Crosses Have Not Banished Yet   作:zoe.

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終章: Right fathers in the right places (7) ― Tale's End

「おう、久しぶり」

「……ほんと変な感じだよなぁ、これ。久しぶりも何もアンタこっち帰ってきたのつい数ヶ月前じゃねえか」

「数ヶ月つったら赤ん坊だって離乳食食べ始めるだろ」

「相手は50過ぎたオッサンだぞ、おい」

久々に顔を合わせた一心・一護親子はかつて現世にいた頃と変わらない様子の漫才じみたやりとりを交わす。

「二人は元気にしてるか?」

「ああ、相変わらずさ。今回の一件でも夏梨が大活躍してたってひよ里がボヤいてたぜ」

「ま、元気なら何よりだわ。さ、行くぞ」

二人が訪れているのは一番隊舎。隊長として隊首会に参加する一心はもちろんのこと、一護も総隊長の招きで何度も経験のある場所であったが、()()まで足を踏み入れるのは初めてのことであった。

第二地下監獄【黒縄】。

尸魂界の罪人を収監する地下監獄の中では比較的上層の方に位置してはいるが、それでも通常死神の用がある場所ではない。ここに彼らが呼ばれたのは、「三番隊隊長と大戦の英雄」としてではなく、「ある一人の服役囚の縁者」としてであった。

 

「はじめまして、お義父さん……と呼んで良いのでしょうか」

普段の言動からは随分珍しく、かしこまった挨拶をする一心。妻真咲と出会ったときには既に義父である黒崎樹は死去して久しく、こうして「義父に挨拶をする」こと自体が初めての経験である。一方、隣の一護もまた借りてきた猫のようになっている父を面白おかしく思う反面、自身もまた――肉親のいない織姫を妻にした関係上――その経験を経ていないがために茶化す気にもなれないといったところだ。

「そんなかしこまらないでよ。多分そんなに年も変わらないだろう?」

藍染惣右介の陰謀に巻き込まれ現世に滞留することになった時分の一心は確かに尸魂界の基準でいえば相当な若者ではあったが、それでも定命の人間であった真咲よりは実際親子ほどの年の差は十分にあったわけで、樹の言う通りこの二人の年齢差はさほどないか、あるいは一心の方が年上である可能性さえあるだろう。ただ、そうは言っても樹は一心からすれば義父であって、初対面で気安い口を利ける相手ではない。

「忙しいのに来てもらって済まないね」

「いや、こっちの事後処理も大分片がつきましたから。僕の方もいつかご挨拶できたら、って思ってたんで……ちょっと想定してない形ではありますが、お会いできてよかったです」

「こちらこそ、お忙しい隊長さんと……救世の英雄を呼びつける形になってしまって申し訳ないよ。なにぶん今の僕は、時間はあっても自由のない身だからね」

「実際、何があったんですか?俺は今回の一件は一切関わってないんでよくわかってないんですけど……」

過去の経緯、そして何より自身の戦力としての異次元さから――自らのいる現世空座町でさえ――霊的な騒動に極力関わらないように尸魂界から要請されている一護にとって、今回の騒動は半ば対岸の火事のようなものであった。今回総隊長からの招聘によって自身の祖父にあたる者が事件の関係者として捕らえられたことまでは知っていたが、それでも事件の全貌はまるでわかっていない。

「そりゃあ一護は尸魂界からしたらもう気軽に動いてもらっちゃ困る戦力だからなぁ。ま、お前も遠くない将来にこっちにすぐ来るんだからそれまでの短い休みだと思っとけ」

「それが親の言うことか……?」

「こっちに来たら大変だぞー。間違いなくこき使われるから覚悟しとけ」

「ははっ、親子仲が良くて結構だよ。――実際、現世生まれの僕たちからすれば尸魂界っていう『二度目の人生』があるわけだからね。現世での人生は極力現世のために使うべきだと思うよ」

かつて現世で滅却師として死した後、尸魂界で死神としての第二の人生を歩んでいる樹はそう笑いながら言う。

「ま、こうやって君が出張ってくるような用事を作っちゃうようなやつが言っても説得力がないけどね」

「大丈夫ですよ、こいつ現世じゃ割と自由な生活してますから。祖父(じい)さんのツラ見に来るのは孫としちゃ最低限の孝行でしょうよ。――で、結局どういう状況だったんです?」

「二人は宗君とは面識ないんだっけ?」

「宗弦さんですか。かつて一度だけ顔を合わせて挨拶したことはありましたが、ちゃんと話したことはないですね。真咲も独立してからというもの石田の家にはほとんど顔も出していなかったみたいですし」

