Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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序章: Left Fathers (3) ― The Request 2

「おう、久しぶりじゃねえか。」

 

現世、空座町の一角。

かつて仮面の軍勢が根城にしていた廃工場には、戦後も相変わらずのメンバーが残っていた。元々俗世間とあまり関わらずに100年以上生きていた彼らにとってみれば、時間の流れなど気にするほどのことでもないのだろう。

現世に残ったうちの一人、かつての七番隊隊長愛川羅武は、訪れた珍しい旧友に顔を綻ばせた。仮面の軍勢として運命をともにしてきた仮面の軍勢も現世に残る者と尸魂界に帰る者に分かれた。尸魂界に戻った者の中でも、自身の「商売」のためにちょくちょく現世に顔を出していた矢胴丸と違い、鳳橋楼十郎とは顔を合わせる機会が減っていた。仮面の軍勢として現世に居た頃はよく行動を共にしていただけに、懐かしい顔との再会は純粋に嬉しいものだった。

 

「こっちに来るなんて珍しいな。なんかあったのか?」

「ここは変わらないねぇ」

そう言いながら三番隊隊長、鳳橋はかつての根城に足を踏み入れる。

「そろそろもう築年的にもっと優美な建物に変えてると思ったんだけど」

「流石にこっちに残った人数のためにそこまではしねえよ。建物の寿命だけなら浦原さんがどうにかしてくれてるしな」

「なるほどね」

「で、どうしたんだよいきなり」

「うーん……」

少し言い淀む鳳橋。

「まあ僕だってたまには旧友に会いたくなることくらいあるってことさ」

「……そうか」

手に持っていたタブレットを置き、立ち上がる。

「とりあえず、酒でも飲むか」

 


 

「さっきのアレ、話に聞く電子書籍ってやつかい?」

「ああ。紙の方が風情はあると思うんだが、もう今はもっぱらこれだよ」

 

「なんか面白い事あったか?」

「面白いといえば、久々に優秀な部下が出てきたよ」

「そいつはいいことだな」

「うちの三席なんだけど、副隊長やれるくらいの素質はあると思うよ」

「じゃあ副隊長交代か」

「流石にそれはないね。イヅルはいい子だから」

 

「そういえば、最近こっちではどんな音楽が流行っているんだい?」

「あんま聞かねえけど、こんなん流行ってるみたいだぜ」

 

 

「…で、だ」

「なんだいラヴ」

「こんな雑談だけしに来たわけじゃねえだろ」

「……」

「お前が仕事でもないのにこっちに来てんだ、それなりに大事な話があるんだろ」

「そこまで大事じゃないんだけどね」

そう言いながら、手にしていた缶ビールを飲み干す。

「ちょっと、こっちに戻ってこようかと思うんだ」

「またどういう風の吹き回しだ?」

「僕は拳西ほど面倒見がいいタイプじゃないからね」

「まあそりゃそうだな」

「…即答で肯定しなくてもいいんじゃないか?」

つい混ぜっ返してしまうラヴに、ローズも気安く応じる。

「もうあれから何十年か経ってるし、次の世代の子たちもちゃんと育ってる」

「そういやリサんとこの副隊長も随分安定してきたつってたな」

「そろそろもう僕もやることはやったかな、って」

「なるほどねぇ」

「まあ、現世の方が僕のインスピレーションを色々掻き立ててくれるしね」

そう冗談めかして笑うと、新しい缶に手を付けるのだった。

 


 

後日。

 

「そうか、もう決めたのかい」

一番隊隊首室を訪れた鳳橋は京楽に辞意を伝えた。

「後任に心当たりはあるのかい?」

「そこがなかなかの問題なんだよね」

芝居がかった所作で肩を竦める。

「うちの三席、石田君がだいぶ伸びてきたから、イヅルを隊長にしてそのまま石田君を副隊長に、って思ったんだけど」

「無難そうに聞こえるけど、何か問題が?」

「イヅルに断られてしまってね」

「あー……言いそうだねぇ……」

吉良イヅル三番隊副隊長。先の大戦で一旦肚に大穴を開けて殺されるも、涅マユリの手によって「蘇生」した彼は、その蘇生の経緯から今や隊長達に比するだけの霊圧を持っている。が、その性格からかいつも裏方に徹している印象しかない。

「ということで、総隊長どのになんとかしてもらいたいと言うわけさ」

「まったく、みんな好き勝手面倒事持ってきてくれちゃって……」

そうぼやきながら、煙管を口にする。そういえば、こっちに来てからというもの隊首室で酒を飲む余裕すらないな、とふと思い返す京楽だった。

「そういえば石田君……っていうと、この間『鎌鼬』を襲名した彼かい?」

「そうそう。なかなか優秀な子さ」

“鎌鼬”。それは尸魂界一の飛び道具の使い手が名乗る称号である。元々は「大罪人」痣城剣八の呼び名だったそれがひょんなことで他人に渡り、いつからか称号となった。一度旅禍、石田雨竜に奪われ、そして痣城剣八が奪還したものの、騒動の終結後は誰も名乗らぬまま数十年が経っていた。

「そうか、彼も『石田』君なのか……」

 


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