Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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第七章: Fateful End (2) ― Engulfing Flames

 

一心の卍解に呼応し、剡月の刀身自体、そして一心の死覇装は――炎をその周囲に「纏う」のではなく――高温の炎そのものへと変化していく。炎から放射される物理的な熱量は当然のこととして、それ以上にそこから放たれる霊圧は、元より上級貴族の中でも頭ひとつ抜けていたところ卍解によって更に圧倒的なものとなり、天地を焦がさんばかりのものとなっていた。そして、一心はその切っ先を地面に向けて更に霊圧を放つ。

烈焔陣(れつえんじん)!!」

剡月の切っ先を地面に突き立ててそう叫ぶと、ほんの一瞬だけその量を増した一心の霊圧が彼を中心に円状に拡散する。半径数m先までその「波動」が到達すると、その境界線上にも「炎の壁」が出現した。ちょうどその場を離れどこかに向かおうとしていたアビレスの「分体」はその壁へと飛び込む結果となり、まさに飛んで火に入るなんとやら、といった(てい)であっという間に燃え尽きてしまった。

「これで他所に悪さはできねえだろ!」

後顧の憂いが消えた一心は瞬歩を駆使し「分体」を一体、また一体と切り捨てていく。刀身が炎そのものになったからといって遠距離戦闘ができるようになったわけではないが、卍解の霊圧上昇による膂力の充実は速力も破壊力も当然に強化しており、大虚ですらないような有象無象では反応することすらできない次元である。

「これが卍解か……!」

つい先程まで上から目線で余裕を見せていたアビレスも、状況が明らかに悪くなったことを自覚する。ただでさえ「分体」を使った戦いという自らの主戦法が一つ封じられつつあるのに、加えてその斬魄刀が放つ炎はあちらこちらへとどんどん拡大しているのだ。剡月の刀身の軌跡上のみに限らず一心自身が通った場所にさえ散発的に炎が灯っている状況であり、それらの炎にどの程度の殺傷力があるかはわからないとはいえ侮ってかかれる状況ではない。一心は全身が炎に包まれているというのに平然としているが、自分は当然のごとくその炎に少しずつ身を灼かれており、いかに破面の鋼皮と言えどその防御力はどんどんと失われている。いっそこの炎の壁を強引にでも突破して逃げようかという気さえしてくるが、「分体」を斬って回っている一心を目で追うのが精一杯の現状では逃げ切ることも難しいだろう。

「諦めろ、ここまでだよ」

一方顔色一つ変えずに剣を振るう一心だったが、その卍解は――他の卍解もそうであるように――決してリスクのないものではない。その身体を包む死覇装すべてが炎そのものになっているということは、当然その熱は一心自身がもっとも間近で受けているということであり、それによって自身が灼かれていないのは単に自身の霊圧でその身を守っているからに他ならない。それは即ち、霊圧を消耗した状況でこの力を使えば当然自らの炎で自らを灼くことになり、当然それはさらなる霊圧の低下を招くという点で加速度的に不利になるということを意味している。一心には――元々性格的にそうした方向性が強いこともあるが――短期決戦以外の選択肢はほぼないと言えた。一応相手に気取られぬように平静を装ってはいるものの、もし相手が冷静になって持久戦を選択肢てくればなかなかに厄介なことになるだろう。

一心は腹を括り、瞬歩でアビレスとの距離を一気に詰め、斬魄刀を大上段から振り下ろす。

その勝負の一撃をアビレスは4本の触手すべてを使って押し留めようとするが、卍解の霊圧と膂力に対抗することは難しく、少しずつ刃が触手へと食い込んでいく。

斂焔(れんえん)轟嵐(ごうらん)!!!」

そこで一心が叫ぶと、「炎の壁」とその内側で燃えていた炎すべてが刀身へと集まり、そこを中心として渦を巻き始めていく。そのまま渦はどんどんと収束していき、一心とアビレスの双方が業火に包まれた。

そして数瞬ののち――限界まで収束した炎が一気に弾けると、同時にアビレスの身体も爆散した。

 

「あー……やっぱり結構被害出てんなぁ……」

周囲を見回した一心は、周辺の建造物が――多くは自身の卍解の炎によって――損傷している様子が視界に入り嘆息する。現世・尸魂界問わず戦闘による現地の被害は隊の予算で修復するという規定にはなっているものの、隊長格の発生させた被害についてはある程度本人が私費を投じるのが通例であり、一心は後のことに頭を痛めるのであった。

 

その後、自身の部下の様子を見るため色々歩きまわっていると見知った霊圧を感じ取ったため、ふとそちらの方へと足を向けた。

「岩鷲、お前まだ逃げてなかったのか」

阿散井苺花の手当てなどで更に時間を取ってしまい、まだ移動の途にあった岩鷲たちである。

「ん……?竜弦、お前何してんだこんなところで」

そしてその一団の中に、現世時代の腐れ縁の姿を見つけた。

「黒崎……!」

「悪ィな、今はこっち戻って志波姓に戻ってんだ」

「え、石田叔父貴の知り合いなのかよ!」

「……現世にいた頃の、な」

ずれた眼鏡を直しながら竜弦がそう応じる。

「ほら、こっちに何度か来てる雨竜君の親父だよ」

流石四大貴族の跡取りだけあり、そのあたりの事情には詳しい橙璃がわかりやすい表現で補足する。

「あー……だからどっかで見たような気がしたのか」

「そういえば、尸魂界では貴族の出身だったとか言っていたな。お前もこっちに戻ってきていたのか」

他隊の隊長とはいえ、現世時代はむしろ――定命の人間の仕事として――世話していた側の立場だったことから、一心に対して特段へりくだることもなくそう言う。幸いこの場にいる他の若い隊士たちも黒崎一護を中心とした人間関係はある程度理解しており、本来そうした席次などの秩序を守るべき立場の席官である苺花とて、そこに疑問を挟もうとはしない。

「いい加減向こうで人間のフリして暮らし続けるのにも無理もあったしな。というかお前こそ死神になってるなんて一体どういう風の吹き回しなんだ」

一心は当然の疑問を口にする。現世で付き合いのあった頃から石田竜弦は死神を嫌っており、それは先の大戦を経て多少マイルドになったとはいえ、自身が死覇装に袖を通すほどに軟化しているというのは予想外のことであった。

「流魂街で世話になった人に勧められて、な。お前の隊に入らずに済んでよかったよ」

三番隊の隊長交代劇はちょうど竜弦達が配属先を決める前後の話であり、彼らが聞いていた情報の上では「隊長が交代する見込み」というところまでである。一心も護廷隊に復帰すると同時に隊長に就任したため「隊士として」霊術院生と関わることは一切なかったため、こうして偶然遭遇でもしていなければ――それこそ竜弦がある程度の地位に就くまで――再会は相当先のことになっていただろう。

「で、隊長様はこんなところで油を売っていて良いのか」

「お前も感じるだろ、当面の峠は越したって」

確かに、一頃あちらこちらで感じられていた霊圧の衝突はほとんどが収束しており、それは即ちこの戦いも一旦は終わりに向かっていることを意味していた。尸魂界が平穏を取り戻すのもそう遠くない話だろう。

 

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