Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

35 / 65
【閲覧注意】
基本登場人物をあまり悪く書かないようにしているつもりですが、今週分はあるキャラが結構酷い書かれ方をしています。
……あんまりこういう書き方するつもりはなかったんですが、私の中でこの子が大分元気に動き回ったのでしかたないね。
そんなこんなで今週分はいつも以上に人を選ぶ感じとなってます。


第五章: Grasp of Hieromancer (6) ― Toxic Abomination

「アンタがあの雛森って子ね」

案内役が因縁のあった雅忘人を見つけて突撃していった直後、アイスリンガーが他のメンバーへの指示を出そうとする前に飛び出していった者がもう一人いた。かつて藍染惣右介の側近として仕えていたロリ・アイヴァーンである。もう藍染惣右介が虚圏を去って半世紀近くが経過しているが、それでも彼女にとって藍染惣右介の側近であったということは自分の中の大きな芯であった。

「誰ですか、あなた」

雛森からしてみれば、当然相手はまるで知らない相手である。彼女が最後に藍染惣右介と顔を合わせたのは空座町での戦いのときだったが、その時点でロリは虚圏に残されており、そもそも相手が藍染と関わりがあることすら知らない。

「ロリ、突っ込みすぎだよ……」

単身突撃してきたロリを追って、後ろからメノリ・マリアが合流する。彼女もまた藍染惣右介の侍女的な地位にいた破面であり、彼が尸魂界に「置いてきた」部下については以前聞かされていた。追いついたところにその雛森桃がいたことで、相方が逸って一人先行したわけを知る。

「そう、藍染様に捨てられたあなたは私達のこと知らないのよね」

殊更に「捨てられた」を強調してそう煽るロリ。

「藍染隊長を知っているのね」

現在の虚圏の実質的な支配者ティア・ハリベルからして藍染の集めた十刃の一人であり、破面が藍染の名を口にすること自体はおかしな話ではない。ただ、目の前の相手が藍染に、そしてその元部下であった自身に対して単なる支配者とその配下という以上のただならぬ感情を持っている様子は、相当な警戒心を抱かせるに十分すぎるものである。

「藍染様がたまに話題にしてたからどんな奴かと思ってたけど……へぇ」

「やめなよ、下品だよ」

雛森の体に舐め回すような視線を向け一人納得するロリをメノリが諫める。

「まあ確かに、藍染様が好きそうな体よね、アンタ。どう?今でも藍染様のアレ思い出したりしてんの?それとも新しい上司に股開いてんのかしら?」

「ちょっと!!」

相方の諫言もどこ吹く風、ロリは雛森に対してひたすら下品な言葉を投げかける。

「なるほど、そういうことね」

一方その言葉を聞いた雛森も、途端に目の前の破面に冷ややかな目を向ける。たとえ大逆の罪人であれど、上司として隊長の職務をこなしていたときの藍染惣右介は尊敬に値するという自分なりの落とし所を見つけていたはずだったが、目の前の破面の言葉を聞く限り彼がここ虚圏で彼女をどう扱っていたかは十分すぎるほどに伝わってしまっていた。一度は憧れた存在が――よりにもよって自分自身と似た要素を多く持つ――女性をそのように扱っていた、という事実は盲目的な憧れから解き放たれた今であっても不愉快極まりないものであることは言うまでもない。

「何が言いたいのか知らないけど、あなたが可哀相な人だっていうのはわかったわ。それで、何の用?そんな品のないことを言いに来たわけ?」

「へえ、その様子じゃ藍染様に抱いてすらもらってないのね。まあいいわ、せめてこっちでは楽しませてちょうだい!」

そう言うと、どこからか短剣状の斬魄刀を取り出し斬りかかった。

 


 

「隊長、やっぱり増えてますよ」

最初の警告を上げてから数時間、監視網のモニタリングを続けていた阿近は隊長にそう報告する。守備配置が発令され各隊の上位席官以上は尸魂界各地に散っているが、十二番隊は四番隊と並んで担当地域は割り振られず、それぞれの隊としての業務を継続することになっている。十二番隊はこうした旅禍の侵入が考えられる状況では各種監視網のモニタリング、通信の確立、あるいは未知の敵に対する対抗手段の検討といった技術開発局にしかできない役割を果たすことが期待されているのだ。

「そうだろうネ。連中にどれだけの知性があるのかはまだわからないが、余程の莫迦でもなければ単騎で乗り込んでくることはあるまい」

「1、2……現状4箇所、最初の1つを除き全て瀞霊廷内です」

「既に守備配置は発令済みだからネ。初動対応は血の気の多い前線の連中にやらせておけば良いヨ」

 

