【完結】伝承者の友   作:ウルハーツ

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最終話

 ハルカは負けた事で顔を伏せてしまったサガリを心配して、恐る恐る近づきながら声を掛ける。すると、サガリは急に顔を上げて笑顔を見せた。

 

「ははっ! こんなに楽しいバトルは今まで無かったぜ。ありがとな、ハルカ!」

 

「サガリちゃん……」

 

「お前の強さはよーく分かった。お前なら大丈夫だろ。中へ入れよ。入ってすぐに姉貴がいるから、ポケモン達は元気にしてもらえ」

 

 サガリはそう告げると、ハルカの元を離れる様にその場を去ってしまう。追い掛けたい気持ちにもなるが、ハルカはこの先に居るであろうヒガナの元へ行く必要があった。故に後ろ髪を引かれる様に思いを抱きながら、空の柱内部へ。入ったと同時に待っていたのは、カガリとヒガナが並んで話をしている姿。

 

「キミが入って来たって事は、サガリは負けたんだね」

 

「…………ポケモン……癒す(ヒール)

 

「あ、うん……お願いします」

 

 嘗ては敵であったが、今ではその意思を感じないカガリを前にハルカは少し躊躇しながらもポケモン達を癒してもらう。サガリの言う通りにきちんとポケモン達の体力を回復したカガリは、何も言わずにヒガナへ視線を向けた。

 

「行っていいよ。ここから先は、私の役目だから」

 

「…………」

 

 ヒガナの言葉を聞いて何も言わずに外へと出て行ってしまったカガリ。そんな彼女の後ろ姿を見送った後、ハルカはヒガナと相対する。

 

「さて、改めて名乗ろうか。私は流星の民、ヒガナ。今からキミにはとあるお話をしてあげる。とっても長くて不思議で信用する事が出来ないかもしれないお話、だけどね」

 

 ハルカはそこからヒガナの語る神話と伝承についてを聞かされる。彼女が今まで何をして来たのか、これから何をしようとしているのか……その全てを。

 

 

 

 空の柱は海に囲まれた場所にある。サガリは岩の上に座って広大な海を眺めており、そんな彼女の傍にカガリが姿を見せると何も言わずに隣へ座り込んだ。

 

「…………」

 

「……」

 

「…………楽しかった?」

 

「……あぁ」

 

 長い沈黙の後、カガリの問いにサガリは頷きながら空を見上げて答える。その表情は何処か清々しい様にも見えるが、カガリはそんなサガリの傍へ近づいた後に頭を抱く様にして自身の胸へ押し当てた。

 

「…………悔しい……なら、泣く(クライ)

 

「別に、悔しくなんか……ない」

 

(ライ)…………僕はあの子に何回も、負けた……悔しかった」

 

「……」

 

「サガリは、僕の(シスター)だから…………分かる」

 

 楽しみだったバトルも終わり、最後に残ったのは負けた事への悔しさ。それはトレーナーとして大事な感情ではあるが、かと言って何度も感じて嬉しいものではない。増して状況や相手が目と目が合っただけで戦いを挑み合う様な軽いものでは無かった事もあり、負ける事も人より少なかったサガリはその感情を抑え込んでいた。しかしそれを見通していたカガリの抱擁と言葉に、その表情は曇る。

 

 ……そして、カガリの胸に顔を埋めたサガリは静かに呟いた。

 

「本当に楽しかったん、だけどな……けど、やっぱ……悔しいな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空の柱、頂上。

 

 ハルカはそこでヒガナからホウエンに存在する一部の民にのみ伝わって来た伝承や神話を聞かされていた。

 

「という訳で、私はこの世界に来たる脅威を知っていて、それをどうにかする為にグラードンとカイオーガによる天変地異を起こそうとしていたって訳。まぁ、キミがグラードンを沈めちゃった事であの作戦はもう使えないんだけどね」

 

「……貴女がやろうとしていた事は分かった。それで、次は何をするつもりなの? どうしてサガリちゃん達と一緒に、キーストーンを?」

 

