Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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卯ノ花さんの死の直後が二枚屋王悦なの、情緒が迷子になりませんか?


幕間二: Arachnogenesis

 

死ははじまり

 


 

かつて藍染惣右介によって作られた破面の序列の最上位に位置していた十刃(エスパーダ)。――一般にはより上位の実力者が現れるなど――何らかの理由によってその地位から追い落とされた者である十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)の中に、「各個体が自意識も持つ群体」という特異な虚が存在する。破面No.102、「ピカロ」と呼ばれるこの虚は少年少女や小動物の霊体の姿を取っており日頃はそれぞれがバラバラの意図で遊び回っているものの、いざ深刻な事態になれば各自がそれなりに同じ方向性を見て動き始めるという厄介な性質である。それでいて戦闘力自体は――全員が正しく協力できる限りは――現十刃にも引けをとらないほどであるから尚更たちが悪い。

彼らの面倒を任されている破面ロカ・パラミアともども、ある事件の縁から現世空座町を拠点に活動する霊能者、ドン・観音寺と深い関わりを持っている。ロカはピカロと異なりあまり虚圏を離れるわけにはいかなかったものの、自身の能力である反膜(ネガシオン)の糸が張り巡らされた場所の情報は全て彼女の元に集積されるが故に、現世で観音寺や彼の友人や仲間がどう暮らしているかは常に認識の内にあった。

そうした日々を送っていた彼女にとって、――定命の存在である以上当然だが――観音寺がだんだん老いていく様子をどう見ていたかと言えば、意外なことにむしろ喜ばしいものと考えていた。もちろん定命の存在である彼自身は――いくら大病を患ったりはしていないとしても――自分に残された時間が少なくなっていくことに思うことはあったはずだが、一方で尸魂界をはじめとした霊の世界を日常の一部として受け入れている者、あるいはそうした世界の住民にとって現世での死というのは単に「霊の世界に来るための通過儀礼」でしかないという側面もあり、ロカもまた観音寺が――可能な限り苦しまず、そして願わくば十分な魂魄強度と寿命を持って――「こちら側」に来てくれることを待っていたのだ。

 

そして、その日は訪れた。

ついにドン・観音寺こと観音寺美幸雄は現世での生を終えた。幸い最期に何か執着があったわけでもなかったため無事尸魂界へと旅立つことができたが、行先が西流魂街の四十五地区「榧能(かやの)」というあまり生活水準の高くない地域だったのは懸念すべき事態ではあった。実際豊富な霊力を持って尸魂界に行った彼は早々に飢えることとなり、地区を超えて助けを求めざるをえない状況に追い込まれる。ロカは最悪の場合自身の能力で彼を助けることも考えていたが、最終的に同じく霊力を持つ他の魂魄とともに死神の力を手にするに至ったことで一安心することができた。虚であるロカにとって観音寺が死神という対立勢力側に行ってしまった事自体は少し残念さを覚えるところでもあったが、とはいえ昨今の尸魂界と虚圏の関係性を考えても当面いきなり対立することがあるとも思えず、またいざ何か事が起きたとしても彼はきっと自分に刀を向けることはないという確信もあった。流石に現世と違い尸魂界にはそう顔を出せるわけもなく、しばらく顔を合わせる機会はなさそうだが、ピカロ達ともどもいつか来るであろう再会の時を楽しみに待つのであった。

 


 

「あ、夏梨ちゃん」

昼食を食べに入ったところで声をかけてきたのは小島水色、兄の旧友である。そろそろ「老年」とさえ呼ばれておかしくないほどの年齢とは思えないほど若々しい外見を保っている彼は、一頃都心部で暮らしていたはずだが最近また空座町に戻ってきていた。

