【完結】伝承者の友   作:ウルハーツ

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第6話

「ワカシャモ、お願い!」

 

「サーナ、出番だ」

 

「チルタリス、戦うよ」

 

「…………ミッションスタート、バクーダ」

 

 4人が同時に各々のポケモンを場に呼び出す。少女とカガリの出したポケモンは強者の雰囲気を醸し出しており、この中で唯一トレーナーになって日の浅いハルカは今までにない緊張感と負けられない状況に息を飲む。

 

 

【チルタリス♀】ハミングポケモン

綿雲に紛れて大空を舞う。

透き通った声でメロディを囀れば、耳にしたものはうっとり夢心地。

 

 

【バクーダ♀】ふんかポケモン

体の中に火山を持つポケモン。

体に溜まった摂氏1万度のマグマを時々背中のコブから噴き上げている。

 

 

「…………っ!」

 

「おいおい、容赦無しってか?」

 

「あれは、メガシンカか!?」

 

「…………メガ、バクーダ」

 

 カガリは更にバクーダへ付けていたアクセサリーに触れてからそれを向ける。途端にバクーダを謎の光が包み込み、やがてその姿を更に威厳のあるものへと変えた。

 

 メガシンカ。それはまだ原理も原因も解明されていないポケモンの進化する現象であり、本来はもう進化が無い筈のポケモンを別の姿へと変える力。基本的に能力などが飛躍的に上昇し、一部の限られた者にしか扱う事の出来ない所業である。つまり、カガリはその限られた事を出来る程の存在という証明でもあった。

 

「ハルカ、気を抜くなよ……今までの相手と訳が違うからな」

 

「う、うん。ワカシャモ、行くよ!」

 

 ハルカはまだ知らないその力に動揺するが、サガリからの言葉を受けて彼女は気を引き締める。

 

 自然と始まったダブルバトル。仲間同士の協力を意識しながら、相手の協力した連携を崩す事が勝利への近道となる。……だが、今回は勝手が全く違った。何故なら少女とカガリは全く協力などしないのだから。唯一する事と言えば、互いに相手を見定めて1対1の戦いにする事だけ。戦闘に協力も連携も存在しなかった。

 

「ドラゴンタイプだと、フェアリータイプはきついかなぁ」

 

「お前、サーナと何度か戦った事あるじゃねぇか。余裕そうにしやがって……本気じゃなかったんだろ?」

 

「まぁね、でも楽しんではいたよ。全力でね」

 

「そうかよ……サーナ、始めるぞ! チャームボイス!」

 

『絶対に、負けません!』

 

「チルタリス、耳を塞いで相手に近づいて!」

 

 サーナの響き渡る鳴き声がチルタリスを襲うが、耳を塞ぐ事によってそのダメージを減らしながらチルタリスはサーナの前へと近づき始める。

 

「そのまま、とっしん!」

 

「サーナ、受け流せ!」

 

『!』

 

 突撃するチルタリスの身体をサーナは両手で受け流す様な姿勢になって受け止め、そのまま力を横へ逃がそうとする。実際に成功はしたものの、しかし無傷とまではいかなかったサーナは痛みよりも疲労を抱えてしまう。そして、そんな彼女へ追い打ちを掛ける様に少女は告げる。

 

「ゴッドバード」

 

「反動お構いなしか!? サーナ、ムーンフォース!」

 

 大きく空へと舞い上がったチルタリス。今から放たれる技はとっしん以上に反動が大きい分、威力も高いひこうタイプの技であり、直撃すればただでは済まない。その前に勝敗を決めてしまおうと、迎え撃つ様にサガリの指示でサーナは空へと手を伸ばす。今は見えない月の力をその身に集め、やがて近づいて来るチルタリスへ向けて解き放った。

 

 チルタリスが持つドラゴンというタイプは、サーナイトの持つフェアリーにとても弱い。その一撃は確かにチルタリスへ大きなダメージを与える事に成功した。が、直撃を受けても尚、その威力は弱まる事無くサーナの身体へ叩きつけられる。羽がサーナを轢き、そのままチルタリスは地へ落ちる。

 

 勝敗は引き分け、と言ったところだろう。だがタイプの相性では有利にも関わらず、サガリは負けたのだ。それは一種の敗北である。

 

『申し訳ありません、マスター……』

 

「謝らなくていい。相手が相手だしな……ありがとうな。取り敢えず、休んでくれ」

 

