Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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この幕間回から第六章、第七章と「作者お気に入りのキャラを活躍させるだけのゾーン」に突入します。


幕間三: Defense of the Heart (1)

 

いつからだろう

護る背中しか見えなくなったのは

 

いつからだろう

背中を見せることを厭わなくなったのは

 


 

浦原喜助が久々に虚圏へと旅立つに際し、現世の防衛を任されたのは握菱鉄斎とそのかつての部下、ハッチこと有昭田鉢玄であった。浦原喜助は確かに護廷隊を含めた死神全体でも十指に入ろうかというレベルの上澄みではあるものの、現状の現世重霊地空座町に残っている戦力は彼を除いても十分に強大であり、彼一人がそこを離れたからといって即座に戦力が危機的状況に至るわけではない。一方で、尸魂界から――半ばアリバイ作り的になのか新人研修のつもりなのか――送られてくる死神と、自らの浦原商店に連なる謎の戦力、藍染惣右介によって虚化された死神の一団である仮面の軍勢(ヴァイザード)のうち現世に残った数名、そして何より黒崎一護の家族や友人といった各戦力はそれぞれ日頃連絡を取り合うような間柄ではなく、その全てに顔が利くのが浦原喜助という男であった。つまるところ、彼が現世を離れるにあたり握菱や有昭田に依頼したのは直接的な戦闘というよりも、各勢力間の連絡や調整といった裏方の話である。

 

実際、浦原が虚圏に向かってからしばらくの後、彼が危惧していた通り「それ」は現世にも現れた。通常の大虚のように黒腔を開いて現れたのではなく、いきなり現世の空間を歪めて出現してきたのだ。

しかしながら、浦原が最悪の状況を想定して両名に調整を依頼してはいたものの、現世のメンバーは彼らからの連絡を待つことなくその虚の霊圧を感じ取った瞬間に各々が動き始めていた。……もっとも、空座町を離れて生活していた茶渡泰虎や仕事上現場を離れることが極めて難しい石田雨竜のように、強大な虚の出現を感じながらも動けなかった者もいるのだが。

以前の地獄を巡る一件以降黒崎一護夫妻や一勇は――その能力の強大さ・異質さに鑑み――軽率に動くことを控えるように各所から要請されており、また十三番隊から派遣されていた空座町担当の死神には以前隊首会で情報共有を受けた隊長から――その戦闘能力が現地の他の戦力と比して大きく劣ることを鑑みて――「別命あるまで待機せよ」との厳命が下っていたため、まず組織的に動きだしたのは一番自由な立場である仮面の軍勢組であった。

 

「せっかく引退してこっちに隠居したと思ったら、いきなり酷い出迎えもあったものだね」

つい先日まで三番隊隊長を務めていた鳳橋楼十郎は愚痴を零す。

「まあそう言うな。ハッチ曰く浦原さんが虚圏行ってるらしいし、俺らが動くのが手っ取り早いだろ」

「はっ、こっちほったらかして虚圏観光とは良いご身分やな!」

同じく仮面の軍勢のメンバー、元七番隊隊長愛川羅武と同じく元十二番隊副隊長猿柿ひよ里は軽口を叩きつつ現場に出る準備を進める。幸い具体的な出現場所については既に浦原商店に控えている有昭田から――現世らしく特に霊的な手段を用いない通信手段で――連絡を受けており、三人は集合した足でそのまま現場に向かっていく。

 

「お前らが呑気にしてるから先を越されたやんけ!」

ひよ里が後ろから来ていた男連中に怒声を浴びせたのは、到着した現場で既に「それ」と思しき虚と交戦している者が目に入ったからだ。口では現世のことなど重要視していないかのような物言いをしているがその実なんだかんだでこの空座町を守るということにはそれなりの矜持を持っている彼女にとって、いの一番に駆けつけたつもりが誰かに先を越されたと言うのは全くもって面白い話ではない。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。あんなどう見てもヤバそうなやつ、僕らレベルの人以外に相手させちゃ危ないよ」

腹を立てるひよ里に対し、ローズは至極もっともなツッコミを入れる。図体こそそこまで大きくないとはいえ大虚に匹敵する霊圧を発しており――それこそ護廷隊から派遣されているような――有象無象の者の手に負えるものとは思えない。

「間違いねぇ……ああいや、あれ夏梨ちゃんか。ローズ、心配の必要はねえよ」

「知り合いかい?」

「ほら、黒崎一護の妹だよ。兄貴ほどじゃねえが、あの子も大概だからな」

「ああなるほどね」

 


 

兄である黒崎一護と違い、自らに関わることは積極的に知ろうとする性格だった彼女は――恐らく兄の預かり知らぬところで――自身や家族、友人や戦友たちが一体どういう存在であるのか、どういう力を持っているのかということを色々な関係者から聞かされていた。そうした中で――まったく力を持たない姉と異なり――自身の力の扱い方についても関係者からそれなりの手ほどきを受けるに至っており、特に一大戦力である兄夫婦が一人息子にかかりきりになっている間には現世側戦力の重要な一角を占めるに至っていた。例えば石田雨竜からは滅却師の力について多くを教わった結果として、純粋な滅却師の血統ではないもののもはや石田の力を継ぐ者の一人といった立場になりつつある。

先日来空座町に住む死神達が慌ただしくしていたことから「近々何かがある」ことは察していたところ、ちょうど朝食の片付けを終わらせたばかりのところで正体不明の強大な霊圧によって世界が「歪められた」ことを察知した。幸いこの日は仕事も休みであり、その霊圧の元へと向かったところ、見慣れない姿の怪物を目にした。多少普通と異なるとは言え霊圧の質自体は虚に近いものの、仮面も孔も見えない「それ」は死神達がここしばらく準備をしていた敵であると直感的にわかるほど異質な存在であった。

「あれ、虚……なんだよね」

近くに誰がいるわけでもないのだが、つい疑問を口にしてしまう。

巨大な単眼や触手まみれの巨大な腕という普通の虚にはない姿は、ここ数十年しばらく少なくない数の虚を相手取ってきた夏梨にとっても少し腰が引けてしまう程には恐怖を覚える異形の存在である。恐らくこのまましばらく待っていれば隊長格の死神や浦原商店の悪童達が追いついてくるとは思うが、だからといって一番槍の自分が手をこまねいて見ている理由にはならない。

「さて、やるよ」

自身にそう言い聞かせながら左手につけている十字形のペンダントに霊力を流し、弓を作り出す。このペンダントは以前石田雨竜から譲り受けたもので、元々は彼が祖父宗弦から受け継ぎ幼少期の修行にずっと使っていたものである。彼自身はその後――父との一応の和解を経て――五角形の正統な滅却十字を持つようになったが、親友の妹でもあり遠い親類でもある夏梨に滅却師の力が受け継がれていることを知り、「身を守るために」と渡されたのだった。無論正統な滅却十字に比べれば振るえる力には相当な差があるものの、彼女自身が持つ資質の強さ、そして逆に彼女の立場からして正統な滅却師としての力をそこまで振るう必要がないという点を考えても、これで十分だったと言えよう。

 

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