守備配置の発令に伴い、各隊に配属されている実習生には避難先の霊術院へと移動する指示が出された。

今期の総代を務めた豊川を筆頭に志波岩鷲や石田竜弦、観音寺美幸雄、そして霊術院を経ずに編入した朽木橙璃は――既に配属されている少し年次の上の先輩達を含めても――実習生の中で別格のリーダー的な存在と見なされており、配属式以降日頃からお互いに連絡を取り合う仲である。避難指示を受けた彼らは、十三隊とは別の指揮系統に属する観音寺を除いて各隊の実習生を可能な限りまとめて移動しようと考えた。

«それじゃあそれぞれ近所の隊から集めて丘のふもとに集合しよう»

――近年使えるようになった――伝令神機のテキストチャットで豊川が号令をかける。

しばらくの後、それぞれは各隊の避難対象者を集めて双極の丘のふもとで合流した。せいぜい各隊数名とはいえ、基本的には戦闘力に乏しい一般隊士未満の存在を率いて移動するというのは彼らにとっても決して気が抜ける話ではない。

「最後にこんなことやったの、現世実習の時だっけね」

霊術院を飛び級につぐ飛び級で駆け抜けてきた豊川ではあるが、とはいえ最上級生にいた数ヶ月の間だけは引率役として下級生を率いるような経験もしてきており、たとえ今回面倒を見ているのが実際には彼らより先に配属された先輩であったとしても、当時を思い出すような状況ではあった。

「へえ、霊術院ってこんな感じなんだ。僕も行きたかったな」

一方の橙璃は姉の苺花同様霊術院に入学することなく推薦のもとのインターンからの編入であり、そうした「学生時代」というのを経験していない。特に橙璃は養父・伯父である白哉の元にいることも多かった関係上同世代の友人は極めて少なく、他の皆がそうした経験をしてきているのを羨ましく感じている。

「煩わしいだけだよ。私からしてみれば、君のように直接親族から手ほどきを受けられた環境は、それはそれで羨ましいものだ」

一方現世で普通の人間としての生を全うした竜弦にとって学生時代というのは決して良い思い出のあるものではなく、同様に霊術院時代もあまり人付き合いをする方ではなかったため、そういう面倒を通ってこなかった上級貴族組を少し羨んでいる。

「っつかよー、橙璃が院通ってたらそれこそ皆ごぼう抜きで大騒ぎだろ。そこは貴族の生まれだからしょうがないんじゃねーのか」

岩鷲は笑いながらそう言うが、自分自身が元五大貴族本家の一員であり、しかもかつての戦闘経験のおかげも相まって院が大騒ぎになるレベルの「ごぼう抜き」でここまで来ているという自覚は相変わらずないようだ。

「ほらほら、雑談してる場合じゃないからね。点呼とったら出発するよ」

豊川は手を叩いて皆の注目を集め直し、改めて号令をかける。他の三人――この場にはいない観音寺を加えれば四人――に比べれば霊的能力は少し見劣りがするのは確かなのだが、こうしたときにしっかりリーダーシップが取れるという点で上層部の評価を受け続けてここまで来ているのだ。いくら一段落ちるとは言え現時点で席官レベルの霊圧は十分あり、上位席官や副隊長に推される立場になるのはそう遠くない将来の話だろう。

 

そうして隊列を組んで霊術院まで移動しているところに、「それ」は現れた。

瀞霊廷内部に虚が現れるという時点で異常なのだが、その虚の外見は明らかに通常のものではなく、これが現在の非常体制の原因(の一部)であることは容易に理解できた。遠目で見る限りはただのトカゲのような姿に見えなくもないが、実際には四肢のみならず体中の至るところから触手がのたうっており、今まで対峙した、あるいは教本などの資料で見たいかなる虚とも違う異質な存在である。

 

「こいつが例の異常な虚ってやつか」

「そうだろうね。仕方ない、やるよ!」

豊川は全体に声をかける。

「僕ら4人で食い止めるから、その間に皆は逃げてくれ!」

指示に従い――一部は指示の前に錯乱して――実習生たちが散り散りに逃げていく。

「さーて、コイツはちょっと骨が折れそうだな」

この中では一人何度も死線をくぐってきた岩鷲は、一歩先んじて斬魄刀を構える。たしかに目の前の敵は異形で霊圧もそれなりのものがあるが、とは言えかつて対峙した朽木白哉に比べれば恐怖の対象になるものではない。

それを見て、豊川も橙璃も相次ぎ抜刀し虚へと向き合う。

「石田君は鬼道で後方支援、僕らが怪我したら治療を頼むよ」

「ああ、わかった」

竜弦は指示通り鬼道戦闘の準備をしつつ、左手首に提げた「奥の手」の重さを再確認した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。