Crosses Have Not Banished Yet 作:zoe.
「そういや、そろそろまた次のインターンが来るんだったか」
霊術院から研修生が配属されてくるのは四半期に一度であり、一組が定着したかと思えばまた次の一組がやってくる。受け入れの実務はどこの隊でも副隊長が主導して体制を作っているため、この会でも定期的に話題になっている。
「今期は…十番隊か。松本、くれぐれも前回みたいなことはやめろよ?」
配属式は各隊持ち回りで担当しており、一角は今回を担当する乱菊に声をかける。
「えー、前回なんかありましたっけ?」
「てめぇ……忘れたとは言わせねえぞ。酒片手に挨拶した挙げ句インターン生に飲ませて回ってたじゃねえか」
「そんなことありましたっけ?まああの子たちも緊張ほぐれて良かったと……」
「ものには限度ってもんがあるだろうが」
「まぁまぁ、もう大分前の話なんですしそのくらいで……。ところで今期は面白いヤツいましたっけ?」
言い合いになりそうな空気を察知した恋次が仲裁に入る。
「そうだよ、それなんだよ。誰だあいつを入れやがったのはよぉ!」
一角が珍しく不満を顕にする。
「誰のことか知りませんけど、霊術院のカリキュラムの話なんでそもそも入れるも入れないもないじゃないっすか。知り合いでも来たんですか?」
「ほら、僕らが現世に行ったことあったじゃない。そこで居候してた家の人に一角がやたら気に入られててね。どうやらその人が
「へー……誰んとこいたんだっけか」
現世の話になり、一護も話に加わってくる。
「ほら、お前の友達の……なんつったっけ、あの二枚目だか三枚目だかよくわかんねえ、コンみたいな性格したやつ」
「あー、ケイゴか。確かにアイツのねーちゃん結構変わった人だからなぁ…」
「ま、僕としては一角が気に入られたおかげでまともな暮らしができてありがたかったんだけど。一角はちょっと苦労してたみたいだね」
弓親は笑いを堪えられない、といった表情で他人事のように語る。
「志乃に聞いたら空座町駐在時代に色々聞かれてこっちのこと教えたとか言っててよ。本当に余計なことしやがって……」
「何十年も経ってるのに追いかけてきてくれるなんて素敵じゃない。いよっ、色男!」
そんな話を乱菊が聞き逃すはずもなく、一角はたっぷりとからかわれることになる。よりにもよって今回の担当が乱菊だというのは、彼にとっては受難の上塗りといったところだろうか。
「それにしても、
ふと一護が疑問を口にする。
しばし飲んでいるうちに外の景色は夕焼けに染まっているが、確かに本来であればとっくに夜の帳が降りていて当然の時間ではある。
「そうか、お前は知らないんだっけか」
「何の話だ?」
「ほら、零番隊の和尚覚えてるだろ?あの人の鬼道の影響だよ」
「なるほど……??」
「大戦のとき、あの人がユーハバッハと戦うってんで……なんつったかな、不転なんとかとかいう鬼道で『100年後の夜を100日分』奪ったらしいんだよ」
「なんだそりゃ、むちゃくちゃだな……」
「とはいえ俺等からたらそんな3ヶ月以上夜が来ねえなんて困るどころの騒ぎじゃなくてな、浦原さんと涅隊長が二人がかりでなんとかしようとしてたんだわ」
先の大戦時、敵の首魁ユーハバッハとの一騎打ちに臨んだ零番隊の頭領兵主部一兵衛が使った「不転太殺陵」は、恋次の説明通り100年後の尸魂界から100日分の夜闇を奪って作った一種の結界に相手を封じようとするものだった。結局十全の力に目覚めたユーハバッハはその技すらも破ったわけだが、破られたからといってその技の代償を免れられるわけではない。
「んで、考えられたのは影響を
「へー……流石浦原さんたち、色々考えんだなぁ」
「それで、実際のところどうだったのかな」
自らの居室である技術開発局の局長室で、十二番隊隊長涅マユリは訪れた総隊長から今回の一件についての質問を受けていた。
「まァ、そうした存在がありうる可能性には気づいていたヨ。ただ、所詮はせいぜい席官レベル、しかも内部で滅却師の力を使っている様子もなく、単に『滅却師の力の残滓を持つ者が定期的に集まっている様子』くらいでいちいち調べている暇は我々にはなくてネ。そもそも、護廷隊内の不穏分子の洗い出しは我々ではなく隠密機動の仕事の筈だヨ」
「そうは言うけどねぇ……彼らに涅隊長みたいな監視網を作る技術があるわけではないし、そこは情報の共有があってもよかったんじゃないのかい?」
「それこそ貴方の仕事でしょう、
「手厳しいねぇ……」
護廷十三隊は各隊長の権限の強さも相まって各隊の縄張り意識が強い縦割り的な組織であり、その結果以前から各隊間の連携がよくないという問題が時として表面化していた。京楽が総隊長に就任して数十年――各隊の隊務を取り仕切る副隊長同士の交流の活性化も相まって――各隊間の風通しは多少なりとも改善しつつはあるが、それでもやはりこうした平時に発生している様々な事象への情報交換が十分に行われているとは言い難い状況であった。
「総隊長殿ならご理解いただけると思いますがネ、こういう監視網なんてのはなるべく表沙汰にするものじゃァ無い。皆が皆貴方のように腹芸に長けているわけじゃない以上、私の方からそれを開示するようなことは致しかねますヨ」
「それを言われちゃうと弱いねぇ……。まあ確かに、もう少しそういうところも考えないといけないね」
京楽は額に手を当てて逡巡する。涅の言う通り、こうした監視網の存在は当然「監視される側」からすれば愉快なものではなく、それを前提とした体制の構築は当然「どこまでその情報を開示するのか」という疑問がついて回ることになる。言うまでもなくそれは総隊長の決断がなければ構築できない仕組みであって、またしても心労の種が増えたことになる。
「それにしても、涅隊長も変わったよね」
「……藪から棒に、何のことかわかりかねますな」
「昔はそうやって他の隊の目とか気にするタイプじゃなかったじゃない。何なら浦原君以上に『我が道を行く』タイプだと思ってたんだけどね」
「私は常に尸魂界を護るために最善を尽くしておりますがネ」
「昔の涅隊長はもっと……なんて言うか『キレてた』気がするんだけど。アレかな?ネムちゃん……って呼んで良いのかな、彼女のためかい?」
「仰る意味がわかりませんな。アレは私の娘で、我が隊の席官ですヨ。それ以上でもそれ以下でもないし、アレの存在で私や我が隊の方向性が変わったりする訳がないでしょう」
涅はいつも通り、不機嫌さを微塵も隠そうとしない。
「まあでもボクはそういうの、好ましく思ってるけどね。結局ボクらだって使命感だけを剣に乗せて戦えるわけじゃないんだ。個人的な執着を持ちすぎるのはもちろん問題だけど、多少なりそういう事情を持って戦うことはむしろ良い影響になると思うよ」
「流石、十三隊の人事を私情で曲げる方は言うことが違いますな」
「……」
思わぬ「反撃」に二の句が継げなくなる。
「まァ、でも先代と違ってそういう『人間臭い』トップの方がやりやすさはありますがネ」