【完結】伝承者の友   作:ウルハーツ

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第1話

 ムロタウンにある石の洞窟。そこでダイゴという名の男性に手紙を送り届けた少女、ハルカは一仕事を終えた事で謎の壁画が存在する大きな広間を後にする。

 

 彼女は既に2つのジムバッチを所有している。それは2つの街で大きな試練を熟した証であり、目指すは8つ集めた上で挑むチャンピョンリーグ。その為にも次の街へ行こうと新たに決めて洞窟を歩く彼女の耳に、微かな音が聞こえる。

 

「?」

 

 空気の音では無い。それはポケモンの鳴き声だ。彼女のまだ見ぬポケモンがこの洞窟には居るのだろう。旅立ちの際に持たされた大事な物、ポケモン図鑑に登録するためにも彼女はその声を辿る事にした。道中傾斜の激しい坂もあったが、彼女はポケモンの力を借りて登り切る。

 

「……ぇ」

 

 ポケモンの鳴き声は一度だけでなく、鳴り響き続けていた。まるで何かを呼ぶ様に。その声を辿り、ハルカが辿り着いた場所にあったのは……土塗れで汚れた人が倒れている姿。しかも140㎝弱と152㎝(自分)より小さい女の子であり、その片腕は見慣れぬポケモンの頭から見える恐ろしい口に噛み付かれていた。

 

「ちょっと大丈夫!?」

 

 一瞬呆気に取られてしまったハルカだが、急いで駆け付けた彼女はまず最初に女の子からポケモンを引き剥がす。少女の意識は無い様であり、ポケモンは引き剥がされた事でハルカに敵意を向け始めた。慌ててハルカは図鑑を取り出してポケモンを調べる。

 

 

【クチート♀】あざむきポケモン

鋼の角が変形した大きな顎。

大人しそうな顔に油断をしていると、突然振り向きバクリ! と噛み付かれるぞ。

 

 

「このポケモンは……クチートっていうんだ。って、そんな事よりも! アチャモ、お願い!」

 

 相手のポケモンを図鑑に登録しながらその詳細を知り、ハルカは旅立つ際に貰った相棒といえる存在であるポケモンを出す。

 

 

【アチャモ♂】ひよこポケモン。

トレーナーにくっついてちょこちょこ歩く。

口から飛ばす炎は摂氏1000度。相手を黒コゲにする灼熱の玉だ。

 

 

 攻撃を仕掛けてくるクチートに反撃して、アチャモはハルカの指示を聞いて戦う。ポケモンの属性には相性があり、『はがね』タイプのクチートは『ほのお』タイプのアチャモを相手に不利であった。アチャモの出す火の粉が直撃すれば、それだけでクチートはやられてしまう。

 

「ふぅ。なんとかなった。って、あの子の怪我を……あれ?」

 

 瀕死になったクチートに最早敵意は無い。それを確認したハルカはクチートに噛まれていた女の子の手当をしようとする。が、そこで彼女は気が付いた。ポケモンの力は人間よりも基本的に強い。しかし見るからに恐ろしく力も強そうなクチートに噛まれていたにも関わらず、女の子の手は無傷であった。それどころか、

 

「すぅ……すぅ……」

 

「寝てる……あれ? 倒れてたんじゃないの!?」

 

 クチートに腕を噛まれながら眠っていた女の子。その事実にハルカの頭は混乱してしまった。

 

 

 ハルカが落ち着いた頃、突然女の子の身体から何かが転がり落ちる。それはポケモンを捕まえて持ち運ぶための必需品、モンスターボール。それを持っているという事は、眠っている女の子がバトルを主とするトレーナー、或は育てる事を主とするブリーダーである事を意味していた。

 

「揺れてる……もしかして、出してって言ってる?」

 

 まるで何かを求める様に揺れ動くボールは中にポケモンが入っている証。ポケモンによっては自分から出て来る場合もあるが、基本的には人の手で出してもらうボールの中のポケモン達。ハルカは何となく察してボールを拾うと、中からポケモンを解放した。それはドレスを纏った人に近い姿をしたポケモン。

 

「うわぁ! 私より大きい! えっと、この子は……」

 

 

【サーナイト♀】ほうようポケモン

未来を予知する能力でトレーナーの危険を察知した時、最大パワーのサイコエネルギーを使うといわれている。

 

