Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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終章: Right fathers in the right places (5) ― Dwell on the Past

「一心、ご苦労じゃったな」

「せめて事前に話しておいてくださいよ……」

四十六室の議場を離れ緊張が解けた一心は思わず夜一に愚痴をこぼす。

「済まないねぇ。ボクとしてもちゃんと説明しておきたかったんだけど、時間なくてね」

「そちらのお二人には説明してたのに、ですか」

少し拗ねたような顔をしてそう返す。自らも護廷隊の隊長という立場ではあるものの、残りの3人が自らより遥かに年上かつ格上ということもあり多少の「甘え」が見える。

「ほら、一心クン最近事後処理で忙しかったじゃない」

「ま、そういうことじゃ。儂はお前たち隊長と違って暇人じゃからの」

「ったくもう……」

 

「足労、感謝する」

そうして四人が話し込んでいるところに、少女が現れた。

「やはり『仕込み』だったか」

「久しぶりじゃな、白哉殿」

やってきたのは阿万門ナユラ、中央四十六室に席を持つ上級貴族の一員にして、幼い外見とは裏腹にその意思決定に相当な影響力を持つ者の一人である。

「根回しだけで片が付くほど物分りの良い者ばかりなら苦労はないのだが、如何せんまだまだ頭の固い連中も少なくいないのだ。そういう現実の見えていない年寄り共の考えを変えさせようとするなら、一番早いのは『格』と『凄み』ということなのじゃよ」

「ま、そういうところじゃ両隊長は流石だよね。あれで大分空気が冷えたもん」

「あんまいい気はしねえっすね、そういうの」

「むしろ正一位の貴族の地位を放り出して、こういう裏の話に関わろうとしなかったお主達の方にも問題があるのじゃぞ?」

「出奔したまま護廷隊に戻りもしない貴様にそれを言う資格があるのか?四楓院夜一」

「まあまあ。……朽木隊長だってそういう立場でこそできることもあるってのはわかるだろ?」

若い頃から決して仲が良いとは言い難い白哉と夜一がまたしても衝突しかけた様子をみて、慣れた様子で京楽が仲裁に入る。

「手間をかけて済まないとは思っておる。本来であればこんな政治の話は我々文官の家の方で正しい方向に進めねばならないのだが、まだまだ現実に追い付いていない者も残っておるのが現状でな……。あれだけ痛い目に遭ってもまだ理解できないのは本当に救いようがないと思うよ」

「とはいえおかげさまで大分良くなってきたじゃない」

「こうして儂らで()()()()をしている時点で異常といえばそうなんじゃがな」

「それで……さっきの提案、本気ですか?」

一心が話を本筋に戻す。「提案」というのは議場が一種即発状態になった後、夜一が折衷案とばかりに持ち出した話である。

「良い落とし所じゃろて。幸い一護もそう遠くない未来に尸魂界(こちら)にくるじゃろ?」

「まあ、そりゃ俺らの時間感覚からすりゃそんな遠くない将来っすけど……」

「あの石頭共を納得させるためには結局何かしらの()()は必要じゃったからの」

「申し訳ないが、その点では貴殿が一番の適役なのだ。息子や友人をダシにさせるような話なのは重ね重ね申し訳ないのだが」

「まあ俺は迷惑をかけた身だし、きっと空鶴もこうなることをわかって俺を送り込んでるんでしょうからいいっすよ。ただ、一護や石田に関しちゃ責任なんざ持てるはずがねえんすよ」

「そこに関して何か心配している人間は護廷隊(こっち)にはいないのさ。二人とも大戦の英雄だよ?みんな信頼こそあれど疑ってなんてないのさ」

不安を口にする一心を京楽がなだめる。

「むしろ必要だったのは彼らと直接接したことのない中央四十六室(お偉方)を納得させる『物語』でな。五大貴族が一、志波家の保証という名目は彼らにとっては大きいのだ」

「……そんなもんすか」

「まあ、これで志波家も()()()()に戻ってくるのだ。どうせ本家は流魂街から動かぬだろうし、兄にはその分しっかり役目を果たしてもらうぞ」

 


 

