Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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さあ、物語は遂に最終盤へと入ります。


第六章: Confront the Unknown
第六章: Confront the Unknown (1) ― Gossamer Chains


我々は刃を研ぐ

それを振るう日が来ないことを祈りながら

 

その刃に怖れや驕りが映らぬよう

我々は鋒を敵に向けるのだ

 


 

鬼道衆の詰所そばで三番隊第三席石田誠弦が捕縛されたという話は決して各隊に周知されたわけではなく隊長格や上位席官のみに非公式に伝達されたことであったが、彼が首領を務めていた元滅却師の集団にも当然その情報は流れていた。元々この組織はさほど強いつながりがあるわけでもない――かつて誠弦が竜弦に語ったように――単なる交流会といった性格の組織であったが、誠弦を中心とした席官クラスの一部構成員はそうした「緩い」組織とは別の、ある種非合法な活動をも厭わない一種の下部組織にも属していた。もちろん誠弦の捕縛の報はそちらの活動に従事している者にも伝えられ――というより、実際には上位席官であるそちらのメンバーから交流会側に伝えられたのだが――彼らは次の一手をどうすべきかという問いを突きつけられることになった。誠弦が取り調べでどこまでのことを明かすかは不明であるものの、彼の計画を引き継いで行動を起こすか、それとも誠弦一人の暴走という体裁にするために静観を決め込むか、という選択は彼らの行く末を左右する重要な二択である。ただ問題は、現状上位席官は守備配置に動員されており集まって話し合う機会などなく、せいぜい当たり障りのない――通信の検閲を受けても言い逃れの効くレベルの――情報共有を伝令神機から行うのが関の山、という状況であることだった。その結果として「とりあえず現状の職務に専念し、状況が落ち着いてから対処しよう」という者が大勢を占める中、同じく会の中心的な立場にいた者の中にも独断で行動を起こす者が現れる。

 

一方、十二番隊技術開発局。綱彌代の屋敷を調査するなかで滅却師と対峙する可能性を考えた涅マユリは、既に「護廷隊内にいる滅却師の力を持つ可能性のある者」のリストアップを秘密裏に進めていた。健康診断を行う四番隊のように全隊士の霊圧情報を含む個人情報を握っているわけではないものの、技術開発局として義骸の調整など諸々の支援活動を行う関係上――特に席官クラス以上の隊士については――霊圧のパターンを含めそれなりのデータが蓄積されており、その中で可能性のある者を探すこと自体は難しい話ではなかった。

「阿近、見えているネ?」

監視用の端末を見ながら、マユリは副隊長の阿近に声をかける。

「ええ」

彼らの前にある画面には、こちらに近づいてくる死神が一人映っている。

「四番隊第六席、黒崎樹……本来隊舎での待機が命じられているこの状況で単独行動している時点でロクな用向きじゃァなさそうだが……まァ良い。阿近、対応は任せたヨ」

「了解しました」

 


 

虚圏で死神と戦闘する、という不測の事態に遭遇しながらも吉良イヅルは平静そのものであった。元々彼自身戦いを好むわけではないものの、必要とあれば誰が相手であれ剣を振るうことは厭わない性格であったし、上司の度重なる離反や大戦後「死人」として尸魂界のいわば裏側に触れてきた経験からそうした割り切りは更に強くなっていた。

それよりも、今回彼にとって気がかりなことは「相手を捕縛しておく」必要があるということであった。まるで背後関係や動機がわからない以上尸魂界に生きたまま連れ帰って取り調べをする必要があるだろうが、一方今すぐに尸魂界に戻ることもできない以上は「十分な強度で長時間拘束する」必要がある。こうした分野に長けた技術をもっているはずの浦原喜助は既に更木隊長を追って先に行ってしまっておりすべて自分でどうにかしなければならないのだが、如何せん相手の霊圧から考えるにせいぜい上位席官クラスの相手を殺さずに拘束するというのは隊長格の中でも図抜けた霊圧を持つイヅルにとってそう簡単なことではない。

