Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第六章: Confront the Unknown (7) ― Cloistered Youth

他の一般隊士達を逃した後、豊川翔太を筆頭とした若き幹部候補たちは異形の虚に対してかなりの苦戦を強いられていた。いくら上級貴族2名を含む席官候補生の集まりとはいえ、目の前の虚は大虚クラス程度の霊圧はあり全く楽観できるものではない。戦闘経験に優れた岩鷲は始解に至ったとは言えまだ本番で使えるレベルではなく、また豊川・竜弦の二人はまだ同調に至ってすらない。頼みの綱であるはずの朽木橙璃は唯一始解を使えるレベルではあるのだが、如何せん彼の斬魄刀銀晶華(ぎんしょうか)の能力は周囲を巻き込みかねない代物であり、この状況でおいそれと使えるものではなかった。

「すまない、そっちに行ったぞ!」

案の定、前衛を張っていた3人の連携が崩されて虚が後衛の竜弦へと向かっていく。

「仕方ない……!」

先程から鬼道で前衛陣のサポートをしていた竜弦だったが、自らの側に敵が来たのを見てついに覚悟を決める。左手首に巻きつけていた滅却十字に霊力を通して神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)を生成し、神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を射出する。最後に虚に向かってこの力を使ったのはもはや数十年前の話ではあったが、流石に身体が覚えていたようで矢は見事に命中する。死神の身体で撃つのはほぼ初めてだったせいか致命傷を与えるまでには至らなかったが、右肩から伸びる太い触手一本を根本から切り落とすことに成功する。

「石田君、それは……」

「お察しの通りだよ。隠していたつもりはないのだが……」

「いや、助かったよ。ありがとう」

実技のみならず座学でも成績優秀であった豊川は、竜弦が行使したその力の正体を即座に看破する。とは言え先の大戦を知らない彼にしてみれば滅却師というものに対して悪感情があるわけもなく、単に友人が強力な戦力であることを嬉しく思うのみである。

「こちらでこの能力を使うつもりはなかったが、背に腹は代えられない」

 

「橙璃、あんたこんなとこで何してんの!」

そこに現れたのは十一番隊第七席阿散井苺花、橙璃の姉であった。同僚とともに守備配置についていたところ、自身の担当区域のほど近くに見知った霊圧を感じて馳せ参じたのだ。

「あなた、それ……」

そして、弟と並んで戦っている竜弦の左手に神聖弓があるのを目に留める。彼女自身も当然先の大戦時には産まれてすらいなかったが、両親の縁で会った黒崎一護の周辺人物のお陰で滅却師の弓は何度か実物を目にしていた。

「それ、しまっといた方が良いわよ。特に今は、ね」

彼女もまた守備配置についている席官として、石田誠弦捕縛の知らせは受け取っていた。この事態が収束した後どのような沙汰が下るのかは彼女の知るところではないが、現状「滅却師の力を行使する死神」というだけでも巻き込まれるリスクは否定できない以上、弟の知り合いと思しき男に忠告をしておくのは彼女なりの思いやりだろう。

「姉さん!」

橙璃は現れた姉の元へと駆け寄る。

「研修生集めて避難してたんだけど、アレが現れて。皆を逃しつつ食い止めてたんだよ」

「なるほど、よくやったわね。後はアタシが引き受けるわ!」

そう言いながら抜刀する。

()ぜろ、骨喰(ほねばみ)!」

苺花が解号を叫ぶと斬魄刀の柄が大きく伸び、薙刀状へと変化する。

「さあ、いくわよ!」

小柄な彼女の体格からすれば相当大きな敵だが、臆することなく斬りかかっていく。幸い竜弦の矢によって触手が落ちた側の守りは相対的に落ちており、彼女の刃は反撃を受けることなく虚に届く。

そして薙刀が虚の胴体に切り込んだ瞬間、傷口が爆発する。裂傷だけであればそこまで深手ではなかったようだが爆発によりそのダメージは臓腑にまで入り、虚はたまらず咆哮する。だが一方の苺花もまた自身の力の反動を受けていた。虚の体軀の内部で爆発を引き起こしたため、その爆風のみならず爆発によって拡大した傷から分離した霊体の破片の一部はその傷口から彼女の方へと噴出しており、その一部が彼女の身体を傷つけているのだ。