四番隊所属の研修生、石田竜弦は一番隊舎地下の第二地下監獄【黒縄】を訪れていた。先日の一連の事件で尸魂界に弓を引いた元滅却師の死神は全てその刑期の確定まで済んでおり、この日はその囚人の一人からの個人的な面会の呼び出しであった。

「来てくれたか、竜弦君」

「やはり貴方でしたか、樹さん」

「久しぶりだね。覚えていてくれて嬉しいよ」

そう、元四番隊第六席・黒崎樹は石田竜弦にとっては義理の父になるはずであった存在である。藍染惣右介が生み出した虚「ホワイト」の一件で真咲との婚約が水に流れたおかげでそうはならなかったものの、元々子供時代から許嫁として扱われていたことで――樹が若くしてなくなるまでの短期間ではあったが――竜弦にとっては二人目の父親のような人だったのだ。

竜弦が研修生として四番隊に配属されてまもなく今回の事件が起きたために直接会話する機会はここが初めてであったが、樹は既に竜弦が研修生として自隊に配属されてきた時にはその存在に気づいており、石田誠弦が竜弦に誘いをかけたのも樹の進言によるものであった。

「一体何があったんですか」

「……誠弦さんはね、『滅却師』という存在の名誉回復をしたかったらしいんだよ。一番気の毒だったのはわざわざ虚圏まで行って捕まった片桐さんかな、あの人なんて僕らより相当年上だったはずなんだけど」

「樹さんは……?」

「僕はそんな立派なものじゃなくてさ、混乱に乗じて個人的な復讐をしようとしただけでね。そんなんだから(第一)じゃなくてこっち(第二)送りになったのさ」

今回の事件に関わった滅却師数名のうち、首謀者の石田誠弦を除けば第二監獄【黒縄】に送られたのは黒崎樹のみであり、残りは第一監獄【等活】であった。樹は取り調べに際しても個人的な事情で今回の事件に加わったことを包み隠さず述べたため――阿近に早々に制圧され実際の被害は引き起こさなかったことを考慮しても――個人的な理由による隊長格暗殺未遂という重罪で処断されるに至ったのだった。

「そうか、そういうことですか……」

「まあ結局失敗しちゃったし、千尋さんにまで迷惑かけてしまったからなぁ……。面目ない限りだよ」

言うまでもなく、取り調べの過程において、あるいはその後の拘禁に至るまで事実上「共犯者」に近い、今回の事件で拘束された元滅却師のそれぞれ同士が言葉を交わす機会があったわけではない。だがそれでも他の者の罪状や量刑に関しては――取り調べやその後の裁判に支障とならない範囲であれば――取り調べや拘留を担当していた二番隊や六番隊の死神達からある程度聞かされており、樹は自らの祖先である千尋が自分を止めるために無理をして捕縛・処罰されたことを知らされていた。

「父の件に関しては……こう言ってしまうと差し支えあるかもしれませんが、それでもそこまでしてくださったことには感謝しています。ただ……その『彼』に関しては、既に私の息子が一度痛い目に遭わせたと、私はそう聞いています」

「――そうか、噂には聞いていたけどやっぱりそうなんだね」

かつて藍染惣右介の企みによって「旅禍」として侵入してきた勢力によって一部の隊長格が負傷した、ということ自体はその後護廷隊内でも広く知られることになっていたが、その詳細については――負傷した当人の名誉のためであったり、あるいはその「旅禍」と事実上共闘する上で支障になるという判断のためであったりして――伏せられており、特に自らそういったことを語ることのない涅マユリが滅却師の手によって重傷を負った、ということは上層部以外にはほとんど知られていなかった。

「真咲は……どうしてるかい?」

「すみません、色々ありまして……。もう亡くなって50年近くになります。事件に巻き込まれた結果もあって、彼女の夫となったのは私ではありませんでした。最期は息子を守って虚に食われたと聞いていますので、尸魂界(こちら)にも来ないでしょう」

「そうか……」

自身が死ぬその時まで気にかけていた娘の人生が、想像以上に波乱万丈であったことを聞いて樹は瞑目する。

「彼女は――幸せだったかい?」

「それは、きっと。幸い彼女の夫は尸魂界(こちら)で責任ある立場にあります。そのうち、彼にもここを訪れるように伝えておきます」

「そうか、それは楽しみだなぁ」

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