トクサネシティ、宇宙センター2階。
流星の滝から戻って来たハルカとダイゴは、ソライシ博士の発明した『次元転送装置』を見せられながら改めて迫る隕石への対応についての話し合いをしていた。ヒガナからは『黙って見てなよ』と言われたものの、だからといってその通りには出来ない。世界の命運が掛かっているのだから、当然だろう。
隕石から世界を守る計画、別の次元へ隕石そのものを飛ばしてしまう作戦が正に今から決行されようとしていた。ソライシ博士は自らの発明に自信を持ち、改めて作り上げた『次元転送装置』を掲げようとして……何時の間にかその手に無かった事で場は一瞬の静寂に包まれる。が、即座に場は大騒ぎとなった。
「一体何処に!? 先程まで、確かに私の手にはあった筈なのに!」
「こんな皆が居る場所で道具を盗む事なんか……そうか! どろぼうだ!」
決してダイゴは分かり切っている事を言った訳ではない。彼が言った『どろぼう』とは、ポケモンの技の1つ。相手の『もちもの』を盗む事が出来るその技は人の目には決して追えない早業であり、それが出来るのはポケモンだけ。すると、その場には居なかった筈の声がハルカ達の耳に聞こえ始める。
「そう不機嫌になるなよ、エナ。お前をこんな事で使ったのは悪いと思ってるって」
「!? サガリちゃん!」
「よう、ハルカ。久しぶり……って程は時間も開いてないか。何か色々あり過ぎて、暫く会ってなかった感じだな」
それはサガリのものであり、彼女は自分の手持ちであるグラエナのエナが銜えていた『次元転送装置』を受け取っていた。つまり博士からそれを奪ったのはエナであり、それを指示したのはサガリで間違い無いのだろう。ヒガナが現れた時の様に、ハルカ達はサガリへ近づいた。
「それをどうするつもりだい?」
「どうするって、これを使われたら不味いんだよ。だから、壊す」
「そんな事をすれば、隕石から世界を守る手段も壊れてしまう! 馬鹿な真似は止めるんだ!」
「ヒガナに言われなかったか? 隕石は俺達がどうにかする」
「! やっぱり、サガリちゃんはあの人に協力してるんだね」
ヒガナとサガリが協力関係にある事が確定した事で、ダイゴの視線を厳しくなる。一方、ハルカは未だに彼女達を完全に敵と見る事が出来ずにいた。
「ヒガナさんもサガリちゃんも、やろうとしてる事は私達と同じ。この世界を守りたいだけ。なのにどうしてこんな事を?」
「……なぁ、ハルカ。俺とお前はどうやって出会ったか覚えてるか?」
「え? えっと、ムロタウンにある石の洞窟で……」
ハルカは突然の質問に驚きながらも思い出す。傍に居るダイゴと出会ってからすぐがサガリとの出会いであり、彼自身もそれに驚きながら話を聞いていた。しかしサガリはそれを聞いた後、言葉を続ける。
「もしあの時、鳴き声が聞こえなかったらお前は俺と出会わなかっただろうな」
「う、うん。でもそうなったらそうなったで、えんとつ山で会ってたかも」
「かもな。それは初対面かもしれない。もしくは、俺とお前はあの場でも出会わなかったかもしれない。『もし』。そんな言葉から広がる世界があるとして、お前は信じるか?」
「もし、から広がる世界……?」
「俺とお前が出会わなかった世界。俺が存在しない世界。お前が世界を救わなかった世界。メガシンカの無い、隕石なんかが迫る未来そのものが無い世界」
「馬鹿げている! そんな空想話でこの世界を危険に晒そうというのか!」
「空想? 俺の言ってる世界が空想だと、あんたは証明できるのか?」
「証明もなにも、そんな事はありえない話だ!」
「あんたの意見は聞いてねぇよ。科学者なら分かるだろ? 俺が聞いてるのは『無いと言い切れる根拠があるか?』 だ。確かに『あるという根拠は無い』。でもそれで仮にあった場合、お前らの方法はその世界を犠牲にした上で成り立つ可能性がある」
「別の世界の、私達……。サガリちゃんはそれがあると信じてるんだよね。どうして? どうして貴女はそれを信じられるの?」
「どうして、か。あんま考えた事なかったな。けど単純な話かもな……俺の
その時、サガリは手に持っていた次元転送装置を破壊してしまう。床へ落とした挙句、それを踏み潰す様にして。落下の衝撃と小さいと言えど少女の全体重が込められた踏みつけは完璧に元へは戻せない程度に壊れてしまい、その光景にソライシ博士は頭を抱える。
「あぁ、なんて事だ!」
「君は今、取り返しのつかない事をしたんだぞ!」
「何度も言わせんなよ……
「どうするつもりなの?」
「知りたきゃ追って……いや、ハルカ。お前は俺を追って来い。一度世界を救ったお前は、俺達のやる事を見てどう思うんだろうな? 待ってるぜ、空の柱でな」
「空の、柱……?」
サガリは言い切ると、エナの背に跨ってその場を後にする。走るグラエナは当然、人が追い掛けられる速度ではない。自分達にとって世界を救う希望だった次元転送装置が破壊された今、出来る事は新たな対策を講じるか、彼女達の目的を確認して協力するかの二択。だが殆ど敵対と言っても過言ではないヒガナ達への協力はダイゴ達にとって抵抗があった。……たった1人を除いて。
「ダイゴさん。私、行きます! 空の柱へ」
「ハルカちゃん……分かった。空の柱については僕も知っている。中へ入れる様に協力しよう」
ハルカの言葉にダイゴは頷き、サガリの告げた場所へ行く為に協力を始める。空の柱へ入る為にはルネシティに居るジムリーダー、ミクリと話をする必要があると聞いた彼女は急いで外へ出てからルネシティへ向かうのだった。
空の柱。
そこには流星の民やルネの民と呼ばれる伝承・神話を残す者達が描き記した壁画が彼方此方に描かれていた。
ダイゴの協力とミクリからの試練を乗り越えてそこへやって来たハルカは建物へ入る前、その入り口の横で腕を組んで壁に身体を預けながら待っている人影に気付いて走り出す。やがてその目の前に立つと、強い視線を相手へ向けた。
「サガリちゃん! 追って来たよ」
「あぁ。それじゃあ、世界を救うところを見る……その前に、やるか」
「っ!」
「こんな形で約束を果たす事になるとは思わなかったけどよ、生半可な強さじゃこれから起こる事に対してなにも出来ない。俺くらいは軽く超えてくれないと、困るからな!」
モンスターボールを手に告げるサガリを前に、ハルカも応戦する様にボールを手に取る。
『伝承者の友のサガリが勝負を仕掛けて来た!』