トレーナーくん大丈夫?話聞こうか?   作:最低保証

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 どうか、幸せに。



はっきょう

 トレーナー名、──────

 年齢 24歳

 身長 182cm

 体重 59kg

 血液型 A型

 雇用形態 教員、ポスドク、トレーナー

 

 経歴

 ──高等学校普通科卒業

 ──大学入学

 ──大学卒業

 

 所持資格

 第一種普通車運転免許

 高等学校教諭一種免許状(数学、物理、化学)

 中等学校教諭一種免許状(数学、理科)

 第一種トレーナー免許

 TOEIC 880点

 弁理士

 

 備考

 卒業研究として体の一部を機械化する義体医療プロジェクトに参加していた。その中でも特に、何らかの要因により神経系または筋肉や骨に異常が発生した場合における利用価値を研究していた。

 

 


 

 

 中央のトレーナーというのは、基本血統か結果で採用される。血統であれば桐生院等の名家から、結果では中央以外の場所で名を挙げたトレーナーをスカウトという形。そのため、中央のトレーナーには新卒に該当するトレーナー……特に家の後ろ盾がない者……は多くない。年に5名いたら多い方で、ゼロという年も珍しくない。

 そんな中、彼はこの学園に来た。理事長のスカウトという形で。筆記試験、技能試験を共に高レコードでパスし、面接も良かった。プレゼンも分かりやすく、教員に向いている。優秀でありながら、謙虚かつ純朴。採用当時は……とは言っても現在24歳なのでそこまで変わらないが……22歳と若く、生徒も親しみやすいだろう人だった。

 

 教師として働き始めてからも、その印象は変わらなかった。中等部、高等部の様々な授業を担当して大学部の講師までこなす彼は生徒から正しく教師として、ひとりの大人として規範となっていた。悩みや相談は勿論、雑談や愚痴も聞いてあげる彼の姿は鮮明に映った。彼は付き合い方が上手だ。担当の子には多くの時間を割きつつ、残りの時間では生徒全体を見ている。

 

「勝てる子がいて、負ける子がいる。勝負の世界ですからね。勝てる子には人が集まって、より強くなる。1を2にするより、100を101にした方がいいですし。でも、ぼくはそれを理由に生徒を選びたくないんです。ぼくはトレーナーである前に教師であり、1人の大人ですから。伸ばされた手を見失わないように、掴めるように……ぼくは目を開けていたいんです」

 

 彼はそう言った。その言葉通りに、彼は才能で生徒を選ばなかった。彼に伸ばされた手を、ちゃんと掴んであげた。

 

 だからこそ、私はこの現状を認められていない。

 誰も悪くない。自殺したあの子も、彼も。誰も悪くないのに、生徒を思う教師が苦しめられている。

 

 連絡が来た時の彼の絶望をよく覚えている。

 

『……は……え……』

『……本当……なん、ですか』

『……は、い……畏まりました。明日、伺わせていただきます……』

 

 今にも崩れそうで、目の焦点もあってなくて。過呼吸を起こしていた。誰が見てもまともじゃない状態で、彼はあの子の死を受け止めていた。

 

 彼は、泣けているだろうか。ここではない何処かで。彼は悲しみを吐き出せているだろうか。乗り越えなくても、向き合わなくてもいい。ただ、悲しみに潰されてしまうのだけは駄目だ。

 

「どうか、泣けていますように。悲しいと、言えていますように」

 

 それだけが、私の祈り。

 

 


 

 

 ぼくはきっとクズなんだと思う。生まれてから今まで、自分を許したことがない。自分を愛したことがない。他人を信じたことがない。他人を愛せたことがない。そんな人間が、誰かを導く立場になんてなれる訳がなかった。

 何もかもを排斥して、拒絶して、孤立して。その果てに残った自分さえ受け入れることができなかった。

 

 ねぇ、君はぼくをどう思っていたんだい。ぼくの目では見えない、君の心の中で。君は何色の虹彩でぼくを見ていたんだい。君だけじゃない。他の子達にも同じように聞きたいんだ。ぼくは、君たちの理解者で在れたのか。この箱庭で、ぼくたち教師に見向きもされなかった君たちに寄り添えていたのか。

 

 幸せになってほしかった。ぼくが彼女たちに抱いていた気持ちは、この一言に尽きる。心と体が安らかで、周りには愛してくれる友人家族恋人がいて。そうやって日々を送ってくれることがぼくの望みだった。

 不幸にならないでほしかった。たとえ幸せじゃなくても。傷ついたり、苦しかったり、痛かったり。そういったものとは無縁な世界で生きててほしかった。

 

 負けること。頑張ること。情けないこと。歩けないこと。怖いこと。嫌なこと。

 そんなものに怯えなくていい。生きるのは、もっと単純だから。君たちがただ生きていてくれれば、ぼくはそれだけでただ嬉しかった。

 

 この願いは、きっと身勝手なんだと思う。

 

「……だから」

 

 ──────こうなったんだよ。

 

 ぼくの手では、君たちの手を掴めなかった。そばに居てあげられなかった。もうぼくはどうやっても君たちの頭を撫でられないんだ。

 

「ぼくは、結局何がしたかったんだろうね。本当に後悔ばかりだよ。生まれてきてからずっと、ああすれば良かったの連続で……後悔のない選択なんてほとんど無いよ。頭が痛いんだ。心が痛いんだ。でも、涙が出ない。ずっと、心に穴が空いたみたいな空虚さだけなんだ。悲しいのかも、今はわからない。

 ぼくだけが、置いていかれている。君の死からずっと動けていない。君が死んだ事を認めるのが、怖いんだよ。笑ってくれ」

 

 でも、さ。

 

「漸く、決心が着いたんだ。この選択がぼくの最後だ。多分、後悔はしないと思う。ずっと考えていたんだ。人生の賞味期限と幸せな消費期限について。長い人生には必ず蛇足があって、幸せはいつか終わりがある。ぼくは幸せなんてわからないから、君たちの幸福を願えなかった。ぼくの人生に余剰があったから、君たちに向き合えなかった。何でこんな簡単な事に気づかなかったんだろうね。でも、多分まだ遅くないからさ……」

 

「君に会いに行くよ」

 

 ──────明日は、死ぬことにした。





 たづなさん「悲しみを吐き出せているといいな〜」
 主人公くん「おぇ……(二日酔い)(酒カス)(度数で差をつけろ)」

 次回は過去最高にキモい主人公くんが現れます。
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