Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第五章: Grasp of Hieromancer (8) ― Farsight Adept

「駆け巡れ、五連星(いつらぼし)

石田誠弦は構えた斬魄刀を開放し、戦輪(チャクラム)のような円形の刃が一列に5つ並んだ姿へと変化させる。

「本気ですか、石田三席」

「無論本気だとも。もはやルビコンを渡っているんだよ、私は」

そう言って刀を振るうと、5つの刃がそれぞれ分離し誠弦の周囲を飛び回り始める。

「――鎌鼬、ですか」

行木理吉が口にしたのは、先日誠弦が襲名した称号である。紆余曲折を経て「尸魂界一の飛び道具の使い手」を示すことになったその異名の通り、彼の斬魄刀は遠距離戦闘に特化していた。ここ数十年の間上位の死神たちが思う所あって拒否していた結果隊長格の実力者たちから見れば半ば格下扱いされている称号とはいえ、基本的には近接戦闘が主体である護廷隊にあって長射程の飛び道具を扱えるというのは言うまでもなく十分強力なものであり、理吉のような席官レベルの死神からしてみれば決して侮れるものではない。

誠弦が手を伸ばすと、彼の周囲を飛び回っていた戦輪のうち3つが理吉の方へと飛んでいく。

「残念です」

理吉もまた斬魄刀を握る手に力を入れ、解号を呼ぶ。

(ながら)えろ、老松(おいまつ)

刀身の形はほとんど変わらないものの、鍔の形が大きく変化し右側の手首あたりまでカバーする大型の籠型のものになる。理吉は飛んできた戦輪をその鍔や刀身で弾き誠弦の初撃から身を守った。

誠弦は少し逡巡する。初撃は様子見で緩めに射出したため、それが防がれたこと自体はまったく驚くことではない。だが自らの五連星や自身の上司であった鳳橋前隊長の金沙羅、あるいは他隊であれば朽木隊長の千本桜や松本副隊長の灰猫のような刀剣の形状が大きく変化する系統のそれとは異なり、刀身がほとんどそのまま残る系統の斬魄刀はひと目見ただけでは一体どういう能力を持っているのかの判断がつかず、ここからどのように崩していくかは慎重に考えなければならない。一方で、以後のことを考えれば万が一にも逃げられてはならないし、長引いてしまえば最悪他の死神の介入を許すことになりかねないことを考えれば、そうそうのんびりしている場合でないのも確かである。

「まあ、考えても仕方ないな」

解放の直後から何らかの攻撃を放ってくるような攻撃的なタイプならいざ知らず、――本人の性格によるものなのか斬魄刀の能力によるものなのかはともかく――初撃を弾いた今でも向かってくる様子はない以上、早期決着を図るためには自分から動く他なさそうだ。覚悟を決め、5枚の戦輪を相次いで理吉へと放っていく。

 

しばらくの後。

自身の斬魄刀を飛ばすためには当然霊力を多少なりとも消費してはいるのだが、それ以上に理吉の方も消耗しているように見える。どうも防御に長けた斬魄刀には見えるが、射程外から攻撃を受け続ければ当然受けそこねた刃で少しずつ消耗することは避けられない。大きな傷こそないものの、理吉の体には細かい傷が無数に刻まれている。

ただ、気になるのは先程からどうも防御の精度やその後の反撃のスピードがあがっているように感じられることだ。受け損なう刃の数は明らかに減っているし、受けたあと距離を詰めてくる速度が上がっているのか自分に肉薄するようになってきている。このまま続けていれば、彼の体力を削り切る前に自らが斬られるかも知れない。

「……まだ私も修行が足りないということか」

あるいは、単に戦闘が長引くことで自身の攻防の精度が落ちているということだろうか。

「違いますよ、石田三席」

誠弦の独り言が耳に入ったのか、理吉が声をかけてくる。

「あなたの力が落ちているんじゃありません。ただオレの膂力が上がっているだけなんですよ」

確かに膂力が向上すれば反応速度も接近速度も上がるだろう。だが、死神の膂力を短期的に上げるためには当然霊圧の上昇が必要であり、むしろ傷ついて霊圧が多少なりとも下がっている状態で膂力が上がり続けるというのは違和感を禁じえない話だ。