 

イヅルは腹を決めて斬魄刀を握り直す。

「面を上げろ、侘助」

幸い彼の斬魄刀は――もちろん発揮する霊圧の上昇に伴う膂力の向上はあるものの――火力が爆発的に上昇するような攻撃的なものと言うよりは、むしろ相手の動きを制限する方向性であり、「うっかり殺してしまう」可能性はそこまで高くはない。しかし一方で斬魄刀の能力の性質上、こうした飛び道具を扱う相手との相性も決して良いとはいえないのが実情だろう。侘助の能力は斬りつけた対象の重さを倍にするもので、当然本体の手を離れたものの重さを増やしたところで戦闘上の意味はほとんどない。相手は死神でありながら滅却師の力も持っていること、そして――古参の副隊長としてそれなりに護廷隊内でも有名な――イヅルの能力が知られていることを考えれば当然に斬魄刀による白兵戦よりも遠距離戦を狙うと考えられ、実際侘助の解放を見て相手は神聖弓を展開していた。

「やっぱりそうか」

予想通りと言った表情で、イヅルもまた遠距離戦闘の構えをとる。

斬魄刀の能力は決して遠距離戦に向いていないとはいえ、彼自身が遠距離戦闘能力を持たないというわけでは決してない。元より副隊長というのは苦手の少ない万能型の人間が多いが、特に彼はかつて四番隊で回道をも修めた程に守備範囲の広い死神であり、当然それは遠距離戦闘にも対応できることを意味していた。

「縛道の三十九、円閘扇」

相手が放った矢に対し、イヅルは鬼道で円形の盾を作り出して防御する。詠唱破棄とはいえ、せいぜい席官レベルの霊圧しか持たない滅却師の神聖滅矢でそれを打ち破ることは相当難しい。

「理解できたかな。早く諦めてくれると手間が省けるんだけど」

相手に投降を促すが、当然他隊の副隊長に刃を向けるほどの覚悟を決めた者がそうそう簡単に退くはずもない。

大気の戦陣を(レンゼ・フォルメル・)杯に……(ヴェント・イ……)

「縛道の五十四、鞘縫(さやぬい)

懐から銀筒を取り出し詠唱とともにそれを投擲しようとした右腕に、霊子の糸が絡みつきそのまま虚空へと拘束する。

「そんなもの、撃たせると思ったかい?」

縫い留められた利き腕は一瞬ののちに動かせるようにはなったものの、絡みついた霊子の糸は消えるどころかその本数を増しており、弓を引くどころか握った銀筒を手放すことすらできない。

「君臨者よ 血肉の仮面 万象 羽搏き ヒトの名を冠すものよ」

鬼道の天才として名を馳せ鬼道衆へと異動していった同期ほどではないにせよ、彼自身もまた院生時代から鬼道の才には一定の評価を受け続けてきた「優等生」であり、こうした縛道と破道を適切に組み合わせた鬼道戦闘もまた彼の強みだ。詠唱破棄した縛道で相手の動きを拘束し、それによって生じた隙に強力な破道を打ち込むという戦い方は鬼道戦闘の基本とされつつも、特に縛道の詠唱破棄は破道のそれより難度が高い関係上、隊長格でさえ得手とするものは多くない。

「遠雷と黎明 闇打つ鐘声蒼穹に満ちよ――破道の三十二、黄火閃」

詠唱を終えたイヅルから、黄色い閃光が迸る。三十番台の中級鬼道とはいえ、隊長格が放つ完全詠唱のそれは席官クラスが対処できようはずもない。多少の回避は試みたようだったが、結局相手はそのまま気を失ったようだった。

「よし、まだ息はあるようだね……ふむ、二番隊か」

近寄ったイヅルは死覇装の裾に縫い付けられた隊章から所属を確認する。

「大前田さんは今回来てないからな……。連れ帰らないとわからないか」

 

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