Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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予約投稿をもう少しちゃんと使うことにしました。
一週間先の分まではストックからこちらに準備するようにしたので、体調不良で伏せったりしても連載落ちなくなります。


第五章: Grasp of Hieromancer (2) ― Unmask

一方尸魂界側では、虚圏派遣メンバーが出発の最終準備にあたっていた。虚圏側の依頼を受けて黒腔への門を開くのはもちろん”外部協力者”の浦原喜助である。

「皆さん、そろそろ門が開きますよー」

普段こういった「門を開く」ときには――高いところから見下ろしつつ――見送ることが多い彼だが、今回は珍しく自分自身が現地に赴くということで先陣を切ることになっていた。黒腔内部は何もない虚無の空間で、死神が移動するためには自らの霊力で「足場」を作りながら進むしかない。この足場の形成はもちろん純粋な霊圧も必要とされるがそれ以上に霊力操作の器用さが重要であり――例えば黒崎一護のような――それを苦手とする者が作った足場は極めて不安定なものとなってしまう。今回の派遣部隊で最も霊圧が高いのは当然更木剣八だが、言うまでもなく彼もまたそうした細かい霊力操作を苦手とする者であり、必然この役割を担う先頭は浦原自身にならざるを得ない。

「おう、それじゃあ行くか」

そう思っていたのだが、門が開いた途端に当の更木剣八が一人飛び込んでいってしまう。黒腔内での隊列についても事前に打ち合わせたはずなのだが、案の定彼は聞いていなかったらしい。副官である斑目一角に目をやったが、「察してくださいよ」と言わんばかりの表情で返される。

「更木さん行っちゃいましたけど、残りの皆さんは打ち合わせ通りにいきますよ!」

気を取り直してそう声をかけ、一行は虚圏へと旅立っていった。

 

黒腔に入ってみると、剣八が作ったと思しき「足場」の残滓があり、その先には軽い足取りで走っていく本人の姿があった。どうも未知の強敵ということでテンションがあがっているらしく、このまま万が一会敵しようものなら調査という目的をすっ飛ばして正面から斬りかかりかねない様子である。浦原はため息をつくと、後続のメンバーの面倒を一角に任せ自分は――十分な足場を作りつつ――剣八を急いで追いかけていく。

 

「そういえば十一番隊、隊長副隊長どっちも来てしまって大丈夫なんですか?」

後続組で四番隊副隊長、山田花太郎は先頭を走る一角に問いかける。確かに隊長と副隊長両方が尸魂界を離れるというのはリスク管理という観点からすると少し懸念のある判断にも見える。

「弓親がいるからな。そもそも隊務は基本俺と弓親で回してっから、そういう面では他の隊と変わんねえだろ」

「あー、まあそうですね」

「更木隊長が書類仕事してるところとか想像つかないわよね」

乱菊が混ぜっ返すが、確かに以前一角が第三席であった時分からずっと十一番隊の隊長・副隊長は隊務を担う存在というよりは十一番隊の、そして護廷十三隊のリーサル・ウェポンとしての扱いであって、実際に隊務を取り仕切っていたのはずっと一角と弓親であった。その構図は一角が副隊長に昇進した今でも変わらないどころかより強まっており、そういう面では弓親が尸魂界に残っているのであれば十一番隊としての懸念は薄いだろう。結局今回の派遣メンバーも一角が実質的なリーダーとして選ばれている事情も考えれば、もはや上層部は一角を隊全体のまとめ役とみなしている節はあるだろう。

「そういえば雛森、あっちでうまくやってるの?」

思い出したかのように乱菊が後輩を気遣う。

「おかげさまで大分慣れてきました。鹿良澤さん、結構自由な方なのでちょっと大変なんですけど」

「平子隊長もそういうタイプだし慣れてるでしょ」

「あはは……まぁそう言われればそうなんですけどね」

「おい、無駄話はそろそろ終わりだ。そろそろ着くぞ!」

そんな話をしていると黒腔の出口が視界に入り、檜佐木が全体に檄を飛ばす。その瞬間、今までのんびり雑談をしていたメンバーの顔が一様に引き締まる。

「案内は頼んだぜ、狩野さん」

「おうよ」

そうして隊長格7名は相次いで虚圏へと足を踏み入れていった。

 


 

――しまった、露見した。

三番隊第三席石田誠弦が平子真子に声をかけられて最初に考えたのはそのことであった。元滅却師死神による尸魂界非公認の寄合は実際のところ――石田竜弦が懸念した通り――非合法的な活動をしていた。正確に言えばそれを禁じる法は恐らく存在しないと思われるが、護廷隊の理念や目的からは大きく逸れるものである。そうした脛に傷のある彼からすれば、特に隊長の中でもトップクラスに底の知れない平子から声をかけられたということは、何かしらその企みが相手の知るところになったという可能性が当然に頭をよぎるのであった。

「あァ、そんな身構えんでもええねん。ええ話やからな」

「はい……?」

「うちの前副隊長、知っとるやろ」

「えぇ、鬼道衆に異動されたと伺いましたが」

「その後任にな、オマエを引き抜こうかと思うとるねん」

「えっ」

「一心も了承しとったし、あとはオマエ自身の意思だけや」

随分と急な話である。

確かに平子真子という男は昔から結構こういう勢いで動くところがある人だと前隊長から聞いた覚えがあるが、とはいえ他隊の隊長である彼とはここ数十年ほとんど接点はなく、今回こうした話が飛び込んでくる理由には心当たりがない。

「何故私なのでしょうか」

「各隊の上位席官で使えそうなのがオマエだったんや。事務処理がちゃんとできて、特に遠距離でそれなりに戦える奴が欲しくてな」

確かに、前任の雛森桃は確かに事務的な能力の高さでも知られていたし、鬼道の能力の高さに加え焱熱系の斬魄刀、飛梅によって遠距離戦闘にも定評があり、そういう面では確かに同種の能力持ちを探すということに一定の合理性は感じられるだろう。

「まあ別に断ったってオマエの今後に不利になったりはせんけど、偉くなれるときになっておいて損はないんとちゃうか」

「はぁ……。ちょっと急な話過ぎて今すぐにお返事というのはちょっと難しいのですが、お時間をいただくことは」

「ええで。また来週くらいに顔出すわ」

時間的猶予を願い出たところ、平子はあっさり快諾する。

そして悠々と去り際に、爆弾を落として行く。

「あァ、そういやなんぞ流魂街に通ってるらしいなァ。可愛い子囲ってんなら今度紹介してや」

――完全に想定していない一撃だった。声をかけられた瞬間には取り繕う方法を色々考えていたはずだったが、人事の話という予想外の話が一旦挟まったせいでその警戒心が緩んでしまっていた。確証を握られてはいないかもしれないが、少なくとも疑いのもとに監視されていることはほぼ確実だろう。恐らく驚きを隠せていなかっただろうし、平子がこちらを一瞥もせずに去っていったということは、表情をみて確認するまでもなくこちらに「やましい所」があると確信しているのだろう。

 

もはや猶予はないと考えるべきだろう。

幸いもう計画は最終段階まで来ている。いくら疑われているとはいっても、核心部分が尸魂界上層部に露呈する前に決着をつけてしまえばなんとかなる、はずだ。何よりもうルビコンは渡ってしまっている。今更退路はもうないのだ。

誠弦は覚悟を決め、鬼道衆の詰所へと駆けていった。

 

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