Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第五章: Grasp of Hieromancer (5) ― Bitter Reunion

「話に聞いてはいたが、メノスの森ってーのは大分辛気臭ぇとこだな」

一人先行して地下に入っていった更木剣八はそうひとりごちる。

「さーて……あっちの方に何かいるっぽいな」

霊圧感知能力と方向感覚に関しては悪い意味で定評がある更木剣八だが、一方何故か「強敵」と会敵することに関しては何故か――たまに迷子になるとはいえその場合でさえ最終的には何者かには遭遇するという形で――結果を出しており、強者との戦闘を求める本能の強さというものを実感するしかないだろう。何にせよ、今回も強敵を求めてここまでやってきた更木は遠目に大虚を発見する。話に聞いていた標的の情報とは大きく異なる外見だが、放たれている禍々しい霊圧はそこらの大虚とは一線を画するものである。

「相当でけぇ奴だって聞いてたが、それほどでもねぇな……まあとりあえずアイツ斬れば何かわかるだろ」

一人でそう合点すると、更木はその異質な大虚へと向かっていく。

 

近づいてみると、その大虚の姿は明らかに異形と表現すべきものであった。

その本来の顔には既に仮面は――破面のような名残すらも――存在せず、その下にあったはずの肉が完全に露出しており、更に顔の両脇には別の虚に由来するのか人型でない頭のようなものがいくつか並んでいる。首から上半身だけはなんとか人型を保っているものの、腰から下には腕や足が本来あるべき数を遥かに超えて生えており、無数にある触手と相まって極めて不気味な姿となっている。下半身はもはや歩行できるとは思えない形だが、完全に空中に浮遊しておりそれが問題にはならなそうだ。その虚は更木の接近に気づいたのか、――並んでいる複数の頭のうち中央の首にまっすぐ付いている――顔をそちらに向ける。

「あァ…?なんだこれは?」

更木は自らの脳内に異音が響き始めたことに気付く。どうも外から聞こえてくる音ではなく、直接精神に作用しているもののようだ。

「うるせぇな……あんまり楽しめなさそうだ、コイツは」

直接の斬り合いを何より好む更木剣八にとって、精神に作用するような能力は――対処可能かどうかは別の問題として――相手していて楽しいものではない。異音が耳障りだからといっても自らの頭の中から響いている以上耳を塞いでも止まるわけではなく、大分不快感の中戦うことになりそうだ。

一方相手の精神に働きかけるこの力は相手の足が止まる前提のものだったのだろうか、虚の方も更木がそのまま斬りかかって来ていることに驚いた様子を見せる。更木が振るった最初の一太刀で触手の一本を失ったが、別の触手で返す刀を弾き更木の方へと向き直る。

 

 

「やっぱり君か!久しぶりだね!」

そうしてしばらく虚が無数の触手で更木の剣を捌いているところに、少年の姿をした破面が乱入してくる。姿こそ少年のそれだが、霊圧はむしろこの異形の虚よりも上で、只者ならぬことは傍目にも明らかだ。

「手前は……この剣筋、シエン・グランツか!」

以前八代目剣八の一件の中で奇妙な巡り合せから生まれた虚の残滓、それが彼の正体である。元々は第8十刃がかつての部下ロカ・パラミアの能力を利用して生み出したいわばバックアップのような存在であり、かつて痣城双也の一件に際して一度更木剣八と交戦していた。その後紆余曲折を経て子供の姿に戻るほどに弱体化しつつも、更木との再戦の誓いを果たすべくメノスの森で闘いに明け暮れていたのだ。未だ全盛期の力を取り戻すには程遠い状況ではあるものの、懐かしい仇敵の霊圧を察知して思わず飛び込んできた彼を認識すると、異形の虚と更木剣八の両者とも一旦距離をとって睨み合いの構図となった。

「こいつは手前の仲間か?」

更木からしてみれば、正体不明の虚に斬りかかったところでシエンが乱入してきたわけで、彼がこの異形の虚を守るために来たのではないかという考えになるのも当然である。

「まさか!僕は君を斬りに来ただけさ」

一方のシエンにしてみればそもそもこんな怪物は見たこともないわけで、当然そんな奴を守る謂れなどありはしない。

「そうかよ。ちっ、めんどくせえな……」

そうなると当然戦いは三つ巴ということになる。異形の虚はことここに至るまで一言も発しておらず、意思の疎通すらできる見込みはない。再戦を約束したシエンとの戦いを楽しみたい気もするが、一方この未知の存在を斬りたいという欲求も当然にある。

「まァいい、めんどくせえからまとめてかかってこいよ!!」

 


 

破面の一団の接近に対して隊列を組み直した派遣部隊の中で、吉良イヅルは付近に異質な霊圧の存在を察知していた。

「浦原さん」

「えぇ…居ますね」

二人が気がついたのは、死神と滅却師両方の特徴を持つ霊圧である。確かに理論的には存在しうるし、恐らく護廷隊内に両方の力を持つ者は既に存在すると考えられていたが、とはいえこの虚圏という場所に派遣部隊以外の死神がいるということ自体がまずおかしい話である。滅却師の霊圧が感じられるということは恐らくその力を行使しているということでもあり、警戒すべきことは間違いないし、何よりこの場所を考えれば今回問題になっている例の虚の一件とも何らかの関係があるかもしれない。

「姿は見えませんね、どうしましょうか」

「ちょっと待ってください……多分姿を隠しているんでしょうし、それならアレが使えそうですね」

そう言うと、浦原は懐から小瓶を取り出す。

「先の大戦で作った侵影薬の副産物なんスけどね。虚の霊圧を一瞬だけ周辺に撒くことで、『影』に入り込んだ滅却師を焙り出すことができるハズです」

「なるほど」

「対処はお願いしていいっスかね。アタシは虚の方に備えておきたいんスけど」

「構いませんよ」

 

浦原が小瓶の中身を地面に垂らすと、霊圧の波動が伝播する。その波が数メートル先まで到達したとき、物陰から弾き出されるかのように一人の死神が現れた。

「君、所属はどこだい?ここで何をしている?」

イヅルの誰何に対し、その死神は斬魄刀に手をかける。無論正式な任務以外で虚圏に来るという禁を犯している時点で彼が何かしら良からぬことをしていることは明らかだが、その上で更に誰何にも応じず実力行使をも辞さない姿勢を見せるということは大分重大な非違行為があることが推測される。

「はぁ……。やっぱりそうなんだね」

ため息をつき、イヅルもまた斬魄刀を抜く。

「三番隊副隊長、吉良イヅルだ。せめて名前と所属だけでも教えてくれないかな。縛った君をどこに連れて行けばいいのかわからないと面倒だから、さ」

 

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