「老松の籠手は単なる防具じゃないんですよ。ここで受けた攻撃はオレの膂力の底上げになるんです。長々いたぶってくれた分、しっかりお返ししますよ」

成程、直接攻撃系に見えたが本質的には縛道系か。それなら、反応できない速度、防ぎきれない火力で一気に決める他ないということになる。

「仕方がないな」

使ってしまえば技術開発局や映像庁に察知されるリスクが高まるため、こんなところで死神相手に使いたくはなかったが、もはやそうも言ってはいられない。既にもう時間をかけすぎており、可及的速やかに理吉を倒して手に入れるべきものを手に入れ、一刻も早くこの場を離れることが先決だ。

五連星を鞘に納めると、おもむろに左手で懐からある物を取り出す。

「君相手に使う気はなかったのだがな」

取り出したのは銀製の星型のペンダント、つまり滅却十字であった。周囲の霊子を集め、弓を形成しながら言う。

「神聖滅矢の本数は、君の斬魄刀で防ぎ切れるものではない。悲しいかな、戦いはやはり間合いの差なのだよ」

 

『そうか、間合いの差か。中々良いことを言うじゃないか』

その瞬間、虚空から声が響いた。若い女の声に聴こえるが、まるで覚えのない声だ。

「これは……天挺空羅か!何者だ!!」

声の主は姿を見せないが、これは恐らく鬼道による通信だろう。直接相手を攻撃する破道とは異なり、縛道には単に相手を拘束するものだけではなく居場所を特定したり遠距離に物を伝えたりするようなものも存在する。縛道の七十七、天挺空羅は霊圧を知っている対象者であれば姿の見えないような遠隔地に対しても声を伝えることが可能である。

『おや、君は忍び込もうという先の責任者のことも知らずにやってきたのかい』

「まさか……大鬼道長!」

『縛道の五十八、掴趾追雀』

返答の代わりに鬼道の名が告げられる。掴趾追雀は対象の霊圧を捕捉することでその場所を知る術であり、大鬼道長クラスの使い手であればたとえ詠唱破棄であったとしても数センチ程度の誤差で位置を特定することが可能である。

『縛道の七十五、五柱鉄貫』

そして息つく暇もなく、天から五本の柱が降り注ぎ誠弦の五体を拘束する。

「くそっ、こんなもの……!」

『無駄だよ。――鉄砂の壁 僧形の塔 散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪』

なんとか拘束から逃れようとするが、声の主が言葉を発する度に拘束の重みが増していき、まったく抜け出すことができない。

『灼鉄熒熒 動けば風 止まれば空』

「後述詠唱……?いや、なんだこれは……!?」

本来鬼道の発動には言霊が必要だが、発動直前にただ詠唱する以外の高等技能がいくつか存在する。詠唱破棄、即ち言霊の詠唱を完全に省略し鬼道名のみ、あるいは鬼道名すら呼ばずに発動することもこの詠唱技術のひとつであるが、他にも「詠唱破棄した鬼道に後追いで言霊を詠唱することで威力を向上させる」後述詠唱という技術が存在する。

『湛然として終に音無し 槍打つ音色が虚城に満ちる』

また、同時に複数の鬼道を発動させるため、詠唱を並行して行う多重詠唱という技術も存在する。言うまでもなく並列にすればするほど難度は加速度的に上昇していくため、同時に2つを扱う二重詠唱でさえ扱える人間はほとんど存在しない。

『破道の六十三、雷吼炮』

声の主が詠唱を終えた瞬間、天から電気を帯びた爆風が飛来し誠弦を直撃する。

『確かに戦いは間合いの差だったよ。残念だったね、この瀞霊廷全てが私の間合いなんだ』

誠弦は意識を失い、その場に崩れ落ちる。

「あの……ありがとうございました!」

都合命を救われた形になった行木理吉は、姿の見えない恩人に向かって礼を述べる。

「なに、私もこれが仕事だからね。行木三席、そいつの捕縛は任せたよ、殺してはいないはずだからね」

「了解しました!」




今回の決め台詞、実はプロットのごく初期の初期から決まってました。
大鬼道長のプロフィールは結構後になって変わったりしたんですが。

来週でようやく第五章が終わります。
――思ったより長引いてますね、これ……。
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