Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
「珍しいな、お前の方から声をかけてくるなんて」
「……少し個人的にご相談したいことがありまして」
四十六室での――胃袋に悪い――会合のあと、一心を待っていたのは副官吉良イヅルであった。一心が隊長に着任してからここまでお互いにあまり踏み込んだコミュニケーションを取ってこなかった二人だったが、イヅルが珍しく上司を酒の席に誘ったのだった。
「まあお前とは一度ちゃんと話をしておきたかったしな。丁度良い機会だわ」
一心にとって、尸魂界復帰直後に着任した隊は現世で
「隊長は――こちらではなく
「あー……そういう話?まあもうほぼ過去の話だけどな。ガキ共はみんな独立して、孫もいるような身だ。真咲はとっくに死んでるし、もう『家族がいる』って感覚じゃあねえよ」
「そんなものなんですか」
「お前も貴族の出だからちょっとイメージし辛いだろうけどな。
「そうか、まあ確かに一護さんも一勇さんが一人暮らしするようになって…みたいなことおっしゃってましたね」
「おい、あいつにまで敬語使わなくていいぞ?」
「そうは言っても……隊長のご子息ですし」
「ほんと変なところで真面目だよな、お前。確か一護ともちょいちょい飲んでるんだろ?」
「まあそんなに頻繁ではないですし、大体阿散井君たちと一緒に、って感じですけどね。なんだかんだあの二人、相当仲が良いですから」
「確かにな。んで、相談ってのは何なんだ?」
「自分の家族を持つ、ってどういう感覚なのかな、って。僕自身両親を早くに亡くして一人で生きてきたので、どうも『他人と人生を共有する』っていうのが理解できなくて。まあ、僕は今でこそほとんど普通の死神と変わらない外見ですけど、その実もう死んだ身ですし『人生』って言うのが正しいのかはわからないんですけどね」
「悪ぃな、そっちに関しても俺はちょっと特別な事情であんま力になってやれる気はしねえよ。俺はこっち生まれの死神だが、真咲は現世でちょっと特別な力を持っていただけの人間で、ハナから生きてる時間軸は違ったんだ。藍染の野郎がろくでもねえことをしでかしてなかったらそもそも出会ってすらいねえわけだしな。そういう面じゃ
自らの過去を振り返りつつ、一心は言葉を続ける。
「こういうことを言うと『古い』って言われちまうかも知れねえけどよ。結局自分の代わりにでも『相手に生きて欲しい』って思えるかどうかだと思うんだよな、まずは。少なくとも、俺が自分の恩人だったとかそういう事情抜きにしても真咲と一緒にいたい、って思ったのはそこが最初だったな」
「なるほど……」
「そりゃ特に俺らの世界は女だって戦うもんだけど、それでも男が最後すべきことはそこだろ、ってのが俺の考えでな。まあ……あんまり三番隊らしい考え方じゃねえとは思うんだが」
三番隊の隊花は金盞花、その花言葉は絶望。
隊風として戦いというものにポジティブな向き合い方をする雰囲気ではないため、一心のような言わば「英雄的」な発想は、確かに少し違ってくるかもしれない。
「ま、でも結局んところそこはお前が自分の人生で何を大事にしてるか、って話でもあるんだよ。俺は最終的に自分のやりたいようにしか生きられねえダメ人間だからな。お前みたいな真面目な奴が俺の真似をしたって多分うまくいきゃしねえよ」
一心はそう言って笑う。
「ただ、一つこれだけは言えるぜ」
そうして一通り笑ったあと、ふと真面目な表情に戻って付け加える。
「家族を持つってのは、お前が今思ってるよりもきっと良いもんだぞ」
「で、最近どうなのよ」
副隊長陣の飲み会は宴もたけなわと言ったところで、あとから合流した雛森桃に松本乱菊が絡んでいた。
「鹿良澤さんは……まあちょっといい加減なところもありますけど、いい上司ですよ」
「そんな話してるんじゃないわよ。イヅルと虚圏で一緒だったんでしょ?」
「まぁ……そうですけど……」
「どうなの、久しぶりに
「別に何もないですよ。ちゃんと仕事しただけですから」
「ふーん。じゃあその
「大分怖い相手でしたけど……吉良くんにも助けられて。なんかなし崩しになっちゃってるんですけど、結果的には飛梅持って行ってよかったです」
「そういえば
「あれ、乱菊さんって鹿良澤さんのことご存知なんですか?」
「まあそこまでよく知ってるわけじゃないけど、一頃女性死神協会で関わることもあったから。見かけの割に……なんというか、大分おおらかな人よねぇ」
自分のことを棚に上げて大鬼道長をそう評価する。
「え、あの人そんなポジションだったんですか?!」
「むしろあんたがそれを聞かされてないことにびっくりだわ。あの人、七緒ちゃんの前の八番隊副隊長よ?……って言ってもそうか、その頃知ってるのってアタシと修兵くらいのもんか」
確かに現副隊長陣の――それもこういった集まりに顔を頻繁に出してくるような――死神たちはみな若手ばかりであり、檜佐木はおろか雛森・阿散井(そしてこの場にまだ到着していない吉良)の同期組でさえもはやベテランの側に属するような状況である。
「なるほど……護廷隊にいたとは聞いてましたけど、副隊長だったんですね。当時の八番隊ってことは総隊長の――」
「そ。納得するでしょ?」
何か言外に意図を感じる言葉ではあったが、雛森はその感覚の正体を感じ取れずに話を続ける。
「まあでも、確かに護廷隊から鬼道衆に引き抜かれる、ってことは当然護廷隊にいた頃からそれなりに有名だった、ってことですもんね」
「なーに他人事みたいに言ってるのよ、アンタだって同じ立場でしょ?……で、例の
「ええ、まぁ……」
「やるじゃない」
「でも結局それで吉良くんに迷惑かけちゃって……」
「いいんじゃない?そうやってちゃんと助け合って戦えるの、良いことだと思うわよ。特に強くなればなるほど、アタシたちの力って連携とりづらくなるものじゃない。そこでお互いが支えあえるってのは貴重よ?」
かつて卍解を一時的に失った上司との共闘を苦労の末に見出した乱菊は実感を込めてそう言う。今やまた卓絶した力を誇っている隊長だが、その力を支えるべく彼女自身もまた日々研鑽を積んでいるのだ。