「……そうか」

「俺は石田――雨竜君からよく話を聞かされたけど、会ったことは無いっすね。同じ町内に住んでたとはいえ、アイツと最初に会ったのは高校入ってからでしたし」

「なるほどね。僕と宗君――石田宗弦は彼が現世に出奔して空座町周辺の滅却師コミュニティに合流して以来、現世で僕が死ぬまでの友人関係だったんだ。その後僕が霊術院を出て死神になってしばらくして、ある誘いを受けたんだ」

「それは――」

「そう、今回の騒動を引き起こした『十字組』さ。元々現世で滅却師として生きていた僕らのような魂魄は、当然尸魂界に来てもそれなりに霊力を持ったままでね。少なくない数が死神として護廷隊に入っていて、そんな僕らの交流会のような場として作られたのが十字組だったんだ。ま、実際にはそういう表向きのまっとうな活動だけじゃなかったんだけど」

樹の述懐は続く。

「で、まあそういう()の活動の方に誘われたときにちょっと気がかりな話を耳にしたんだ。曰く、十二番隊の隊長が現世に残った滅却師で『実験』をしてすり潰している、とね。調べてみたら、宗君もまた彼の手に掛かって無惨に殺された、なんて記録が見つかっちゃったんだよ。元々僕はあまり『滅却師の誇り』なんてものを大事には思ってなかったんだけど、親友の尊厳を踏みにじった奴を見過ごせるほど血の気の少ない方じゃなくてね。以来、誠弦さん達の目的にも手を貸しつつ、奴を討つ機会を狙ってた、ってわけさ」

「涅隊長か……。最近は大分丸くなった、とは聞いてますが、確かに昔は大分色々ヤバいことやっていたなんて話は小耳に挟んだことがあります。そうか、そんなことまでしてやがったのか……」

「まあ、でも結局竜弦君の息子がちゃんと痛い目に遭わせてくれてたらしいしね。僕の独り善がりな復讐劇は失敗しちゃったけど、それで良かったのかも、って思うよ」

「そういや昔石田が隊長殺しかけたとか言ってたけど、そんな因縁があったのか。やっぱ涅隊長って浦原さんに負けず劣らずやべえ人なんだな」

宗弦は一護からしても親戚筋にあたる男であり、いくら面識がなくともそうした非道な行いの犠牲になったということにはもちろん内心憤りを覚えるところではある。ただ一方で過去の戦いやその後の交流を通して涅マユリという人間の「善性」の部分にも触れてきてしまっていること、そして何より自身を取り巻く多くの因果に一種の慣れを覚えてしまっていることもあり、目の前の樹が抱えていた怒りを自分のものとして感じられるほどでもなかった。

「竜弦とはもう会ったんですか」

一心が問う。

「うん。十字組もちゃんと表立って活動できるまっとうな組織に組み直して彼が面倒をみてくれるんだってね?雨竜君とはまだ会ってないけど、まあそのうち機会があるんじゃないかな。ほんと、君たちには頭が上がらないよ」

「そんな……。結局俺は真咲も守れなかったんすから」

「話は少し聞いてるよ。原因があのユーハバッハだった、ってことも、真咲が守ったのが自分の息子だった、ってことも、その彼が敵を討ってくれたんだ、ってこともね」

樹はそう言って一護に目を遣る。

「もちろんあの子が若くして死んだのは残念だけどね。でも、自分の息子を守れるような立派な母親に育ってくれた、ってことを、父親として誇りに思ってる僕もいるんだ。君だってもう孫のいる身なんだ、僕が何を言いたいかわかるだろう?」

 


 

そうして、それぞれは自らの場所へと帰っていく。

大きな問題が一つ片付けばまた一つ別のものが芽吹くのが世の中というものだし、そうでなくとも彼らは日々虚を筆頭に戦いから逃れることはできないのだ。

多くのものを背負い、また戦場へと向かっていく彼らが紡ぐ物語が世界を繋いでいく。

――たとえ彼らが英雄などではない、ただ一人の戦士であろうとも。

 




ご愛読ありがとうございました!
足掛け1年と3ヶ月ちょっと、ちょうどアニメ第2クールと合わせて連載終了です。
何かあとがき的なものとかスピンオフ的なものとか思いついたら書くかもしれませんが、一旦これにて終了となります。

――で、獄頣鳴鳴篇の続きはいつですか?
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