「簡単な話だよ。この世界の危機に現れる彼の存在、それを私自身の手で呼び出すんだ。その為に必要なのが、これって訳」

 

 ヒガナはそう言ってホウエンの各地でトレーナーから奪ったキーストーンの1つを見せる。今も徐々に迫る隕石をどうにかする手段を、彼女は確かに持っていた。そしてその方法も嘗ての天変地異を引き起こす事とは違う事を、ハルカは聞かされている。その手段として今ではニュースになる程の事件が起きているが、彼女達が覚悟している事も。

 

「もう、条件は揃ってるんだ。後は私が頑張るだけ。……シガナ、向こうへ」

 

『?』

 

 傍にいたゴニョニョのシガナへハルカの元に行く様にと伝えたヒガナ。どうしてか分からないまま言う事を聞くシガナと、困惑するハルカを前にヒガナは笑みを浮かべる。

 

「今からやる事は結構危険でさ。……もし私に何かあったら、その時はシガナをよろしく。後、サガリ達にも『ありがとう』って伝えておいてよ」

 

「!? そんな!」

 

 伝承や神話にまで登場した存在。それを1人の手によって呼び出す事は、途轍もない負荷が掛かって然るべき行為である。ハルカは焦ってそれを止めようとするが、ヒガナはもう止まらない。両手を頭の前に重ねて膝を突き、握る様な姿勢を取り始める。

 

 

『数多の人の御霊を込めし宝玉に、我が御霊をも込め申す』

 

「ぅ、ぐっ……うぁ……っ!」

 

「止めて! 貴女が居なくなったら、サガリちゃんが……っ!」

 

 ヒガナが無事では済まないかもしれないと知った時、それが世界の為に行っていると知っても尚、ハルカは止めようと声を掛ける。しかしヒガナの傍には謎の力が生まれ始め、彼女の持つキーストーンが眩い輝きを放つ事でハルカはその傍へ近づく事が出来なかった。

 

『汝、我が願いを……何卒、なにと、ぞ……ぐ、あぁぁぁ!』

 

 彼女の言葉が言い終わる前に、その苦しさからの悲鳴が木魂する。確かに必要と予想したキーストーンを各地から集める事が出来たヒガナ。だが彼女はサガリとカガリの持つキーストーンを奪ってはいなかった。寧ろサガリが持つアミュレットは彼女が渡したものであり、カガリの物も使わなかった事でその代償は増す。

 

『私、が……倒れ、たら……サガリ、達の……苦労も、無駄に……なっちゃうん、だ……!』

 

「このままじゃ……!?」

 

 もうヒガナの身体は持たない。だが止める手段も見つからないまま、ハルカは焦り続ける。

 

 ……そんな中、彼女の傍を猛スピードで駆ける存在が居た。

 

「エナ! 『でんこうせっか』だ! 全力で、前へ走れ!」

 

「っ! サガリちゃん!?」

 

『サガ、リ……どうし、て』

 

「よう! 最後の最後で信じてもらえない馬鹿な友達を持つとな! こっちもそれなりの行動をするんだ、よっ!」

 

 人の力では近づけない力を、ポケモンの力を借りて一気に駆け抜けたサガリはエナから途中で降りる様にしてヒガナの前へ。一瞬その小さな身体が飛ばされそうになるも、彼女は両手で握ったヒガナの手を自らも上から覆う様にして握る事で身体だけが宙を浮きながらも飛ばされずに済む。

 

「ここまで一緒にやったんだ、最後まで俺にもやらせろよ馬鹿っ!」

 

『あ、はは……キミは、本当に……それじゃあ、一緒に祈ってよ』

 

 数多の人の御霊を込めし宝玉に我が御霊をも込め申す

 汝、我が願いを何卒何卒叶えたまえ。叶えたまえ。叶えたまえ……

 

≪叶えろっ! レックウザぁぁっ!!!≫

 

