Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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幕間五: Spectacular Showdown

 

人と獣を隔つのは

その牙の向かう先

 

神と人を隔つのは

その眼が見据える先

 

 


 

「君の目から見て、『アレ』はどう映るかい」

【無間】。

尸魂界の歴史に名を残すほどの罪人で、殺すに殺せない程の者が収監される最深奥部の監獄に、久々に声が響いた。

本来灯りもなければ人が声を発することさえない場だが、ここに収監されるような者はたとえ拘束されていようがその思考や会話を妨げられる程ではなく、彼らがその気になればこうして声が交わされることは稀にある。

……とはいえ、昨今無間の住人で他者と積極的にコミュニケーションを取ろうとする者は決して多くなく、他人に声をかけるのは藍染惣右介くらいなのだが。

「何故私に聞く」

声をかけられたのは八代目剣八こと痣城双也。

「だって『アレ』は君の後輩じゃないか」

「鬼巖城のような者がその名跡を継いだ時点で、私にとってその名への思い入れはないよ」

「……そうか」

物腰自体は緩やかとはいえ棘のある表現で返してきた痣城に対し、藍染は少し言葉を切る。

「――私が剣を交えた限りでは、だが」

藍染の沈黙に、痣城が言葉で答える。

「私や貴様とはまた違った形で()を超えた者ではあるのだろう。貴様と違い、私は理屈の世界に興味はないがな」

「そうか、君はそういうタイプだったな」

「私にとって重要なのは、その『力』が尸魂界の役に立つかどうかであって、その『力』がどういう質のものであるかとか、どういう来歴であるかなどは些事に過ぎないのだよ」

「つまらないな。他の者が壁を超えたなら、その手段を自らの糧にできるとは考えないのか?」

「皆が皆、自身と同じ目線に立てると思うのは貴様の悪癖だよ、藍染惣右介。その視座に立てる者などそうはいない――というよりも、そもそも大半の者にとってその視座は存在すら認識できやしない。その程度のことはわかっているだろう?」

「凡庸な者ならそうだろうが、私は君の話をしているんだよ」

「それこそ的外れというものだ。私自身があんな異常な力から学び取れるものなどありはしないし、それは他の大半の死神にとっても同様だよ。君のような異常者しか役立てられないようなものなど、私にとっては無価値に等しいのだ」

 


 

多くの護廷隊士が誤解していることだが、十一番隊隊長更木剣八は決してよく言われるような「獣」ではない。無論戦闘狂的な側面が強いのは間違いなく、自ら剣を振るうことが無上の歓びであることは事実なのだが、一方で自身のみならず部下や他隊士の得手不得手はそれなりに把握しているし、単に自身の戦闘における戦術的な判断のみならず、それなりに広い戦略的な視野さえ――少なくとも「隊長」という地位に最低限見合う程度には――持ち合わせているのだ。また粗野な言動が目立ちはするものの情や矜持といったものにも彼なりの理解を示しているし、日常生活においては時としてそこらの男性隊士よりも「文明的な」行いをしている様子が見られている彼は、決して敵と見るやいなや我を忘れて斬りかかるような男では、ない。

そんな更木剣八にとって、この戦いは歓びと寂寥感の両方を覚えるものであった。

相手の霊圧は久々に自身の卍解に見合う程の強力なものであり、それはもちろん彼の渇きを癒すものではあった。だが一方で、その剣筋に何も()()()いなかったことが何よりも不満なのだ。以前のシエン・グランツのそれには――たとえ破滅的な衝動が根底にあろうとも――彼の欲求や考えというものが乗っていたが、今対峙している虚のそれには何も感じられない。言ってしまえば、たとえ道具を握り言葉を遣っていたとしても、もはや獣とほとんど変わらないのだ。

「おい……手前は『どっち』なんだ?」

「藪から棒ニ、一体何の話ダ」

突如問いかけてきた更木に、虚は怪訝そうな様子で答える。

「さっき2人がくっついてたろ。手前の中身はどっちなのか、って聞いてんだよ」

「あァ成ル程……言うまでもなイ、あノ子供は俺が食っタんだよ」

「……そうかい」

もちろん更木も想定していた答えだったが、改めてそれを聞いた彼の目の、爛々とした輝きに影が差した。元々シエン・グランツとは以前の一件以降の因縁があり、期せずして今回彼と刃を交えることになったことには更木もまた少なからず高揚していたのは事実である。それが結局この虚の能力か何かによって取り込まれてしまい、もはや単なる霊圧を増す内臓か何かに成り果ててしまったというのであれば、それは決して愉快ではないことだ。

「つまんねえな」

目に見えてテンションの下がった更木はそのまま卍解を解く。赤黒く変色していた肌は元々の人間らしいそれに戻り、鬼のような風貌もまた元に戻っていく。

だが、その研ぎ澄まされた膨大な霊圧は相変わらず致命的な水準を保っていた。勿論卍解を解いたことで絶対的な霊圧自体は低下しているのだが、その影響は膂力や防禦の方に濃く出ており斬魄刀の刃先で鈍い輝きを放つその攻撃力は――少なくとも並大抵の大虚を容易く切り刻める程度には――依然残されていたのだ。

一方対峙している大虚の側からしてみれば、突如相手が卍解を解いたことで多少なりとも気が緩んだのは事実だろう。常識的に考えれば――相手を斃す寸前でもない限り――戦闘中に自らその力を減じるのは合理性を欠く行動であり、つまるところ傍から見れば「解いた」のではなく「解けた」、即ち維持できる時間に制約があったとかそういう事情によるものだと考えても無理もない話であった。

だが、その油断は致命的な結果をもたらす。

「チッ……緩めやがって」

次の瞬間、そこには両断された虚の姿があった。

更木剣八が始解に戻したのは「愉しんで戦う」ことを辞めたからに他ならない。卍解により破壊力が増すのは事実だが本質的には「自身の魂魄の容貌(かたち)を取り戻す」ことであり、その姿で戦うことは更木剣八の奥にある戦闘狂としての側面を満たすものであった。一方の始解は彼の理性の側面によって保たれている力であり、そこに戻すということは言わば「職務として敵を斬る」ことに集中したということを意味していたのだ。

勿論それだけでは――多少形勢が傾きつつあったとはいえ――卍解状態の更木とやりあっていた大虚が始解で両断される理由には到底なり得ない。結局、勝負を分けたのは「集中力」だったということになるだろうか。直前まで押されていた卍解が消えたことでありもしない優位に目が眩み慢心したことが命取りだったのだ。

 

「お疲れ様っス、更木サン」

更木が斬魄刀を鞘に納め乱れた死覇装を整えていると、物陰から浦原喜助が声をかけてきた。

「つまんねえ幕引きだったぜ。……手前、そこに居るのは……どっかで会ったか?」

浦原の隣にいる破面を見て、古い記憶を辿る。どこかで見たような顔ではあるのだが、如何せん記憶が定かではない。まあ破面である以上恐らくは藍染の一件の関係者だろうし、今の霊圧からしても自分とやり合った相手などではないはずだが。

「まあ気にしなくていいっスよ」

「そうかい」

浦原喜助がそう判断しているなら、自分がそこに口を挟むことはない。自身はあくまで尸魂界の「矛」であり、それ以外のところはそれに長けた人間が考えれば良いのだ。

「さあ帰りますよ、更木サン」

「あァ……?もう終わったのか?」

「ええ。敵の親玉は若い子達の活躍で片付きました」

「なンだ、取られちまったか。親玉斬るために早く片付けたってのによ」

「……言うほど残念がってないでしょ?」

「――抜かせ」

 




次週より、最終章に入ります。
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