なぜ彼(彼女)は……。   作:Vは見て書き楽しむもの

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兄Kは……1

黒橋西菜はチャイナドレスを着て、俺を誘惑しやがったんだ。

「……何よ、その顔」

「いや、別に」

そうだった。あの日も、こんな風に雨の音がしていたっけ。

「あたしね、実は今日、お兄ちゃんと喧嘩したんだ」

西菜はテーブルに肘を突いて、掌の上に顎を乗せながら言った。俺は何も言わずに、ただ黙って耳を傾けた。

「それでね、仲直りしたいから電話してみたんだけど……繋がんなくてさ。だからメールで謝ろうと思ったら、今度は返事すら来ないんだよ?ひどくない?」

「…………」

俺は何も言えなかった。

「あーあ。どうしたら許してくれるかなぁ」

「知らんわそんなん」

俺は思わず本音を漏らしてしまった。

「えぇ~、冷たいなぁ」

西菜は少し悲しげな表情を浮かべる。

「じゃあさ、代わりに考えてよ」

「なんでだよ……」

「いいじゃん!お兄ちゃんなんだから!」

そう言って彼女は口を尖らせる。こういう時だけ都合の良い事を……。

「つっても、何を言えば良いのかなんて分かんねぇぞ?」

「何でも良いよ。『ごめん』でも、『愛してる』でも」……後者はちょっと違う気がする。

「う~ん……そうだな……」

俺は頭を悩ませる。そもそも、あいつが何に対して怒っているのかもよく分からないのだ。まあ、確かにこっちにも非があるっちゃあるけど……。

しかし、いくら考え込んでみても、何も思い浮かばなかった。

「悪い。やっぱり分からん」

素直に白旗を上げると、西菜は「そっか……」と言って溜息を吐いた。

「分かった。もういいよ。自分で考えるから」

そして、そのまま立ち上がる。

「おい、どこ行く気だ」

「決まってんじゃん。家に帰るの」

そう言うと、西菜は玄関に向かって歩き出した。

「待てよ。傘持ってけよ」

「いらない。濡れたくないもん」

「風邪ひくぞ」

「大丈夫だって。私、バカだし」

「そういう問題じゃないだろ」

「うるさいなぁ。ほっといてよ」

西菜はそのまま扉を開けると、外に出てしまった。バタンという音と共にドアが閉まる。

「……まったく、しょうがない奴だな」

俺はリビングに戻ると、ソファに置いてあった自分の上着を手に取った。そして、それを羽織ると再び玄関に向かう。

「おいっ!」

外に出るなり、大声で叫んだ。すると、数秒遅れて彼女の足音が聞こえてくる。振り返ると、そこには驚いた様子の西菜がいた。

「何やってんの?」

「お前こそ何やってんだよ。ほら、これ使え」

俺は手に持っていた上着を差し出す。しかし、彼女はそれを受け取ろうとしなかった。

「要らないって言ったじゃん」

「いいから着とけっつの」

無理やり押し付けるようにして渡す。彼女は渋々といった感じで袖を通した。

「……ありがと」

「おう」

「でもさ……何か恥ずかしいね。この格好で外歩くのって」

そう言いながら、彼女は少し頬を赤らめる。

「安心しろ。俺も同じだから」

「ふぅん」

それからしばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。雨の音だけが響いていた。

「……ねえ、お兄ちゃん」

先に口を開いたのは西菜の方だった。

「何だよ?」

「今度さ、二人でどこか遊びに行かない?」

「別に良いけど、どこに行きたいんだ?」

「どこでも良いよ。お兄ちゃんと一緒なら」

そう言うと、彼女は微笑む。

「そうか……」

俺もつられて笑みを浮かべた。

「じゃあ、近いうちに行こうぜ」

「うんっ!」

西菜は大きく首肯する。その笑顔には曇り一つ無かった。

「あ、そうだ。お土産買ってきてあげるから楽しみにしててよね!」

「ああ、期待しとく」

「じゃあ、また明日学校で!」

「おう。気を付けて帰れよ」

手を振る彼女に背を向けると、俺はゆっくりとした歩調で帰路に就く。そして、その姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

その日を境に、黒橋西菜の姿を見掛けなくなった。

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