Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
ちょっと思い直してサブタイトルを振り直しました。
最近忙しくて少し筆が止まってますが、月2~3回コンスタントに書けるよう頑張ります。
「おう、久しぶり」
尸魂界に戻った黒崎一心が最初に向かったのは、本家筋である志波空鶴の屋敷だった。
「叔父貴じゃねえか、どうしたんだ?」
「ようやくこっちに帰ってきたんだよ」
「もうあっちはいいのか?」
「これ以上長居してたら不審がられちまうわ」
空鶴はそれもそうだ、と哄笑する。
「一護は元気か?」
「元気過ぎて困っちまわぁ」
“死神代行”黒崎一護も尸魂界には多少顔を出していたが、その際にも基本的に瀞霊廷の方にしか顔を出さないため、空鶴とも長いこと会っていない。実際血縁上では従姉弟になるわけだが、「親族」として顔を合わせるのもなかなか気恥ずかしいという感もあるだろう。
「あいつももういい年だろ、確か」
「多分今こっち来たら見た目逆転してるぜ」
言うまでもなく空鶴も一心も貴族の血筋であり、その霊的資質は極めて高い。必然的に、たかが50年程度でそこまで大きく歳を取ることがない以上、人間の速度で老いていく黒崎一護と比べると、恐らく外見的な年齢はもはや逆転していることだろう。実際、現世にいた頃は浦原印のアヤシイ義骸の機能で多少「老けた」フリをしていたものの、やはり同世代という設定であったはずの石田竜弦と比べるとやはり異様なほどに若いというのが両者を知る地元の人々の感想であった。
「姉貴ー、作業終わったぜー」
そうこうしているうちに、空鶴の弟岩鷲が入ってきた。
「おう岩鷲、久しぶり」
「お、叔父貴!ご無沙汰してます!!」
家格としては岩鷲は本家筋、一心は分家筋であるものの、姉が長幼の序に厳しい育て方をしたせいか、100年以上生きた今でさえ一心に対して敬語が抜けない岩鷲である。
「っていうか叔父貴よ、こっちで油売ってていいのか?」
もっともな問いである。
止むに止まれぬ事情があったとはいえ、一心は仮にも元十番隊隊長、事情が解決したのであれば本来すぐにでも瀞霊廷に戻り沙汰を受けるべき立場である。そしてなにより、志波家が五大貴族の一角を追われた最後のトドメは彼の出奔であり、現当主である空鶴がその件について問うのはあたりまえだろう。
「なあに、どうせそのうちに向こうから迎えに来るさ」
「それもそうだな。じゃあ、それまで暇な間岩鷲を鍛え直してやってくれ」
「俺!?」
そして相変わらず姉の思いつきに振り回される弟であった。
数週間後。
「まあ、こんなところじゃねえかな」
「おう、順調か?」
「とりあえずこれなら十分特進学級行けるだろ」
「なんの話っすか?」
「ん、おめえ霊術院受けるんだろ? てっきり来月の入試の準備してるんだと思ってたんだけどな」
「そういやそんな手もあったな。よし、岩鷲行って来い!」
「だから何の話だよ!!」
一心はてっきり誤解していたが、そもそも岩鷲は元々「自称・西流魂街一の死神嫌い」と言うほど死神という存在を忌み嫌っていた。その原因となった兄の死についての真相を知り、既に心のわだかまり自体は消えているが、それでも自身が死神になるという選択肢はまるで考えたことすらなかったのだ。
「そうか、俺が死神か……」
「空鶴さん、死神の客が来てるよ」
修行場に顔を出したのは月島秀九郎、かつて現世で黒崎一護と対立したものの、最後ユーハバッハとの戦いでは逆に切り札となった男である。
「この霊圧…懐かしいな」
改めて意識を向けてみて、その主のことを思い出す一心。
が。呑気に感傷に浸る間もなく、そこに霊圧の主が入ってくる。
「おいヒゲ、どれだけ待たせんだよ」
そう言って地下の修練場に入ってきたのは、千歳緑の裏地の隊首羽織を纏う、銀髪の少年だ。
日番谷冬獅郎。神童と呼ばれ、史上最年少で隊長になった彼は、ここ数十年で多少背が伸びたように見える。
「技術開発局からこっち来たって聞いてからもう一ヶ月以上、何油売ってやがるんだ」
「おぉ冬獅郎、ずいぶん背が伸びたな」
「うるせえ、話を逸らすな」
―とはいえ、定命の世界ほどのスピードで成長するわけではなく、結局少年止まりの外見であることを一番気にしているのは彼自身である。
「いやー、俺の後は優秀な冬獅郎君が継いだし、もう総隊長も代替わりしてるからいいかなって」
「なに寝言言ってんだ」
繰り返すようだが、一心は出奔した当時十番隊隊長の座にあった。行方不明ということで籍が一旦消えているとはいえ、まずは総隊長に報告に馳せ参じるべき身であり、親戚の家で呑気に油を売っていて良い道理などない。
「まあ、そのうちお前が来ると思ってたからな」
「ったく……。ほらさっさと準備しろ、行くぞ」