Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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少しずつ広げた風呂敷を畳んでいく第六章、今回は「あの人」の戦いが決着します。


第六章: Confront the Unknown (3) ― Bitter Ordeal

 

中級大虚イグアラダ・フィルボは虚の食物連鎖の中では少し異色の立ち位置を占めていた。元来大虚は同族に体軀の一部でも喰われるとその時点で進歩が止まるという性質を持つ。それは「他者との横槍を入れてきた第三者」に喰われても同様であるため、より進化し知性をつけていくにつれ、大虚たちは乱戦になることを忌避し、戦いの必要があるときも邪魔の入らないところで正面切って対峙することが主となっていく。そうした戦いに敗れ行き止まりに至った大虚の多くは潔くそのまま相手に喰われ、あるいはそのまま霊体としての生を終えていくのだが、一方で中には何とかして――進歩を諦めることで――生き延びることを優先する者もいる。破面になる前のイグアラダは主にそうした敗走する虚を贄としてここまで力をつけてきた虚であり、メノスの森の深部に腰を落ち着けるようになったのも狩野雅忘人が暴れまわった結果手傷を負った大虚が定期的に供給されてきたからである。そうした面でイグアラダは決して雅忘人に対し恨みを抱く理由がないどころかある意味で感謝してさえいるのだが、だからといって死神という自らと相反する存在と一度刃を交えておきながら――特に自らより上位の虚が介入するという不本意な形で――決着がつけられなかったというのは大きなわだかまりを残す結果であった。そのイグアラダにとって大きな誤算だったことは、改めて対峙した雅忘人の斬魄刀が思ったより強力だったことだろう。曲がりなりにも中級大虚である自分が破面化したというのに、高々死神の始解に押し負けるというのは自尊心を傷つけるには十分であった。

「躊躇してる場合じゃねえってことか」

一旦響転で少し距離を取ると、改めて自身の斬魄刀を構え直す。

「狩れ 屍牙豻(カロニェロ)

破面の帰刃は、人型になるに際して封印した虚としての力の本質を自身の体軀に戻すものである。かつて野犬のような風貌だったイグアラダは帰刃すると鋭い爪を取り戻し、また両肘・両膝から牙を思わせる鋭い突起を手に入れる。

「それが帰刃ってやつか」

メノスの森は虚圏の中では「僻地」でありそこに暮らす大虚の大半は最下級である。雅忘人にとってこの数百年間を思い返しても普通の中級大虚と遭遇することさえ稀なことであったし、帰刃はおろかまともに斬魄刀を扱うこともできないような「出来損ない」であっても破面と相対したことは片手にさえ足りぬほどの珍事である。言うまでもなく元々中級大虚で帰刃まで至っている「成体」の破面と刃を交えたことなどあるはずもない。破面にとっての帰刃は死神にとっては卍解に相当するもので、言い換えれば眼の前の破面は隊長格に匹敵する存在ということになる。いまだそこに至っていない雅忘人からすれば、ここから先の戦いはそう楽観できるものではない。

 

雅忘人の斬魄刀は大型の突撃槍のような姿であり、その得意技も霊圧の噴出による突撃とどちらかといえば大振りの側に属する関係上、手数や速度に勝るイグアラダとの戦いは――ただでさえ霊圧という根本の部分で旗色が悪いことも相まって――苦戦を強いられるものになった。特にイグアラダには大虚ならではの虚閃という遠距離攻撃手段さえあり、戦闘を続けるにしたがってだんだんと削られてしまっている。

「仕方ねえ、行くしかねえか」

このままではジリ貧と悟った雅忘人は諦めて、多少のダメージを承知の上で突っ込むことを選択する。元々数百年間メノスの森で長く戦闘していた雅忘人は元々それなりの打たれ強さはあり、背負えるリスクと見做しての選択である。雅忘人が一直線に突っ込んできたのを見て、イグアラダは虚閃や爪を振るってダメージを与えていくがそのスピードが落ちることはない。