 ヒガナの持つキーストーンだけでは無く、サガリの持つキーストーンも同じ様に輝き始める。それだけでは足りないものをヒガナと同じ様にサガリもまた犠牲にして、やがて2人の声を乗せた光が空へと解き放たれる。……やがて、彼女達は大きな竜の鳴き声を耳にした。

 

「やっ、た……やったよ、サガリっ!」

 

「こいつが……レックウザ、か」

 

 蛇の様に細く長い緑の身体を持ち、恐ろしい程の威圧感を見せる。それはハルカが嘗て対峙したグラードンを優に上回る強さを感じさせており、全員がその存在を前に途轍もないプレッシャーを感じていた。

 

 

『レックウザ』てんくうポケモン

何億年も生き続けているといわれる。

グラードンとカイオーガの争いを治めたという伝説が残されている。

オゾン層を飛び続け、餌となる隕石を食らう。

体内に溜まった隕石のエネルギーでメガシンカする。

 

 

「これで、隕石はどうにかなるんだな……?」

 

「レックウザがメガシンカ……ううん、ゲンシカイキすれば必ず。お願い、レックウザ!」

 

 ヒガナはキーストーンを掲げた。ポケモン達はそこから生まれる光に包まれ、新たな姿と力を解放する。レックウザも同じ様に姿を変える事で真の力を発揮し、この世界を救う……筈だった。

 

「え……なんで、どうしてメガシンカしないの!」

 

「お、おい……?」

 

「キーストーンは足りてる筈。呼び出せたんだから間違い無いのに、どうして! ねぇ、メガシンカしてよ! しなさいよっ!」

 

 何度同じ事を行っても、ヒガナのキーストーンが輝く事は無かった。そしてそれに答える様に鳴き声をレックウザが上げた時、彼女は気付いた。レックウザがメガシンカをしない理由が、自分達では無い事を。……それはレックウザそのものに問題があったのだと。

 

「力が無いのは……レックウザの方……? 体内にある隕石の力が足りてないの……!? まさか、1000年の時の中で力が弱まって……そんな。私が、私達がして来た事って一体……」

 

「体内に、隕石……?」

 

「サガリちゃん、これを見て」

 

 世界を救う希望が潰えてしまった事実に絶望したヒガナが膝をついて崩れる中、サガリは彼女の言葉を気にする。すると、ハルカは手に持っていた『ポケモンずかん』をサガリへ見せた。それはどんなポケモンであろうと見掛ければ登録して知る事が出来る優れもの。仲間にすればより詳細を知れるが、今はサガリに関係の無い事。彼女は言われるがままにレックウザの詳細が書かれた文面を読む。

 

「主食が隕石なのか? 1000年も空の上に居たんなら当たり前か……で、その隕石が足りて無いと。なぁ、ハルカ。お前、マツブサからあれ(・・)を奪い返したんだろ? まだ持ってるか?」

 

「あれ? ……あれか!」

 

 サガリはその文面を見て思い出した様にハルカへ質問した。ハルカは一瞬首を傾げるも、すぐに思い出した様子で鞄を漁り始める。……そして、そこから出て来たのは正真正銘の隕石(・・)であった。

 

「っ!? どうしてそれをキミが……! まさかあの時に!?」

 

「えんとつ山でマツブサが渡したんだよな? 基地に居た時、姉貴から聞いたぜ?」

 

「これでグラードンを起こそうとしてたみたいだったんだけど、その後に『べにいろのたま』を見つけたみたい。それで要らないって言われて貰ってからそのままだったの!」

 

 えんとつ山で共に戦ったサガリは基地に居た時、あそこで何をしていたのかをカガリから直接聞き出していた。カガリ本人は居なかったものの、隕石を使った作戦であった事は幹部である彼女なら当然の様に知る事実。隕石の行方もハルカに渡して以降は分からないと聞いたサガリはそこから興味を失ったが、ここで思い出せた事で過去の自分をサガリは賞賛する。

 

「うわぁ! 光り出した!」

 

「すげぇ食べたそうに見てるぞ、レックウザ」

 

「きっとこれを食べれば……ハルカちゃん、お願い!」

 

