Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
みんな、FCに入ろう!(ダイマ
「ふむ、いいんじゃないかな」
所変わって一番隊隊首室。
虚圏からもたらされた情報がいかに面倒事であったとしても、総隊長がそのことのみにリソースを充てるほど差し迫った事態ではない以上、京楽は相変わらず他の業務もこなさねばならない。そうした総隊長の仕事の一つに、各隊隊長格の人事というものがある。もちろん総隊長立会の元行われる隊首試験は言うまでもないが、推薦による昇格や前任者との決闘による隊長就任であっても、形式上の手続きとはいえ最終的には総隊長の名で中央四十六室に届け出て初めてその地位が正式に認められるのだ。同様に、各隊の副隊長についても隊長には任命権があるとはいえ、隊長同様手続き上は総隊長の処理を必要としていた。京楽自身はこうした形式的な手続きは――特に自分の仕事を減らしたいという極めて利己的かつ現実的な理由で――なくしていきたいと考えているのだが、現状中央四十六室からの許可は降りていない。
目下の課題はしばらく前に――半ば京楽自身が横車を押したせいではあるが――鬼道衆副鬼道長へと異動した五番隊副隊長の後任人事であり、現在その件で同隊長平子真子が隊首室を訪れていた。
「ローズ君も優秀だって太鼓判を押してたからね。平子隊長が彼を選ぶなら、ボクにいうことはないよ」
「そんじゃあ後で直接声かけてきますわぁ」
「え?直接行くのかい?普通は隊首会とかでちゃんと話通すもんだけど……」
「あんま堅苦しいこと言いなや。先に一心にも話に行くからええやろ」
「ま、いっか。一心君によろしくねー」
しばらく後、三番隊隊首室。
数十年ぶりに隊長業務に戻った志波一心は書類仕事に追われていた。
かつて十番隊隊長を務めていた頃は日番谷冬獅郎という優秀な部下がサポートしてくれていたが、現在の三番隊では副隊長が尸魂界を飛び回っている関係で第三席以下席官が隊務をみる状況であり、畢竟自らが執り行うべき書類仕事を任せられる相手はいないのだ。
「おーっす、元気にしてるかー」
そうして書類と格闘しているところに、平子真子が現れた。
「平子隊長じゃないですか、どうしたんですか」
「ちぃと話あってな。今、ええか?」
「あ、大丈夫ですよ」
作業の手を止めてそう答える。一心にとって平子真子は大先輩であり、どうしても敬語で対応してしまう。
「相変わらず堅苦しいやっちゃな。話いうんはオマエんとこの第三席の件なんやが」
第三席、と聞いて一心は多少の引っ掛かりを覚える。先日副隊長である吉良イヅルから、「前隊長が少し気にしていたことですが、聞いてますか?」という形で第三席石田誠弦についての”懸念”を伝え聞いていた。曰く、何か具体的な証拠があるわけではないものの、頻繁に流魂街方面に――任務とは関係なく――向かっているらしいなど、十三隊の上位席官としては多少違和感のある行動をしているらしいという話であった。
「うちの石田が何かやらかしましたか……?」
「イヤやなぁ、そんな話とちゃうねん。ほら、雛森ちゃんが鬼道衆行っちゃったやろ?今後任を考えてるんやけど、ローズから優秀だって聞いてたしお宅の第三席引き抜かせて欲しいねん」
「あー……なるほど」
安心した一方で別の悩みが発生し、一心は思わず頭に手をやる。
「申し訳ないんすけど、まだ俺着任したばっかで隊内の状況把握しきれてないんすよね。一旦副隊長の意見も聞きたいんで、少し待ってもらっていいですか?」
「ああ、かまへんで。よろしゅう頼むわ」
平子はそう言うと、自分の隊首室に戻るべく長椅子から立ち上がる。
「ああ、総隊長がよろしく言うてたでー」
そして、思い出したかのようにそう付け加えると、五番隊隊舎に帰っていった。
