Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
卍解した鹿良澤三姫の力は、それまで拮抗していた戦闘の天秤を一気に傾けるほどのものであった。破面の帰刃と死神の卍解は本質的に近しいものと言われるが、それは即ち両者がそこに至っているのであれば――能力の相性という要素はあるにせよ――「元々の霊圧・戦闘能力」の差が如実に現れることになる。大鬼道長は言うまでもなく、制度の差こそあれ護廷十三隊各隊の隊長に匹敵する、あるいは部分的にはそれを凌駕する程の戦闘能力の持ち主であり、並の大虚が破面化したところでそこに及ぶものではなかった。
鹿良澤の斬魄刀、虹霓泡影の刀身は卍解に伴い実体から鬼道そのものへと変化し、また鹿良澤自身の体も高濃度の鬼道に覆われたことによって七色に光り輝いている。その纏った鬼道は単純にそのまま放出すること自体が虚閃に匹敵する程の威力の攻撃となり、また一方で虚閃のような単純な霊圧による攻撃に対する防壁としても働く攻防一体の能力であり、その奇抜な容貌の対価としては十分なものであった。加えて言えば、先程まで不発になっていた低級鬼道も卍解の霊圧上昇によって強力になったためか無力化されなくなっており、手数で相手を完全に圧倒できていた。
ほぼ予備動作なく剣筋に合わせて展開される斬魄刀由来の鬼道も、詠唱破棄で断続的に繰り出される低級鬼道も、それぞれ一発一発が並の死神が全霊力をつぎ込んで放つ七、八十番台レベルの破壊力を備えていた。それは、敵からしてみればいくら
「くそッ……!なんという力だ…!」
先程までの余裕綽々といった雰囲気は消え去り、必死そのものといった様子で攻撃に対処する。幸い彼が「依頼主」から受け取った空間を歪める力は遠距離戦闘との相性が良く、そのすべてを防御に回せばなんとか鬼道を逸らすことはできていたが、一方全力で回避を続けているということは反撃の糸口を掴むこともできないということでもある。
ただ、自身の能力も霊力を使うものであり決して無限ではないが、それは相手にも同じこと言えるはずだ。いくら鬼道の威力は使い手の技術によってつぎ込む霊力の量と威力の比を改善することができるとはいえ、あれだけの威力を持つ鬼道を乱発しているということは決してそれを際限なく続けられるものではないだろう。先程まではさっさと終わらせて虚圏に帰ろうと思っていたが、その甘い考えを捨てて持久戦を覚悟した。
「対抗策が見つからないからって、我慢比べなら勝機があるとでも?」
だが、その考えは当然の如く鹿良澤に見破られる。鬼道衆に来て以降はあまり前線に出ることはなかったものの、以前護廷隊に所属していた頃は見た目に似合わず武闘派扱いされており、その時代に得た戦闘経験は今も彼女の血肉になっていた。
「なるほど、確かに君のその力は私の斬魄刀よりは大分燃費が良さそうだね。……ただ、燃費の差が戦闘力の差だと思ったら大違いさ」
膨大な量の鬼道を相手に叩き込んだことで怒りを解消したのか卍解前の鷹揚な雰囲気を大分取り戻しつつ、先程構築していた鬼道の結界に斬魄刀を突き立てる。
「確かに我慢比べなら君の方が有利かも知れないけど、その選択権は君にないんだよ!」
鹿良澤が斬魄刀に霊力を込めると、それに応じて刀身と鹿良澤が纏っている鬼道が一層激しく発光し始める。
「虹霓・
その瞬間、鹿良澤が張り巡らせていた結界もまた光を放ち、そこから無数の鬼道が放たれた。一発一発が並の虚であれば一撃で葬り去るほどの威力を持った、多種多様な属性の鬼道がそれぞれに敵へと殺到していく。先程の散発的な攻撃をなんとか防ぎ、あるいは回避していたレベルの虚にとっては当然この物量に対処できるはずもない。対応し損ねた鬼道が一発、また一発と虚に直撃するたびにその霊体が破壊されていった。
「畜生……!」
敵の虚の消滅を見届けて、鹿良澤は卍解を解き納刀する。先の大戦でさえ使う機会のなかった卍解は実に百年以上ぶりのものであり内心不安もあったが、ひとまず強大な敵を無事打ち倒すことに成功し安堵したというのが率直なところであった。
「お疲れ様でした」
詰所の執務室に戻った彼女に、待機させていた観音寺が声をかけてきた。
「大丈夫ですか……?」
ほとんど傷を負ってはいないものの、足元も覚束ない様子で顔色も相当悪くなっていた上司の姿を見て、思わず素で気遣いの言葉を投げかけてしまう。
「ああ、大丈夫さ。慣れないことをすると大分疲れるんだよ」
実際のところ、彼女の斬魄刀の力は――敵の虚が看破した通り――決して燃費の良いものではなく、最後の大技に至っては残る霊圧の殆どをつぎ込むレベルのものであった。その結果として――たとえ相手からの攻撃をほとんど受けていなかったとしても――もはやほとんど戦えない程にまで消耗しているのであった。
「まあ、当面の危機は脱したんじゃないかな。もう瀞霊廷内に虚の霊圧はなさそうだし」
「あの虚は一体……?」
「私にもよくわからないんだけどね。ただ、うちにはそれこそ尸魂界黎明期の頃から結構色々なものが保管されててね。その中の一つを狙ってきてたっぽいんだよ」
「そんな凄いものなんですか」
「んー……『
自身の調べた内容からだけでは理解できないことに首を傾げる。襲来した虚から多少なりとも情報を得られるかと期待して前線に出てはみたものの空振りに終わっており、内心では不満遣る方なし、といったところだ。
「まあ、そこら辺は後でもっと詳しい人に聞くしかないか。……そういえば、