だが、そこは十一番隊という護廷隊切っての荒くれ者集団で若くして席官に登った彼女である。多少の代償など気にもとめず、ひるんだ虚に更に斬りつけていく。彼女自身も無数の生傷を負っていくが、それ以上のスピードで虚は身体の至る所に深手を負っていき、もはや戦況は完全に苺花へと傾いていた。

そして。

「これで終いよ!」

彼女はそう叫びながら、虚の頭部に斬魄刀を突き刺した。

その瞬間、ひときわ大きな爆発がその内部で起き、頭部が爆散した虚は消滅を始めた。一方斬魄刀骨喰もまた爆発の余波でその柄の部分が折れると同時に封印状態へと回帰する。封印状態に戻った骨喰は柄や鍔が大きく損傷しており、しばらくはまともに振るえる状態ではなさそうだ。

「どうよ!」

斬魄刀や自身の傷を考えれば相当に消耗しているはずだが、それでも満面の笑みで弟の橙璃へと向き直る。

「相変わらず無茶するなぁ……」

橙璃は少し呆れた様子で応じる。肉親である彼は当然彼女の斬魄刀の能力についても知っており、それが――少なくとも現状では――自身や斬魄刀自体の損傷の避けられない諸刃の剣であることはよくわかっていた。

「助かりました。少し待ってください、治療しますから」

その側にいた竜弦は苺花の方へと駆け寄り、回道で彼女の傷を癒やし始める。元々医者であった彼にとって、いくら戦闘向きの鬼道や――奥の手である――滅却師の力があったとしても、やはりまず自身が大事にしたいことは目の前にいる傷ついた人間を救うことなのだ。

「そっか、君四番隊か。ありがとうね」

 


 

「雛森くん、お疲れ様」

「吉良君もね」

当面の敵を処理した吉良イヅルと雛森桃の二人は合流し、先行している更木・浦原の両名の後を追い始めていた。

「二人相手だったみたいだけど、大丈夫だった?」

「片方は結局最後まで見てるだけだったし……まあ、来ても大丈夫だったと思うけどね。吉良君の方は死神だったみたいだけど」

「二番隊の人っぽいんだけど、何してたかはわからないんだよね。とりあえず狩能さんの治療してた山田さんにお願いしておいたから、僕らが帰るときに一緒に連れ帰れば大丈夫だと思うよ」

山田花太郎は回道の腕を買われて出世してきた男ではあるが、それ以外の鬼道の能力も決して低いわけではない。特に縛道に関しては一定以上の水準にあると評価されており、せいぜい席官レベルの捕縛を保つことくらいは治療の片手間でも十分こなせるだろう。

「今回の変な虚の一件と何か関係あるのかな」

「ない…と考えるのは希望的観測が過ぎるだろうね。無関係のところならいざ知らず、これだけ問題の場所に近いところで何かしてたってことは、事情を知ってる可能性は高いと思うよ」

吉良は素直な見立てを述べる。捕縛した死神が滅却師の力を持っていたということも気にかかることではあったものの――虚圏に派遣されている彼らは尸魂界で同時進行的に滅却師の力を持つ死神が問題を起こしていることは知る由もなく――一旦考慮の外に置いていた。

「どう関わりがあるのかはわからないけどね。ただ浦原さんも彼には気づいてたわけだから、何か考えてるんじゃないかな」

「そうだね、とりあえずあの二人に追いつかないと」

 

「そういえば雛森くん、まだ飛梅持ってたんだね」

本来――浅打に自身の魂を写し取ることで唯一無二の存在になるとはいえ――斬魄刀というのは護廷十三隊に所属する各隊士へと貸与されているものであって、隊を抜けた人間は返納することが決まっている。鬼道衆は同じ尸魂界の実力組織ではあるものの組織上は別々という建付けであり、規定を考えれば護廷隊から鬼道衆に異動する時点で斬魄刀は返納することになるはずである。

「そうなんだよね、あたしも返さなきゃいけないと思ってたんだけど……なんか成り行きで持ったままなの。返さなくてよくなった、って話は聞かないけど鹿良澤さんも総隊長も何も言わないんだよね……」

 

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