Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
「それは私の方から説明しよう」
綱彌代家がほぼ壊滅した現在、事実上四大貴族の筆頭である朽木家当主が声を上げる。
「端緒は先の大戦ということになるだろう。元々護廷隊にあった私的な交流会、『十字組』は現世で滅却師の力を持ちながら死して流魂街に辿り着き、そこから霊術院を経て死神となった者によるものであった。本来は単なる技術交流程度のための組織であったようだが、大戦以後瀞霊廷内において『滅却師』という存在に対する印象が目に見えて悪化したことから、一部のメンバーがその名誉回復を企図した、というのが今回の一件の骨子である」
隠密機動・刑軍を有する二番隊とともに瀞霊廷内の規律維持を主任務の一つとする六番隊の隊長として――自らも離反者一名の捕縛に携わったこともあり――事件の全容解明に関与していた白哉は改めてあらましを説明する。
「太古の虚、カムサ・スカルマリに関する情報は以前から断片的に伝承されていたものだったが、時灘の事件の影響で綱彌代家の書庫の警備が緩んだ結果として尸魂界の『公式な』記録が漏洩。十字組は滅却師の名誉回復にそれを利用することを企図した」
「そのために目をつけたのが『虚白の箍』じゃの」
“天賜兵装番”四楓院家の名代、夜一が言葉を継ぐ。たとえ天賜兵装の括りに名を連ねていなくとも、太古の霊子兵装ともなれば四楓院家も当然その存在については知らぬはずもない。
「あれはかつて霊王を中心とした現在の秩序から離反した存在――言ってしまえば
かつて霊王を贄として三界の秩序を確立させた五大貴族は――最後までその選択に異を唱えていた志波家を筆頭に――内外から当然に様々な反発に直面することとなった。最終的には五大貴族を中心とした貴族による統治によって世界の形が決まったが、特に霊王に近かった者を筆頭に尸魂界そのものから離反した者もおり、その一部がその後滅却師という血族へと繋がったのだ。
「喜助曰く、この兵装はカムサ・スカルマリの能力に対しても有効……というより致命的に働くものだったらしい。無論我々が遣うだけでもその厄介な空間歪曲能力を抑えることはできたじゃろうが、本来の力を発揮させて作り出した擬似的な叫谷ではその空間歪曲能力すら働かなくなるようでな。事実上、かの虚を完全に封印できるわけじゃ。『通常の手段では対処が難しそうな難敵』と、『自分達にしか扱えない特効薬』の存在に至った愚か者が何を考えるかは……まあ、改めて言葉にする必要はなかろうな」
「幸運だったのは、当時よりボクらの戦力が遥かに高まっていたことだね。かつてご先祖様が『対処できなかった敵』として記録してくれいていた虚だったとして、ボクらはもうそれより強かった虚達に対処してきてるんだ」
京楽が今回の騒動をそう総括する。実際カムサはバラガン・ルイゼンバーンにさえ及ばず敗走した虚であるが、現在の尸魂界の戦力はそのバラガンのみならず同格――だったと本人は主張している――已己巳己巴も、それらより格上だったコヨーテ・スタークをも下してきているのだ。
「とまあ、おさらいはこのくらいにしましょうか。お待ちかねの
そう言うと、改めて議席にいる貴族の方へと目を遣る。
「改めてご説明いただけますか、お偉方」
『瀞霊廷から今一度、滅却師の因子を排除するように』
四十六室の一員がそう告げた途端、三人の空気が剣呑そのものになる。
『今回の一件でも改めて明らかになっただろう、滅却師というのは我々尸魂界からすれば災厄の種以外の何物でもない。ことそれが死神の力まで持っているともなれば今回のような事態はまた起きないとも限らない以上、少なくともそんな者に死神の力を与えてはならない』
『幸い技術開発局の報告ではさほどの数はいないというからな。洗い出しもその後の影響もさほどの問題ではなかろう』
「だ、そうだよ」
京楽が他の三人の顔を見回す。
「あんた方、ご自分が今何を言っているのか本気でわかってるんですかい?」
『無論だ』
そうして改めて確認するが、声の主は即答する。
「黒崎一護筆頭に、先の大戦で貢献のあった者やその縁者がそこに該当するってわかってますか、って話ですよ」
京楽は更に言葉を改めて翻意を促す。
「
『総隊長、君の意見は聞いていないよ。いつから護廷総隊長は四十六室の決定に背けるほど偉くなったんだい?』
「……そうか。ならば兄のその席を召し上げてやろうか。我々正一位の者が
護廷隊の現役隊長格の大半は多かれ少なかれ黒崎一護に大して恩義を感じているが、特に過去妹を巻き込んだ一件で自ら共々「救われた」朽木白哉にとっては自らの行動指針の一つにするほどの存在である。その彼にとって、こんな「命令」は当然承服できるものではない。
「まあまあ、落ち着きなよ」
あまりに空気が張り詰めてしまったためか、京楽が仲裁に入る。
「むしろこの話で一番言うべきことがあるのは君じゃないかな、黒崎一護の父にして先の大戦の功労者たる滅却師の友人でもある志波隊長?」
「なるほど、そういうことですか」
志波一心はここに来て、自らが単なる「元五大貴族の当主の代理人」として呼ばれたのではないことを知る。
「…まあ一護もそのうちこっち来るでしょうけど、あいつは自分にかかる火の粉くらいどうとでもする奴でしょうし心配はしねえっすよ。まあ竜弦んとこの親子もそうでしょう」
話を振られた一心は、そうして息子や友人への信頼をいの一番に口にする。
「ですがね。その振り払った火の粉がどうなるかだって俺にはわかんねえっすよ。あんたらが何をしようが
『……!』
本来の中央四十六室と護廷隊の力関係を考えれば、この場は四十六室から総隊長への一方的な「命令」の場であったはずだが、そこに朽木家と四楓院家、そして志波家の隊長格相当の者が並んだことによって状況が一変した。先程の白哉の言の通り、結局四十六室に席を持つ貴族はあくまで家格としては四大貴族より――大半の「賢者」に至っては総隊長の京楽家など護廷隊の隊長格・上位席官に席を持つ一部の上級貴族より――格下であり、この場の対立構造が尸魂界の貴族における文官と武官の全面対立になりかねない状況である。
「まあ、儂らとて事を荒立てたいわけではないんじゃ。そこで、少し提案があるのじゃが……」