「クソっ……!」

「捕らえたぜ」

最終的に何とか両腕で受け止めたはものの、全身の体重が乗せられた突撃の速度を殺し切る事はできず紅沙参の槍体が深々とイグアラダの腹部を貫いた。

(ひら)け、紅沙参!!」

雅忘人が叫んだ瞬間、穂先を中心として槍が大きく展開し傷口もそれに合わせて拡大する。

「うおおぉぉっ!!」

そして槍の柄を引き抜くとその内側から細身の両刃剣が現れ、その剣で更に斬りかかる。

「痛えじゃねえか……。ただ、そんなんじゃまだ俺はやられねえぞ」

腹の傷は決して浅くないものの、元より身体構造が生身の生物とは全く異なる大虚にとって致命傷には程遠いものであり、距離が詰まったことを幸いと反撃に出る。雅忘人は近距離で放たれた虚閃の方はギリギリで回避するものの、その直後に繰り出された右肘の「牙」が雅忘人の肩を捕らえる。全身で斬りかかる動きであった関係上自身の前進力さえも反撃のダメージに上乗せされて相当な深手になってしまう。

「畜生……」

一度大きく開いた紅沙参は元の形へと再変形し、雅忘人が力なく利き手にぶら下げたままになっていた柄の部分へと戻っていく。イグアラダも大分出血している状況だが、この好機を逃すまいと虚閃で追撃する。

 

「縛道の七十三、倒山晶」

 

虚閃が雅忘人に直撃するその瞬間、彼の周囲を四角錐状の結界が取り囲んだ。虚閃の直撃によって結界は砕かれたが、致命的な一撃から雅忘人を守るという役割は果たしたようだ。

「あァ?何だこりゃ」

「そこまでです」

二人の戦いに介入したのは四番隊副隊長、山田花太郎であった。雅忘人が深手を負ったのを察知した彼はなんとか救出し治療を施そうと手を出したのだ。元々回道の腕は――貴族に買われていった彼の兄ほどではないかも知れないが――優れており順調に隊内で出世してきた彼であったが、特に黒崎一護と接触して以降現世含め最前線に出ることが増えた関係からこうした防御に適した鬼道の習得・熟達にも力を費やしており、鬼道に長けた他の隊長格には及ばないまでもこうした際に緊急回避的に使うことはできるようになってきていた。

「邪魔すんのか?」

「もう決着は着いたじゃないですか。あなただって相当深手を負ってるのに、これ以上やる意味はないでしょう」

両者の間に剣呑な雰囲気が満ちていく。物腰の低さから下に見られがちな花太郎とて護廷隊の――それも死線を数多く抜けてきた――副隊長の一人であり、その迫力は本人が意識しないまでもそう見劣りするものではない。

「……あなたの傷も治します。それで手打ちにしませんか」

かつて藍染惣右介の離反時に虚圏に来たかつての上司卯ノ花烈もそうであったが、四番隊の流儀としては必要さえあれば敵を治療することさえ厭わない風潮がある。それは交渉材料としてであることもあれば、例えば三界の魂魄均衡を守るためであったり、はたまた将来を考えて恩を売るためであったりと理由は様々だが、ここ二代の副隊長もまたそうした隊風を更に深化させてきたところでもある。そうした背景を考えれば、花太郎がこうした申し出をするのは当然でもあった。

 

「……要らねえよ、大きなお世話だ」

結局、興が削がれたといった雰囲気でイグアラダはその場を去っていった。元々彼にとってもこの戦いは単に遺恨を晴らすためのものでしかなく、ここで副隊長と敵対してまでとどめを刺しに行く理由はもはや存在しなかったのだ。

「ふぅ……緊張した。さて、雅忘人さんの治療をしないと」

 




お察しの通りサンライトハートですね、この上なく。
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