 

 サーナイトはボールから出してくれたハルカへ向き、まずは綺麗なお辞儀をする。思わずハルカもそれに返した時、顔を上げたサーナイトは女の子の元へ。そのまま両腕を首と膝裏へ差し込むと、お姫様抱っこと呼ばれる抱え方で持ち上げ始める。

 

『出口まで連れて行って貰えますか?』

 

「え? あ、はい。……ん? 今、喋った!?」

 

 声を出した訳では無い。だがハルカの頭には確かにその言葉が聞こえていた。優しい女性の様な声で告げたのは間違い無く目前に居るサーナイトであり、ハルカは更に混乱。だが求められた事へ答える余裕はあったのか、取り敢えずは外へ出る事を優先する。

 

 ハルカとサーナイト。そしてサーナイトに抱えられた女の子は出口へ向かう。そんな彼女達の姿を見つめる影がそこには残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ、眩しいぃ……」

 

 長い間、洞窟の中に居たハルカは外へ出た事で照り付ける陽射しに目を庇う。サーナイトも青空を見上げて僅かにその目を細めており、そのまま流れる様にハルカはサーナイトをムロタウンにあるポケモンセンターへ連れていった。トレーナー達が多く利用する、ポケモンの傷や疲れを癒す施設だ。人が泊まる場所も街によっては併設されている場合があり、小さな島であるムロタウンには残念ながら休憩する場所はあっても泊まる場所は無い。

 

 女の子を抱えたサーナイトが、少女と共に現れる。余りにも驚きな光景に驚きながらも、ポケモンセンターのジョーイは受け入れる。といっても女の子に怪我や病気といった所見は全くなく、ただ眠っているだけであると分かってその場に居た誰もが安心する。

 

「このサーナイトは貴女のポケモンですか?」

 

「あ、いえ。私じゃなくて多分この子の……かも」

 

『紛う事なく、私のマスターはここに眠っている方で間違いありませんよ』

 

「!? 声が……ポケモンの中にはテレパシーで話をするポケモンも居ると聞いた事は有りますが、実際に会うのは初めてですね」

 

 最初に聞いて混乱したハルカと違い、ジョーイは冷静にサーナイトの声を聞いて理解した上で彼女から何があったのかを聞こうとする。

 

 ……だが、その答えは至ってシンプルであった。

 

『あそこでマスターはポケモンと遊んでいただけです。それで眠いから少し眠る、と』

 

「眠いからって……あそこ、野生のポケモンが一杯なんだよ!? 危ないって!」

 

『はい。ですから、あそこで出会い共に遊んでいたクチートがマスターを守ってくれていました』

 

「あ、なら安心…………え!? じゃあ、あのクチートはこの子を襲ってたんじゃなくて」

 

『マスターを守っていたんです。本気で襲っていたら、今頃マスターの腕はありません。その場合、私が止めますが』

 

 ハルカは倒してしまったクチートに対して申し訳無い事をしてしまったと罪悪感を感じずには居られない。つまりあそこで敵意を見せて来たのも、自分と同じ様に女の子を守るつもりだったのだろう。

 

『元は野生。きっとあのまま洞窟で……?』

 

「あ! ポケモンだ!」

 

 サーナイトが言葉の途中で何かに気付いた。途端、ポケモンセンターの外から子供の声が聞こえる。少し騒ぎになり始めているのは、野生のポケモンが人の居る場所へ現れる事が稀な事だからだ。基本的にポケモンには自身の縄張りがあり、人の縄張りとなっている街へ入って来る事は極稀な事。

 

『どうやら、追い掛けて来たみたいですね』

 

「何が……って、クチート!?」

 

「先程の話とサーナイトの言葉からするに、この子を守っていたポケモンですね」

 

 余りにも堂々とそのクチートは正面からポケモンセンターへ入り、周囲を見回してハルカを見つけるや否や威嚇を始める。本来であれば野生のポケモンは子供であろうと襲う可能性があるため、追い払うか捕まえる等の処置を取るのだが……ジョーイが何とかする為に動こうとした時、この場で始めて響く声が場を支配する。

 

「ん……ぁ? 何処だ、ここ?」

 

 それはこの問題の最大の元凶とも言える存在、汚れた女の子が目覚めてからの第一声であった。




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