「う、うん。行くよ、それっ!」

 

 輝き始めた隕石を放ったハルカ。まるで飼い主から餌を渡された様にそれへ喰らい付いたレックウザ。すると、レックウザの身体が輝き始め……その姿を別のものへと変える。その姿はどんな物でも貫く事が出来る鋭い矢の様にも見えた。

 

「やっ、た……メガシンカ、した! これで今度こそ世界は救われるんだよ! サガリ!」

 

「ってか、なんかハルカに傅いてないか? まさか、餌をくれたから? 意外と単純だぞ、こいつ」

 

「え、えぇ! 私、流石にこんな凄いポケモンのお世話は無理だよ!」

 

「呼び出したのは私達なんだけど……この際、何でも良っか! それじゃあ、最後にメガレックウザへ流星の民が伝えて来た秘伝の技を覚えて貰おう」

 

「お、なんか凄そうだな!」

 

 最初の時と同じ様にメガレックウザの傍で祈る様にしてヒガナは片膝を突いた。すると彼女の身体が淡く光り、続いてメガレックウザの身体が淡く光る。

 

「うん、完了!」

 

「終わりかよ! どんな技なんだ?」

 

「技の名前は『がりょうてんせい』。その技なら、隕石も壊せる筈だよ。でも、まだメガレックウザは起きたばかり。お腹も満たされたばかりだから、本調子じゃない。……だからハルカちゃん、私とバトルしようよ! キミはメガレックウザを使って、ね?」

 

 そう言ってメガレックウザの後ろへ移動したヒガナは大きく着けていたマントを翻してハルカと向き合う。サガリは巻き込まれない様、シガナと共に離れた場所から見守る事にした。

 

「ふぅ……鼓動が速くなってきて……昂って来たよっ! ハァ……! とどけっ!」

 

 

『伝承者のヒガナが勝負を仕掛けて来た!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん」

 

「あはは、流石伝承に伝わるポケモン。……ううん、それだけじゃない。出会ってすぐに懐かれた上に、指示を的確に出せる彼女の方が凄いのかもね」

 

 元々はヒガナがレックウザと共に隕石を破壊するつもりだった。しかしレックウザの主がハルカとなった事で、その仕事は彼女へ託す事に。宇宙服を着てレックウザに乗って空を飛び立つ彼女を見送ったヒガナは、負けた者同士……ではなく、友達として改めてサガリと向き合った。

 

「ありがとう。……ここまでついて来てくれて」

 

「気にすんな。それに友達の為に何かしてやれて、良い気分だしな」

 

「そうだね。私もキミを助けた時は悪くない気分だったよ。……そういえば、カガリは?」

 

「姉貴なら下で他の奴らが来ない様に見張ってくれてるよ。元チャンピオン辺りは来てもおかしくないからな」

 

「あはは。……っ! 見て、空が……!」

 

 空を見つめながら話をする2人。やがて空に流れ星が沢山流れ始めた時、それがこの星へ向かっていた隕石の残骸であるとヒガナは察する。つまりハルカが再びこの世界を救ったのだと。

 

「よいしょっと。それじゃあ、私はババさまに報告してこよっかな」

 

「ハルカを迎えないのか?」

 

「うーん。じゃあ、手紙でも書いておくよ」

 

「そうか。ってか、流石に俺と姉貴もここから離れた方が良いか……。一応、お尋ね者だしな」

 

「後悔、してない?」

 

「はんっ。ならはっきり言ってやるよ。……俺が選んだ未来だ。後悔なんて一つも無い」

 

「そっか。……バイバイ、サガリ」

 

「あぁ。またな、ヒガナ」

 

 ホウエンの人々が流れ星に見惚れる中、2人は笑い合ってから空の柱を後にする。

 

 ヒガナは流星の民、その末裔として今も生き残っているババさまへ報告をする為に流星の滝へ。

 

 サガリは姉のカガリと共にほとぼりが冷めるその時まで、何処かで身を隠す事になるのだろう。

 

