Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

4 / 65
序章: Left Fathers (4) ― The Rebirth

「なるほど、ここが尸魂界か」

病室で意識が薄れたと思ったら、次に目にしたのは眼前に続く和装の老若男女の列だった。それも、相当に長い。以前から尸魂界については知っていたが、実際に目にするとやはり不思議な感覚は否めない。そしてしばらくの後、彼は西流魂街三十四地区「紅露」へと送られた。

「なるほど、生前の服装には関係なく皆和服で送られるわけか」

ひとまず冷静に状況の把握に務める。

「それに……若返った……のか?」

死ぬ寸前の自分は末期の肺癌で、控えめに言っても半ば死体のような見かけだったはずである。ところが、今自分の手を見る限り相当血色が良く、肌の状況を見る限りはまるで3~40代の頃を思わせるような状態である。

だが彼にとって、目下の問題は左手に感じる忌々しい重さであった。

「雨竜め……」

滅却十字。滅却師としての能力を行使するためのそれが、霊体であるはずの自分の身についていたのだ。

「どうやら、力はこの姿でも残っているらしい」

霊力を少しばかり体に回して見て、そう結論付けた。

 

流魂街では、基本的に見ず知らずの人と「家族」として共同生活を送ることになる。

私が一緒に暮らすことになったのは、黒髪で落ち着いた雰囲気の女性、高校生くらいの雰囲気の男の子、そして小学生くらいの女の子だった。

 

「ところで竜弦さん、お腹は空きますか?」

一通り自己紹介や周辺の説明などが終わった後、不意にこの「一家」の長らしき女性――どうやら「カナコ」というらしい――が徐にそう聞いてきた。

「こちらの世界では普通お腹は空かないんですけど、霊力がある方は別みたいなんです」

なるほど、それはなかなかに厄介な話だ。

「私たち3人はみんな力がないので…もしかすると、ちょっと大変かもしれません」

表情に出ていたのか、私に霊的な力がある前提で話を続けられる。

「食料の調達に問題があるということか?」

「このあたりはそこまで治安が悪いわけではないですし、私達も別に物をまったく食べないわけではないので、そこまで深刻な問題ではないと思います。ただ――」

そこまで言って一息つく。

「お腹が空かない私達とでは、必要な量がもしかしたら違うのかな、と」

「なるほどありがとう、お気遣い感謝する」

「確かこのあたりだと、3軒先のジョウタロウさんは力がある方なので、何かと力になってくれるかも……」

 

 

 

「私はこのあたりで医者をやっておるジョウタロウだ、よろしく」

ジョウタロウと名乗る男は、鼻がやたら目立つ白髪の老人だった。

「まあ医者と言っても、こっちじゃ薬草をあてがうか、申し訳程度の回道――つまり治癒能力を使うか、くらいしかできんがね」

と、自嘲気味に言う。

「……現世でも、医師を?」

「まあな。遥か昔の話しさ」

「奇遇ですね。私も医師でした」

「そうか」

ふと逡巡するジョウタロウ。

「そういえば、結構若く見えるが……」

「ええ、そこが気になっているんです」

尸魂界に来てから気になっていた疑問を投げかけてみる。

「私は現世で80も過ぎて死んだはずなのですが……」

「なるほどな、だとしたら君は随分霊力があるらしい」

「…と、言いますと?」

「尸魂界での魂魄の寿命は、その霊力と大きく結びついておる」

そう言いながらジョウタロウは立ち上がる。

「つまり、霊力があればあるほど『老いる』のも遅くなる、ということだな」

「ふむ」

「霊力のない魂魄であれば、その寿命はさほど長くないから、死んだ時から大きく若返ることはない」

「なるほど、霊力が強ければ魂魄の寿命に対して経た年数が短いから、その分若返りがおきるということですね」

「そのとおりだ」

一冊の本を差し出して、更に続ける。

「まず、これを読んでみるといい」

「これは……?」

「回道の基礎の基礎についての覚書だ。十分な霊力と医学の知識があるなら、この程度はできるようになるだろう」

思わず怪訝な顔をしてしまったのか、ジョウタロウは更に言葉を繋いだ。

「腹が減るということは、我々は何かしらの稼ぎが必要ということだ。君さえ良ければ、しばらくはうちの手伝いをしたらどうかと思ってな」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。