Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
多分あと1クール分くらい、お付き合いいただければ幸いです。
第七章: Fateful End (1) ― Extricator of Flesh
他者の罪を裁く傲慢さを罪と呼ぶ
「アレは本当に死神なのか……?」
更木を追って来たところ、既に交戦中のところに割って入るわけにも行かず遠巻きで眺めていたアイスリンガー・ウェルナールは思わず率直な感想を口にした。最上級大虚に匹敵するレベルの霊圧を発する異形の虚と単身互角以上に渡り合って愉しんでいるその姿はもはや一般的な死神の姿から遠くかけ離れており、アイスリンガーが困惑するのも当然と言えよう。
「……アイスリンガーさん、ボクやアナタの持つ『斬魄刀』がどういう成り立ちか、ってのはご存知ですよね」
アイスリンガーを引き連れてこの場にたどり着いた浦原喜助もまた更木の戦いを見ていた。彼にとって一番警戒するべきことは「不慮の事態が発生して三界全体に影響が出るような大きな事態に発展すること」であり、そうした面では更木が戦いを愉しんでいられるうちは急いで介入するような事態ではない。ある意味では雑談に興じる余裕があるとも言えるところで、アイスリンガーが口にした率直な疑問に応じたのだった。
「無論だ。我々の斬魄刀と死神のそれとは出処が違うとはいえ、基本的には幾重にも積み重ねられた魂魄を刀の形に打ち直したもの、と言うのが最もわかりやすい表現だろうか」
「その通りっス。まあボクら死神の場合は『外付け』なので始解っていう余計な一段階が出てくるんスけど」
破面の帰刃と死神の卍解は本質的に近しいというのは多くの研究者の共通認識であるが、逆に言えばその手前の段階である始解が死神にしかない理由に関しては色々な仮説が立てられている。その中でも、元々自身を構成する魂魄の一部を外に出した破面のそれと違い二枚屋王悦の打った「浅打」という全く別の魂魄からなる斬魄刀を利用するが故に、それを「手懐ける」一段階を踏む必要がある、というのが浦原の見立てであった。
「それと何の関係があるのだ?」
「アナタも色々見てきてると思いますけど、卍解と帰刃では大きく違う点が一つあるんス」
そう言われても、自分自身は死神の卍解というものを十分に見知っているわけではない。ここ虚圏における情報でさえ自ら情報を得られるようになったのはザエルアポロ・グランツの死後のことであって、現世や尸魂界の方に至ってはほとんど未知の世界に近いというのが実際のところだ。無論ある程度の隊長格のそれについては――藍染一派などから――敵戦力の情報として聞き及んではいるが、その力の本質について自身の研究が行き届いているわけではない。
「帰刃はあくまで『外部に出していた魂魄の力を自身の魂魄の【内】に戻す』ものっスから、基本的には自分自身の姿形が本来の虚としてのそれに戻るだけでしかないんス。一方アタシたちの卍解はあくまで斬魄刀という後から得たものの力を解き放つだけのことで、当然それは『斬魄刀が自身の【外側】で変化する』ことになるんスよ。――ごく一部の例外を除いて、ね」
浦原はそこで言葉を切り、嬉々として刀を振るっている更木剣八の方へと目を遣る。その斬魄刀は既に巨大な戦斧の形状へと変化しており、単なる始解とは思えないその破壊力を存分に見せていた。
「アタシの読みが正しければ、ですが」
改めてアイスリンガーの方に目を戻す。
「この後、面白いモノが見られると思いますよ」
「
アビレス・ミラジェスと名乗ったその破面は解号を口にして刀剣の力を解放する。帰刃したその「真の姿」は他の眷属同様多くの触手を持つものだったが、特に両肩の後方から伸びる二対のそれはひときわ太く長く、相当に強力な力を持つものと思われた。そして、その触手はそれぞれ一心の方向に向けて伸ばされたかと思うと、先端から相次いで虚閃を放った。
「くそッ、やりづれえな……!」
もちろん、隊長格の死神にとっていくら強力な虚閃であってもよほど追い込まれた状況や騙し討ちの結果でもなければそうそう命中するものではなく、それが一心を捉えることはない。だが一方で剡月はあまり交戦距離の長い斬魄刀ではないことを考えると、虚閃を様々な射線から打ち込まれると反撃に出るチャンスを制限されるのは事実であり、決して侮ってかかれる状況ではなくなった。もちろん触手本体とて無視できるものではなく直接当たればそれなりのダメージを受けることは必至であり、それなりに「器用な」立ち回りが要求されることになる。
「まず一本!!」
しかし、そこは旧五大貴族の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ隊長だけのことはあり、アビレスの攻撃を捌きつつ太い触手の一本を焼き切ることに成功する。いくら手数が多い相手であっても、その手数の源を削り落としていけば最終的には自分の側に天秤が傾くことだろう。
――だが、事は一心の目論見通りには運ばなかった。切り落とした傷跡からは新たな触手が瞬く間に生え、元の姿を取り戻す。
「おいおいおい、破面の癖に再生できんのかよ!」
本来、破面はその進化に際して虚が持っていた超速再生能力を失うのが普通であり、破面としての能力を持つ一方で再生能力を喪っていないのだとすればそれは相当な脅威である。更に悪いことは重なるもので、切り落とした触手の方も別個の虚として独立して動き始め――威力こそ本体のそれには及ばないものの――虚閃を一心に向かって撃ち出す。いくら威力が低いとは言え無視できるものでもなく、更に面倒を背負い込むことになった。
「ほうら、頭が足りぬからそうなるのだ。考えもなしに戦っているようでは、霊圧以前の問題だな」
「うるせえよ」
そう言いながら新しく生まれた虚を切り捨てる。さほどの脅威になるものではないとはいえ、切り落とした破片が「砲台」として機能するとなると更に面倒なことになるのは確かだ。斬術に頼らない――鬼道を中心とした――戦闘というのもできないわけではないが、少し作戦の組み立てが必要だ、と改めて考え直す。
「切り落とさなければ大丈夫だと思ったか?」
少し距離を取って逡巡していると、アビレスはそう言って自ら4本の触手を切り離した。
当然その触手はそれぞれに変形し虚の個体として活動を始めると同時に、アビレスの身体には新しい触手が生えてくる。
「……そんな手もあんのかよ」
「さあどうする?足りない頭を絞るのは勝手だが、それなら私は好きにさせてもらうぞ」
――処方法をおちおち考えてもいられない、というのは非常に厄介な事態だ。なにより、この小型の虚はもちろん自身の戦闘においても面倒事であるのだが、この調子で量産されてしまえば「他」に行かれる可能性があるという点も見過ごせない。アビレスとやらが一体何を目的に尸魂界までやってきたのかは分からないが、この「分体」を利用してどこかに工作を仕掛けられる可能性もある以上取り逃すわけにもいかない。つくづくやりにくい相手である。
「仕方ねえ、後のことは全部片付いてから考えっか」
覚悟を決めよう。自身の身体はともかく周囲の建物はそれなりに大変なことになるだろうが、そうは言ってもここでこの敵を倒し損ねるよりは遥かにマシだ。修繕費で手持ちが厳しくなったら最悪本家の世話になれば済む話である。
「そんなに言うなら見せてやるよ。お待ちかね、これが俺の『策』だ!」
「卍解!!