 空の柱へ帰って来たハルカは、シガナから2人の手紙を受け取る。世界を救った事へのお礼と何時かの再会を約束する内容がそこには記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

 一部の人間だけが世界の危機を知り、その回避に手を繋いで喜んだ日から数日。

 

 流星の滝で全ての報告をしたヒガナはその使命を果たした事で今後について考えていた。

 

 流星の民としての使命は終わった。もう、この世界に迫る危険に関する伝承は存在していない。つまり、民としての生き方はもう必要がない。背負うものも抱えるものも無くなった彼女は、それでも人間だ。残りの人生を例え空っぽだったとしても、生き続けなければならない。

 

「ヒガナ。外へ出て見なさい」

 

「? ババさま?」

 

 突然現れたババさまの言葉に驚きながら首を傾げたヒガナは、言われた通りに外へ。

 

 115番道路と呼ばれるそこは遠くにカナズミシティが見えており、傍には海や花畑も広がるとても景色の良い場所であった。洞窟の中で過ごしていたヒガナは外の空気を吸いながら大きく伸びをする。そしてババさまの目的が何だったのかを考えて……周囲を見回していた視線がある一ヶ所で止まった。

 

 洞窟の岩場に座りながら、足を岩下へ降ろして近づいて来るキャモメへ餌を上げる少女が1人。

 

 

『キャモメ』うみねこポケモン

餌や大事な物を嘴に挟み、色んな場所に隠す習性を持つ。

風に乗って滑る様に空を飛ぶ。

 

 

「…………待ってる」

 

「うひゃぁ! って、カガリ!? じゃあ、あそこに居るのはやっぱり……」

 

 その後ろ姿を眺めて居た時、突然掛けられた声にヒガナは驚きながら振り返った。そこに居たのはカガリであり、彼女が居るならば当然居るのだろう。自分の見ていた相手がその人物だと分かった時、ヒガナは近づき始めた。

 

「おいおい、並べって。ちょ、頭を突っつくなこの野郎!」

 

「直接手で食べさせるからそうなるんだよ。撒く様にあげれば?」

 

「こうか? おっ、なるほどな」

 

 ヒガナの言葉を聞いて言われた通りにキャモメへ餌をあげ始めたのは他の誰でもない、サガリであった。ヒガナは彼女の隣へ座り、餌やりが終わるのを待ち続ける。やがてサガリの手に餌が無くなった時、彼女は両手を払って立ち上がった。

 

「ババさまへの報告はとっくに済んだんだろ?」

 

「うん。『荷物を降ろして、新たな一歩を踏み出す為にも、今はお休み』だってさ」

 

「なるほどな。まぁ随分長い事苦労してたみたいだしな、お前」

 

「他人事だねー。途中から一緒に苦労した癖にさ」

 

「全くだぜ。けど、そんな苦労って気はしなかったよ。寧ろ楽しかったかもな」

 

「楽しかった、か……あはは。そうかもね。私も、楽しかったよ」

 

 

 

 ヒガナとサガリの出会いはマグマ団の基地で。今と変わらずだが、今以上にカガリから執着されていたサガリが軟禁されている状態で見張りや監視として下っ端の中で選ばれた偶然からである。

 

 暇だから話す相手がお互いに欲しかった。話をする内に仲良くなっていき、やがてお互いの名前や好きなポケモンなんかの話もする様になっていた。きっとお互いがお互いに、初めての友達だったのだろう。

 

 やがて外に出たいと思ったサガリは基地を飛び出した。適当な暇潰しでジムを巡り始めるも、カガリとヒガナに見つけられた挙句に敗北。トレーナーとして必要最低限の覚悟が足りていなかった事を彼女から思い知らされる。

 

 再び基地に閉じ込められてしまったサガリだったが、ヒガナの気分によって解放される。それは彼女が目的の為に潜入し続ける事を止めた瞬間であり、友達と旅をすると決めた瞬間でもあった。

 