「あ、どうも」

「おー夏梨ちゃんいらっしゃい。ちょっと待ってね」

相変わらず繁盛しているとは言い難いここ「念力ラーメン」の店主、浅野啓吾はそう言いながらフロアからキッチンへと戻っていく。昼食時だというのに店員が客席側でのんびり客と喋っている光景はこの店にとっては日常風景であり、彼の周りの人間はみな「いつ潰れるか」と心配――あるいは楽しみに――していたが、なんだかんだ何十年も続く老舗としてここ空座町の隠れた名所の一つになっている。実際客が多いわけではないものの、その味には一定の評価があるのか、繁盛はしないものの何とか営業をつづけられる程度には常連客が根付いているらしい。話に聴くと、どうやら小学校中学年くらいの身長しかないのにやたら態度の大きい女性や2mオーバーの巨漢、月曜日に来てはジャンプを読み終わるまで席を占有するアフロのジャージ男など色物客が多いようだが……。

「久しぶりじゃない?ここ来るの」

「確かにそうですね…多分年末以来だからもう半年近いんですね」

「まあ一心さんのお葬式で会ったばっかりだし『久しぶり』って気はあんまりしないけどね」

「あー…その節はどうも。あれ、水色さんは”見える”んでしたっけ?」

「ちょっとはね。お父さん、愉快な人だよね」

「お見苦しいものをお見せしてしまいました……」

「いいんじゃない?ぼくは好きだけどな、ああいうの」

春先に行われた黒崎一心の「葬儀」では喪主である一護が挨拶をしようとした途端目の前に本人が――もちろん霊体でありほとんどの参列者には見えないが――現れるという一幕があり、久しぶりに一護の眉間にシワが刻まれていたのは身内の間での語り草になっていた。

「まあ正直やると思ってたんですけどね……」

「一度でも『向こう側』に関わっちゃうと、どうしてもお葬式とかとの向き合い方って変わっちゃうよねぇ」

定命の人間にとって死は人生の終わりであるはずだが、結局魂魄としての人生がその先尸魂界で――極稀に地獄で――待っているのだ。それを考えると現世での生に幕を引く葬儀という営みはあくまで生者のためにあるものだ、という話はより説得力を持って感じられてくる。いくら尸魂界で第二の人生が待っているとはいえ、生前に縁のあった人間が尸魂界側で再会することは――ごく一部の例外を除けば――ないのだから、確かに見送る側にとっては「別れ」であることは間違いない。

「なんとなくですけど、向こう行ったら嫌でも再会する気がするんですよね」

「まあ夏梨ちゃんは能力あるわけだし、お父さんも一般人じゃないからねぇ……。ぼくらみたいな一般人とはちょっと違いそう」

「確かに確実に見つけてくる気がしますからね……。まあ、でも向こうでの厄介な役割は全部兄に任せるつもりですけどね」

「一護は逃げられなさそうだよねぇ。まああの性格だし、ハナから逃げることなんて考えてなさそうだけど」

「ほんとですよね」

そう言って笑う夏梨。

「そう言えばしばらく前に亡くなった観音寺さんも向こうで元気にやってるみたいですよ」

「へぇ、そりゃなによりだね」

天寿を全うしたドン・観音寺の死はそれなりにニュースにもなり、業界関係者の手で盛大なお別れ会が執り行われてからはや数年、過去多少の関わりがあった水色も「そういえば」程度にまで記憶が薄れていたものの、健勝であるならそれに越したことはない。

「ロカちゃんがこないだ教えてくれたんですよ。なんか死神になってるらしいですよ?」

「それ、そのうちお父さんと会っちゃうんじゃ……」

「あっ……」

かつてドン・観音寺の全盛期には――どういう心境でそうしていたのかは分からないが――もう一人の娘遊子とともにはしゃいでいた一心はその後も一護を訪ねてきた観音寺と何度も顔を合わせており、尸魂界で遭遇してしまったらそれはそれで厄介なことになる可能性はありそうだった。

「それにしても夏梨ちゃんも大分あっちの方向に顔広くなったよねぇ」

「ほんとですよ。向こう行っても退屈しないんだろうなぁ……」

 




ということで、これにて年内の更新は終了です。
一応今のところ年明けは10日から再開予定ですが、場合によっては3日も更新あるかも。
来年もこんな調子でやっていきますので、よろしくお願いします。
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