死神と協力するというのは自分の時代ではまるで想像もできないことだが、長い時間を経て色々状況が変わったのだろう。

「で、俺はどうすりゃいいんだ」

「総隊長にこの情報を渡してくれればいい。過去の記録が向こうにあれば話は早いんだが……」

雅忘人の知る話ではないが、元々バラガン時代にはそもそも形に残る記録を残す習慣などろくに存在しなかったし、藍染惣右介の時代に蓄積された資料は滅却師の侵攻で多くが失われており、虚圏としては外部に蓄積された記録に期待するしかないというのが実情であった。

「よく分かんねえが、今回は乗ってやるよ」

そう言うと、差し出された情報媒体らしきものを受け取る。

「助かるわ。私も現世に行って浦原さんの意見を聞いてみる」

一方玉座の側にいた破面はそう言い残し、一足先に黒腔を開き現世へと旅立った。

「死神、お前の帰る道もこちらで開いてやる」

褐色肌の破面もまた、黒腔を開く。

「一度ここに来ているのなら、通り方はわかっているな?」

「ああ」

「じゃあ、よろしく頼む」

 


 

数百年ぶりに尸魂界に帰還した狩野雅忘人は、急ぎ総隊長の元へと馳せ参じた。

自らの知る山本元柳斎重國ではなく、尸魂界を発った頃にはまだ隊長ですらなかった京楽春水がその座に就いていたことには若干の驚きがあったものの、まずは経緯の報告と虚圏からもたらされた情報の共有という危急の要件が目下片付けるべき事案である。

 

報告を受けた京楽は、雅忘人に対しては一旦待遇未定のまま原隊である十一番隊への帰任を命じた上で、虚圏からの情報については内容を二箇所に共有する指示を出した。

第一の共有先は映像庁――というよりも綱彌代家であった。京楽自身もう数百年以上隊長格として護廷隊の中心に携わってきているが、それでもこのような巨大かつ異質な虚というのは聞いたことがなかった。綱彌代家には映像庁や大霊書回廊創設以前、太古の時代の記録が蓄積されており、恐らく尸魂界側に何らかの手がかりがあるとしたら綱彌代家の元以外には考えられなかった。

もう片方は言うまでもなく十二番隊・技術開発局である。過去の記録がどうあれ対処すべきは現在である以上は、「現在観測した状況」を分析して対策を立案するのはスペシャリスト集団である技術開発局であった。

 

一番隊隊首室に呼び出された涅マユリは、見るからに不機嫌といった様相であった。

「その情報であれば、既にこちらで観測しているヨ」

マユリは京楽からの情報共有を聞き――特に「浦原の元にも連絡が行っている」ということを聞かされたときには更に不機嫌になり――そう答えた。

「ま、そうだよね。優秀な技術開発局のことだ、報告が上がってこなくてもきっと気づいてくれてるとは思ってたよ」

半分おどけながら、一方状況の分析に取り掛かる前に報告がないことを言外に咎めつつ、京楽はそう言う。

「で、見立てはどうだい」

「自身の周囲の空間を歪める能力があると思われるヨ。どの程度意識的に行っているのか、またどの程度までその力が及ぶのかまではわからないがネ。叫谷から虚圏に行ったのもその力の影響だとするなら、尸魂界に来る可能性も否定できないヨ」

「やっぱりそうなるかぁ。どうだろう、対策はありそうかい」

「既に尸魂界全土の空間座標の歪みを監視する仕組みは準備を始めているヨ。それ以上の対策はもう少し情報が必要だネ」

「流石だねぇ。今別の方で資料当たらせてるから、過去の記録が見つかったら持っていくよ」

「……あまり期待しないで待っているヨ」

 


 

「お久しぶりですねぇ、ネリエルさん」

現世空座町の一角、浦原商店。店主浦原喜助は相変わらずの”ゲタ帽子”スタイルで虚圏からの使者、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクを出迎えた。

「久しぶり。一護は元気にしてる?」

「お元気ですよォ。気になるなら会っていけばいいじゃないですか」

「こう見えて私も忙しいの。それに、織姫ちゃんに悪いでしょ」

「……へぇ」

浦原は何か言いたげな表情を見せるが、ネリエルは気づかない振りで話を進めようとする。

「無駄話している時間はないわ。早速本題に入るわよ」

 

少しして。

「へえ……空間を歪める虚、ですか」

手元の機器で虚圏からの情報を見ながら、浦原はそう結論付けた。

「やっぱりそうなるのね」

「そこには気づかれてたんスね」

「まあ、いきなり何もいないところに出てきたらそれを疑うしかないわ」

「確かに。で、そこまでわかっていてここまで来た理由は何です?ひょっとして、ボクに会いたくなったっ……」

「冗談を言ってる場合じゃないわ」

混ぜっ返した浦原を即座に切り捨てる。

「叫谷から虚圏に来られたなら、現世に来る可能性だってあるわ。尸魂界と違って戦える人が少ないのだから、備えは必要でしょう?」

「ま、確かにそっスね。で、助けが必要なんスか?」

途端に真顔になり核心に切り込む。

「えぇ…まあ。とは言え、今じゃないわ。アレが何を考えているのかわからないけど、動きだしたときのために備えておいて欲しいの」

「なるほど」

「貴方なら、その情報からでも十分な備えができるはずよ」

「買い被りっスよ。アタシはしがない駄菓子屋なんスから」

「冗談はほどほどにしてくれるかしら?」

いつもの調子ではぐらかす浦原に対し、不快感をあらわにする。

「まぁ、やれることはやっておきますよ。コイツが思った通りの存在なら、少し厄介な事態になりそうだ」

「貴方が警戒するほどというのは心臓によくないわね」

「あくまで可能性の話っスよ。ただ、用心しておくに越したことはない」

「ま、よろしく頼んだわよ」

そう言い残すと、ネリエルはまた黒腔を開き虚圏へと帰っていった。

 

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