少年Aは遊戯王にハマっている。
「でも、さすがに今日はやめとこうかな」
そんなことを呟きながら、彼は自宅のドアを開ける。
「ただいまー」
しかし、家の中からは返事がない。
おかしいなと思いつつ、靴を脱いで家に上がる。
すると――、
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
そこにはメイド服を着た女性が立っていた。
「……えっ?」
一瞬思考が停止する。
目の前にいる女性は確かに可愛いけれど、どこかで見たことがあるような気がする。
「お帰りになる時間が遅かったですね? もしかして、またゲームセンターで遊んでいらっしゃったんですか?」
そう言いながら彼女はこちらに向かって歩いてくる。
その声にも聞き覚えがあるのだが、なぜだか思い出せない。「あの……どちらさまですか?」
恐る恐る訊ねてみると、相手は目を丸くした。
「えっ? 何を言っているんですか? 私ですよ! いつも一緒にいるじゃないですか!」
「えっと……」
どう答えればいいのか分からない。
それにこの人には悪いけれど、全然見覚えがなかった。
だからといってこのまま黙っていても仕方ない。
「すみませんけど、あなたとは初対面ですよね?」
正直に告げると、彼女はショックを受けた表情になった。
そして、その場に泣き崩れてしまう。「うぅ……。ひどいです、ご主人様ぁ~」
「えぇ!? どうして泣くの!?」
まさか泣かれると思っていなかったため、彼は慌ててしまう。
「だって、ご主人様が私のことを忘れてしまったから……」
「そ、それは本当に申し訳ないとしか言えないんだけど……」
困り果てていると、突然背後から誰かの声が聞こえてきた。
「ちょっと待ちなさいよ、あんた!」
振り向くと、そこにいたのは金髪の少女だった。
「誰?」
思わず訊ねると、少女は怒ったように叫んだ。
「あたしのこと忘れちゃったっていうわけ!?」
「えっと……」こちらもまったく記憶になかった。
そもそも、こんな知り合いがいただろうか? 戸惑っていると、彼女は涙目になって叫ぶ。
「あーもう! ムカつくわね! こうなったら、こっちにも考えがあるんだから!」
そう言うなり、彼女は懐に手を入れた。
取り出したのは拳銃である。
それを向けられた瞬間、彼の全身を恐怖が襲った。
銃口を向けられるなんて初めての経験だ。しかも相手が女の子なのだから、なおさら怖い。
「ちょ、ちょっと待って! なんでいきなり撃つとか言い出すんだよ!」
「うるさい! あんたがあたしのことをちゃんと思い出さなかったのが悪いんじゃない!」
「いやいや、思い出すも何も知らないってば!」
必死に否定するも、少女はまったく聞いてくれない。
それどころか、今度はメイド服の女性の方を向いて叫び始めた。
「あんたも何とか言ってやりなさいよ!」
すると、女性は静かに首を横に振る。
「いえ、私はご主人様に忘れられても平気です」
「なっ……! どうしてよ!?」
「だって、ご主人様のことが大好きだからですもの」
「はあっ!?」
メイドの言葉を聞いた途端、金髪の少女の顔が真っ赤に染まる。
それからしばらく視線を泳がせていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「……なら、今すぐ思い出させてやるわ!」
「へっ?」
呆気に取られている間に、彼女はこちらに向かって駆け寄ってきた。
そして、そのまま抱き着いてくる。
「んっ……ちゅっ……」
次の瞬間、唇を奪われた。
柔らかくて温かい感触が伝わってきて、頭がクラリとする。
数秒間のキスの後、ようやく解放された。
「これでどう? 思い出せたかしら?」
「えっと……」
正直に言えば、まったく覚えていなかった。
しかし、ここで肯定してしまうとまた撃たれかねない。
なので、無難に答えることにした。
「う、うん。思い出したよ……」
「そっ。良かったわね」
少女は不機嫌そうな顔で言った後、「ふんっ!」と言って踵を返した。
そのままどこかへと行ってしまう。
「あの子は何だったんだろう……」
ポカンとしていると、メイド服を着た女性が話しかけてきた。
「さっきの子とのファーストキッスの味はいかがでしたか? ちなみに私とした時はレモンの味がしました」「えっ? あれ? あの子はどこに行ったんですか? それに、あなたとはいつ会ったんですか?」
混乱していると、彼女は微笑みながら教えてくれた。
「あの子はあなたの妹さんですよ」
「はいっ? 僕の妹?」
「はい。あなたの妹さんの名前は日向七奈と言います。年齢は14歳で、趣味はゲームとアニメ鑑賞ですね。最近はカードゲームに夢中になっているようです。それと、好きな食べ物はハンバーグとオムライス。苦手なものはピーマンとお化けの類。嫌いな食べ物は特にありません。性格は明るく元気。学校でもクラスの中心的存在で、男女問わず友達が多いみたいですよ。あとは――」
「あの……」
妹について延々と語られる。
あまりの情報量に頭が爆発してしまいそうだ。
「ああ失礼いたしました。つい熱く語ってしまいましたね」「そ、それはいいんだけど、その……黒橋って名字に聞き覚えがあるんですけど……」
「あら、そうですか? 実は私も聞き覚えがあるんです」
そう言うと、彼女は胸元に手を当てた。「私黒橋西菜といいまして、あなたの婚約者になります。年齢は同じ15歳。血液型はB型。誕生日は4月24日で、星座は牡牛座。好きなものは甘いものと可愛いもの全般。苦手なものは辛いもので、特に超激辛ペ○ングといったものが大の苦手です。身長は165cm。体重は秘密にさせてください。スリーサイズは上から87-55-84。バストサイズはEカップ。ちなみにブラジャーのサイズもEでございます。好きな色は白とピンク。最近買った下着の色は淡い水色と白色のストライプ。お気に入りのブランドは『○.S』というところで、ショーツは『○.P』。他にも色々ありますが、知りたいですか?」
「…………」
彼はもう言葉が出なかった。
なぜだか分からないけれど、彼女が語ったことを自分は知っているような気がする。