Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第五章: Grasp of Hieromancer (7) ― Grim Wanderer

「お前が死神共のトップか」

遭遇戦となったアイスリンガーの一行と死神の虚圏派遣部隊の中で、ガンテンバイン・モスケーダは一団の中でもひときわ落ち着いた様子を見せている剃髪の死神に問いかけた。かつて藍染惣右介の下で虚夜宮の守護にあたっていた頃は私情に基づく戦いというものを見下していたが、茶渡泰虎と正々堂々とした拳を交わしたことで純粋な戦いの愉しさというものを知ってしまった。だが崇敬していたバラガン亡き後、ハリベルの下につくことを拒んだ彼はバラガン派の同志を率いる立場になってしまい、同格やそれ以上の相手とやり合う機会は望めない状況になってしまっている。今回アイスリンガーの一行に加わったのは自分の中にある戦いに対する「渇き」を満たすためであり、目の前に明らかな強者が現れたのは目論見通りの結果といえよう。イグアラダや姦しい二人組が因縁のある相手に向かって駆け出していく中、自分自身は集団の中で一番と思しき相手に声をかけたのだった。

「残念ながら、隊長はもう”下”に行っちまってな。一応席次じゃあ次点は俺だ、があっちにいる人の方が強ぇぞ」

声をかけられた斑目一角は、後方で吉良と何か話し込んでいる浦原の方に目をやりながら正直なところを口にする。こうして声をかけてきた時点で正面切っての戦いをしたいタイプの相手と見た一角は、相手に対しての「礼儀」として嘘偽りのない事実を伝えたのだ。

「随分正直に答えるんだな」

「アンタが何か企んでたとして、ここで嘘を言おうが事実を教えようが対して変わらねえからな。アンタが強えなら嘘を言っても大した意味はねえし、弱えならどちらにせよ誰かに斬られて終わりだ」

「なるほどな」

真っ直ぐな戦いを求めていたガンテンバインにとってみれば、たとえ強くとも後方で何か企んでいそうな相手より、こうして正々堂々と話をしてくる者とやりあう方が愉しめそうである。

「それじゃあ、一つ手合わせ願おうか」

「いいぜ」

お互い斬魄刀を抜き向き合う。

「破面No.107、ガンテンバイン・モスケーダだ!」

「十一番隊副隊長斑目一角、てめえを斬る男の名だ。よろしく!!」

 


 

派遣部隊のメンバーそれぞれが破面の一団との戦闘に入る中、隊列の後方にいた檜佐木修兵は別の方向から接近してくる異常な霊圧を感知した。眼の前で味方の死神と火花を散らしている破面は純粋な虚のそれだが、背後から接近しているそれは霊圧が一定せず、不規則に変化し続けていた。

「乱菊さん……」

「ええ、わかってるわ」

もう一人後方に配置されていた松本乱菊も檜佐木から声をかけられ、そちらの方に向き直る。まだ距離は離れているものの、確かに遠くに異形の虚の姿が見えている。その虚の向こう側の景色は少し歪んで見えており、「空間を歪める」能力を持った虚、という事前情報に沿ったものであった。

「とはいえ、あれ本体ってわけじゃなさそうよね」

本体は最上級大虚に匹敵する存在のはずだが、遠方にいる虚の霊圧はそれに遥か及ばないものであり、恐らく浦原を介して伝えられた情報にあった「本体の影響によって変質した虚」のものだと思われた。ただいくら上位の大虚に及ばないとはいえ、二人が以前刃を交えた経験のある藍染配下の破面と同等以上の圧は感じられ、決して侮ってかかれる相手ではなさそうである。

 

