ルネシティ。
夜を迎えたその街は今、世界の脅威が消え去った事でお祭り騒ぎとなっていた。主役であるハルカは彼方此方に呼ばれて大忙し。ジムへの挑戦は明日以降となり、サガリもこの日は街のポケモンセンターへ滞在する事が決まっている。
「やぁ、サガリ。キミは他の皆みたいに騒がないのかい?」
「元はといえば、俺の姉が居た組織が招いた事だからな……姉貴から逃げていた俺にもちょっとは責任があると思うと、なんだかな」
「ふぅん。面倒な考え方をするね?」
「面倒って」
「だって、他の誰もそんな事を気にしてないよ。寧ろそうやって騒いでいる人の中に責任を感じてる人が居たら、空気も悪くなるって。……ところで、カガリは? キミの傍に引っ付いてそうなイメージだったんだけど」
「ホムラに呼ばれて今はマツブサのところだ。マグマ団の存在意義を一から考え直すんだとよ」
「あれ? それじゃあ、カガリは結局戻るの?」
「いや。けど幹部って立場だったからな。それなりの引継ぎやらが必要なんじゃないか?」
「ふぅん……よいしょっと」
騒ぐ街を少し離れた場所から水面へ届かない程度に足を降ろして話をするサガリの隣へ、ヒガナが並ぶ様に座り込んだ。そしてボールから出した
「この世界の大きな危機が救われたんだね」
「らしいな。全然分かんねぇけど」
「だろうね。……ねぇ、サガリ。もしこの世界がまだ危ない状況にあるって言ったら、キミはどうする?」
「笑えない話だな。でも、そうだな……それはなんとかする手段があるのか? 俺でも出来る事で、だ」
「そうだね、あるよ。だけどもしかしたらその為にキミはハルカちゃんやホウエンの人々を敵に回してしまうかもしれない」
「説明をしてどうにかなるって訳でもないって事か」
「突拍子もない、それこそ神話のお伽噺みたいなものだからね」
空を見上げたまま話をするヒガナの表情を横目で見つめたサガリは、やがて両腕を後ろへ伸ばして身体を反らせながら同じ様に空を見上げる。
「俺とお前って、出会ってどのくらい経つんだ?」
「さぁ、1年くらいじゃない?」
「1年か、そんなに長くないな」
「そうだね」
「でもさ、俺って正直逃げ出すまで他に友達って言える奴が居なかったんだ。今じゃ他にも出来たかもしれないけどな……多分、俺の最初で一番の友達はお前なんだと思う」
「あはは! そっか。なんか照れるね」
「だからさ、話してみろよ。その突拍子もない話って奴を」
「……しょうがないなぁ。……それじゃあ、とあるお伽噺を教えてあげる」
そうして語り出す話は何千、何億と昔の話から繋がる物語であった。ヒガナの語る内容にサガリは反応する事なく静かに聞き続け、やがてヒガナは最後に彼女の目的とも言える革新的な言葉を残す。
「この話の1000年後。それはもうじきで、近い内に隕石がホウエンに向かって落ちて来る。それを止められるのは、嘗てグラードンとカイオーガの戦いを止めた伝説のポケモン、レックウザだけ」
「レックウザ、ね……」
「私がマグマ団に居たのは、この2匹を呼び起こす為。つまり今回の出来事は私の望んだ事だった。……けど、ハルカちゃんがグラードンを沈めた事でもうレックウザは現れない」
「ホウエンを、世界を守る為に世界を窮地に陥れたって訳だ。マツブサがグラードンの存在を知ったのも、お前の入れ知恵なのか?」
「そうだね。私はね、サガリ。この星を守る為には世界が干からびても、海に沈んでも構わないんだ」
「…………」
「幻滅した? 今回の起こった出来事の引き金を引いたのはマグマ団じゃない、私なんだよ」
ヒガナはシガナを強く抱きしめる。それを横目で見たサガリは後ろに伸ばした腕を前へ移動させ、街の方を指差した。
「見ろよ、あれ。ハルカが街の奴にお礼を言われ過ぎて困ってるぜ?」
「……」
「正直言うとさ、世界の終わりだ危機だとか、俺には『なんの事ですか?』って話なんだよ。けどそれがヤバい事なのは流石に分かる。お前は俺や姉貴、ハルカ達を死ぬかもしれない未来へ導こうとしてたって事もな」
「っ!」
「けどさ、俺は生きてるんだ。アイツも、あそこに居る奴らも。やろうとした事は怒りを感じる事かもしれない。けど俺は起きなかった事に一々腹を立てるつもりも無い。そんな事言い出したら、ティアに銜えられて空を飛ぶ俺は何時落ちるか分からないんだぜ? 怒っても切りが無いっての」
「規模が違うよ。それに結果そうなっただけで、私はここに居る人達を死に追いやろうとした」
「ならさ、今度は死なない様にする方法を考えれば良い。俺に出来る事があるんだろ? グラードンとカイオーガを目覚めさせる以外で、どうにかする手段があるんだろ? だったら、やってやろうじゃねぇか。何をすれば良いかなんて分かんないけど、この際何だって良い。俺を頼れ。んで、困ったら相談しろ」
「ぁ、はは……どう言っても、キミは私を責めないんだね」
「何だ、怒って欲しかったのか? なら残念だったな。友達が抱えてる悩みは一緒に背負いたい質なんだよ、俺は」
サガリは笑いながら答え、それにヒガナもやがて笑い返す。そして彼女はサガリに出来る事を、ホウエンや星を守る為にやるべき事を話し始める。
翌日。世界が救われた事に対するお祭り騒ぎも収まり、ルネシティには日常が戻っていた。
ハルカはジムリーダーであるミクリへ挑む前に、約束したバトルをする為にサガリを探す。しかしこの街の何処にも居らず、彼女は首を傾げてしまった。……そんな時、ポケモンセンターのジョーイがハルカの姿に気付いて声を掛ける。
「実は菫色を髪を伸ばした小さな女の子が貴女にこれを渡して欲しいと」
「これは……手紙? ありがとうございます!」
受け取ったのは一枚の手紙。ハルカは邪魔にならない様にその場を離れ、センターの中でそれを開き読み始めた。
『悪いな。俺はやらなきゃいけない事が出来たから、バトルはまた今度にしよう。世界を救ったお前なら、ルネシティのジムリーダーなんて楽勝だろ? そのままポケモンリーグに行って、チャンピオンも夢じゃないかもな。もしお前がなった暁には、チャンピョンハルカに挑ませてもらうから覚悟しとけよ? また会おう。 サガリ』
PS.姉貴の事は俺から謝る。ごめん。取り敢えず姉貴も反省してる筈だ』
「そっか……戦ってみたかったなぁ。……仕方ない、気を取り直してミクリさんに挑もう!」
サガリがいない事を知ったハルカはガッカリした様子で肩を落すが、即座に気合を入れ直してジムへとその足を進め始める。
この数日後、ホウエンに居る全てのトレーナーはハルカの名前を知る事になる。ポケモンリーグの四天王を勝ち抜き、チャンピオンを打ち負かした新たなチャンピオンとして。
「なぁ、あんた。キーストーンって知ってるか?」
「メガシンカに必要な奴でしょ? 私、持ってるわよ。ほら!」
「そっか、持ってるのか…………なら、そいつは俺が貰うぜ!」
「っ!」
そしてホウエンには新たなニュースが流れる。
各地でフードを目深に被った子供や女性が、キーストーンを奪う事件が多発していると。