 やがて姉と正面から対峙したサガリはポケモンバトルで姉を打ち負かし、彼女自身を自分だけの姉であると豪語する。少々考え方にすれ違いがあり、カガリ自身は『私はサガリのモノ』と考えているが、執着も軟禁拘束も無くなったのでサガリは気にしない方向で結論付けた。

 

 その後に世界が直面した危機を知り、だが何も行動は起こさなかったヒガナと何も出来なかったサガリ。やがてハルカの活躍でグラードンが静まった事で、ヒガナは迫る未来への脅威に立ち向かう為に覚悟する。そして唯一の友達であったサガリにだけ、自身の知る未来の真実を語った。

 

 友達としてヒガナを信じ、彼女の力になると決めたサガリはホウエンを敵に回す事も厭わずにトレーナーのキーストーンを奪って回る。そしてハルカを空の柱へ導き、サガリに取って最大規模のバトルを繰り広げた。結果は敗北に終わり、彼女は悔しさに涙を流す。

 

 そして最後の最後で全てを抱え込もうとしたヒガナの手を繋いで共にレックウザを呼び起こし、ハルカの力を借りて迫る隕石を阻止する。流星の民に伝わっていた世界の危機は消え去り、ヒガナの民としての使命は終わりを迎えた。

 

 

 

「俺さ、ホウエンを出ようと思うんだ。何処か別の地方へ行く」

 

「っ! そっか……流石にここには居辛いからね」

 

 サガリの言葉を聞いてヒガナは一瞬、胸が締め付けられる様な思いに襲われる。サガリがホウエンから離れるとなれば、もう会う事は難しいだろうと思ったからだ。唯一の友達が居なくなる辛さを感じながらも、自身のせいで居辛くなってしまったからこそ彼女を引き止める事は出来ないとヒガナは思っていた。

 

 だが、そんな彼女の目の前に小さな手が差し出される。

 

「ぇ……」

 

「一緒に来ないか? 楽しかった旅だ、まだ終わらせるには勿体無いだろ?」

 

「でも、私はここで」

 

「その必要はない」

 

「!? ババさま!」

 

 サガリの手を取れずに困るヒガナの元へ、ババさまの声が掛けられる。ヒガナと同じ様に洞窟から出て来たババさまはその一部始終を聞くか、最初から察していたのだろう。

 

「ヒガナよ、もう背負う事はない。流星の民だからといって、ここを離れてはいけないなど誰が決めた事じゃ?」

 

「……」

 

「自身の人生で、自分を支えてくれる良き友と巡りあったのなら、その繋がりは決して手放してはならぬ。ましてや終わった使命を理由になど、以ての外じゃ」

 

「ババ、さま……」

 

 ババさまからの言葉を聞いたヒガナはやがて大きくその場で両手両足を開き、目を閉じて大地の空気を吸う様に深呼吸。ゆっくりを目を開けると、サガリの差し出していた手を掴んだ。

 

「しょうがないな。私が居ないと、サガリは危なっかしいからね」

 

「どういう意味だよ、それ? ……ははっ! 改めてよろしくな、ヒガナ!」

 

「こっちこそよろしくね、サガリ」

 

「…………忘却(フォゲット)……僕も、居る」

 

「勿論分かってるよ。カガリもよろしくね」

 

「…………うん…………でも……あげない、から」

 

「ババさまが今さっき言ってたでしょ? だから私はもう、手放さないよ」

 

「? なんか貸し借りしてたのか? お前ら」

 

「ちょっとね」

 

「…………秘密(シークレット)

 

「???」

 

 サガリは2人の会話が何を意味しているのか全く分からなかった。が、当の本人達はその大元をそっちのけで話を続ける。

 

 やがてその場を離れる事になった時、一番先頭をサガリが。その斜め後ろをカガリが歩き、一番後ろにいたヒガナは一度振り返る。洞窟の入り口から自分を優しく見守るババさまを見て、彼女は大きく手を振った。

 

「ババさま、行ってくるね!」

 

 今この時、ヒガナは仲間と共に人生の新たな一歩を踏み出した。




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