しばらくの後、接近してみるとこの虚の異形さが際立ってきた。

大まかな形は巨大な蟹のようなものに見えるが、胴体から無数の触手が伸びている。

「修兵、あれ気持ち悪い」

「そっすね……」

「任せていい?」

「いいわけないでしょ!俺一人じゃ流石にきついっすよ」

「なによ情けないわね……男ならシャキッとしなさいよ」

はたから見れば痴話喧嘩にしか見えないようなやり取りをしてはいるものの、二人ともいつでも抜刀できるよう臨戦態勢を保っている。

「どう見る?」

「遠距離の手があるようには見えねえっすけど、純粋にサイズがありますし、何より空間を歪めるってのが本当なら間合いがどこまで意味あるのかも分かんないっすよね……。まあ、とりあえず遠距離からの鬼道で様子みましょうか」

「そうね」

 


 

連れてきたメンバーが各々目についた――あるいは因縁のある――死神に向かっていき、アイスリンガーは一人取り残される形となった。彼我のメンバーはそれぞれめいめいに刃を交え始めており、順当に行くなら自分もこのまま死神と交戦することになるはずなのだが、目の前の一団で唯一手を空けている男とは対峙したくないというのが率直なところだ。そもそもアイスリンガーにとって戦いというのは目的を達成するための手段であってそれ自体が目的とするようなものではないし、ロリやイグアラダのように特別因縁のある相手がいるわけでもない。その状況で、藍染惣右介すら警戒すべき対象として資料に残すほどであった浦原喜助と刃を交えるというのは、実際のところ得られるものより失うものの方が確実に多いだろうことは想像に難くない。

「もう一人いらっしゃるんスね。どうします?やりますか?」

案の定既にこちらに気づいており、言葉は大分緩いものの雰囲気は剣呑そのものである。いくら自身の技術で霊力・能力を底上げしたとはいえ、十刃の上位勢と比べてもまったく見劣りがしないような存在とやり合うのは――到底成功するとは思えないが――不意打ちができてようやく多少の勝機があるかどうか、という程の格の差だろう。

「ご遠慮したいね。あそこらへんの野蛮人と違って、私は研究のために来ているんだ」

「まあそう言うと思ってましたよ、アイスリンガーさん」

案の定素性まで割れている。自己紹介をした覚えはないのだが。

「破面化の研究をされてた方っスよね。勿論覚えてますよ」

「どこでその情報を手に入れたのかは知らんが、買い被りだよ。少なくとも貴様の知る当時の私は藍染様の寄越した技術を借りていたに過ぎぬ」

「へぇ……当時の、ですか」

そう言いながら各所で戦っている破面達に目をやる。

「……お察しの通りだよ。この数十年で多少の進歩は見ていてな。私を含め何人かはそれなりに手が入っているよ」

 

浦原喜助にとって、今回の派遣部隊に協力したのは端的に「尸魂界側では涅マユリを除きこの事態に対処できない公算が高い」からであって、現地でこうした散発的な戦闘が起きた場合の戦力として来ているつもりはない。もちろん――”規格外”である更木剣八を抜きにすれば――自分がこの中で頭抜けた戦力であるのは事実だろうが、少なくとも現状交戦している仲間たちを見る限り深刻に苦戦しそうな様子もないし、多少負傷したとしても回道の腕に長けた山田副隊長がいることを考えればこの場で自分が刀を抜く必要はあるまい。一方一人先行した更木剣八は、本人自身が斃れることはそうそう想像できない話ではあるものの、一方で不用意に例の大虚と接触することで予想外の事態に発展する可能性は十分にあり、そういう面では早いところそちらの方に向かいたいところではある。

「アナタも例の大虚目当てですか」

「詳しいことは何も知らぬがな。何か未知のものがいるというのなら、一応自分の目でそれを確かめておきたいという欲求はあるさ」

「どうでしょう、提案なんスけど」

科学者としての欲求を素直に口にしたアイスリンガーに対し、浦原は一つの策を示す。

「先行したウチのリーダーを追って、先に”下”に行きませんか」

 




まだまだ第五章、続きます。
多分あと2話分くらいになりそうな……。
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