虚圏。メノスの森とは別の方角の地下に、研究所があった。
研究所の主はアイスリンガー・ウェルナール、かつてNo.17の番号を与えられていた破面である。以前虚圏に侵入した黒崎一護一行と交戦した際石田雨竜に敗北し、止めこそ刺されなかったものの地底路の崩壊に巻き込まれ死亡したかに思われていた。しかし実際には重傷を負った状態で回収され、回復後しばらくはハリベル体制下で治療などの役割があてがわれていた。以前から破面化の手術等を担当していた経緯から就いたポジションではあったが、滅却師の侵攻以降平和になった虚圏では治療の需要もあまりなく、またハリベル体制では新たな破面化や虚・破面の改造といったこともほとんど認められなかったため、最終的には体制の下を離れてこの僻地に研究所を構えるに至っていた。
その後数十年、藍染惣右介やザエルアポロ・グランツの残した資料を解析した結果として、当時――崩玉を覚醒させる以前の――破面化とは一線を画するレベルに洗練された技術へと昇華していた。もちろんこの新しい破面化手法は既存の破面の戦力向上にもある程度寄与しており、その結果彼の研究所は時として大虚や破面達が訪れる場所となっていた。
「さて、これで一旦終わりだ。まあ、術後の様子見であと2~3回は来てもらうことになるがな」
「感謝するぜ、これであの死神に借りを返してやれる」
「死神、か。またこっちに来た連中がいるのか?」
昨今尸魂界との関係は緊張状態とはいえそれなりに良好であるという認識であったアイスリンガーは、患者の漏らした言葉に反応する。特に自身が生死の境を彷徨った原因もまた死神を筆頭とした侵入者であったこともあり、他の破面と比べても警戒心は強い。
「アレだよ。メノスの森に昔っからいた奴とひょんな縁でやりあってな」
「ああ、なるほど」
藍染の下で暮らしていた頃、東仙要の作った監視網に引っかかった死神の存在については聞いたことがあった。とはいえメノスの森で雑兵のギリアン相手をするのが関の山という認識だったため当時は誰も見向きすることはなかったのだが。
「そういやメノスの森と言えば、最近あそこにやたらデカい奴が現れたみたいなんだが、何か知ってるか?」
初耳である。
「どうも最近あそこのギリアンどもが結構減ってたっぽいし、また共食いでも起こったってことかね?」
そんなはずはないだろう。元々メノスの森は虚夜宮の統治に関わらない、いわば「雑兵」レベルのギリアンばかりが生活しているエリアであり、いくらそこで共食いが起こったとしてそこまで強力な中級大虚・最上級大虚がそう簡単に生まれるとも思えない。
「同じ場所で起きているというだけで、事象を軽率に結びつけるのはあまり賢い行いとは言えないな、イグアラダ」
「辛辣だねぇ」
「先入観で物事を判断するのは科学から最も遠い行いだ。状況を正しく知りたいなら、客観的な情報の積み重ねこそが大事なんだよ」
「そんなもんかね」
とはいえ、気になる情報である。
恐らくそこまで大きな虚が現れたというのであればハリベル麾下の破面が恐らく調査に来てはいるだろう。だが一方で科学者の血が「自ら状況を確認する」ことを求めているのも確かだ。そもそも現在の虚夜宮には――十刃きっての科学者であったザエルアポロや東仙要を失ってからというもの――こうした方面に強い者が不在であり、いざその存在が虚圏全体に影響する可能性があるとなれば自分でもある程度対処する準備をしておかなければならないかもしれない。
「そうだな、一回調べに行く必要がありそうだ。イグアラダ、落ち着いたら案内を頼めるか」
「構わねえよ、何なら今からだって行けるさ」
「術後間もないんだからまだ安静にしろ、莫迦者が。破面になった今、超速再生能力を失っていることを忘れたのか?」
「厳しいねぇ」