 瀕死になったサーナをボールへと戻したサガリは少女と向かい合う。既にチルタリスを同じ様にボールへ戻していた少女は先程の勝負でサーナを倒した事により、自分が優位に立ったことを確信していた。

 

「キミのエースは退場。私はまだやれるけど、どうする?」

 

「まだ足掻くさ。エナ、お待ちかねの強者だ!」

 

「ヌメルゴン、やっちゃおう!」

 

 

【ヌメルゴン♀】ドラゴンポケモン

人懐っこいドラゴンポケモン。

大好きなトレーナーに抱き着いて粘液でヌルヌルにしてしまう。

 

 

 グラエナのエナは目の前に現れたヌメルゴンを前に威嚇をする。それ自体には確かに効果があるものの、彼女は相手の強さを本能で感じ取っていた。それが自分よりも明らかに強者である事を。……だからこそ、その牙を剥き出しにしながらも何処か楽しそうに見せる表情。これこそが、エナの待ち望んだ強者とのバトルだった。

 

「エナ、こおりのキバだ!」

 

「ヌメルゴン、避けてのしかかり!」

 

 エナの剥き出しになった冷えた牙がヌメルゴンへ迫るが、噛み付く直前に身体を動かす事で回避されてしまう。そしてそのまま今度は跳びあがったヌメルゴン。攻撃を仕掛けた事ですぐには動けなかったエナの上へ、その身体が圧し掛かった。

 

「そのまま、ばかぢから」

 

「っ! エナ!」

 

 背に乗ったヌメルゴンがエナを攻撃する。『あく』タイプのグラエナは『かくとう』や『むし』、『フェアリー』に弱い。ヌメルゴン自体はドラゴンタイプだが、その技はかくとう技であり、エナはその直撃を受けた事で大ダメージを負ってしまう。技を終えたヌメルゴンがヒガナの前へ戻る中、転がってしまったエナは立ち上がろうとするが、その足は既に震えていた。

 

「くっ……エナ、戻れ」

 

『!』

 

「まだやれるって言いたいのは分かる。でも、俺はお前の主だ。無理させるつもりは無い」

 

『……』

 

「恨むなら恨め。それで良いから、休め」

 

 不服そうにするエナをボールへ戻したサガリ。対して無傷のヌメルゴンを場へ残して次を待つ少女に、彼女は焦りを感じ始めていた。残る手持ちはキュウコンのキュウとクチートのクー2匹のみ。後者に至ってはまだバトルの経験が少ない為、強者である少女のポケモンと太刀打ちするのは不可能だろう。

 

 キュウの入ったボールをサガリが手に掛けた時、突然地面が揺れ始めた事でそれは中断される。少女も驚きながらその発生源……ハルカとカガリへ視線を向けた。

 

 ハルカはメガシンカしたバクーダを相手に苦戦を強いられていた。既に相棒のワカシャモは瀕死に。キノココも相性から一瞬でやられてしまい、残っているのはホエルコだけ。相性自体は有利だが、相手のバクーダが出す炎はハルカのホエルコが消化出来る威力を格段に上回っていた。

 

「…………お前は、潰す! …………メガバクーダ、じしん」

 

「! ホエルコ、とびはねる!」

 

 メガバクーダがその場で足踏みをする。地面が大きく揺れ、トレーナーを含めて殆どが真面に立っては居られない。ホエルコは空へ舞い上がった事で何とか被害を免れたものの、そこへ続けて技が放たれた。

 

「…………フィニッシュ。ふんか」

 

「っ! ホエルコ!」

 

 空へ上がっていたホエルコに避ける術は無い。メガバクーダの背から放たれた炎と岩石がホエルコへ直撃すれば、タイプの相性に関係なく一撃で勝負が決まってしまう。もう、ハルカの手元に戦えるポケモンは居なかった。

 

「そん、な……」

 

「…………チェックメイト」

 

 ダブルバトルにおいて、仲間が倒れて1人に成るのは圧倒的に不利と言える。相手はポケモンにしっかり指示を出せるが、サガリの場合は2匹同時に指示を出す必要があるのだ。まだ戦いの経験が浅いクチートが出ても、一瞬でメガバクーダの餌食となるだろう。それでも主を守る為に戦わなければと、キュウの入ったボールは揺れる。が、サガリはそれをしまった。

 

「俺達の負け、か……」

 

「諦めるんだ?」

 

「ここで無理に戦っても、こいつらが傷つくだけだ」

 

「それでも、最後まで戦うべきじゃないの?」

 

「…………」

 

「キミは飛び出した先で何かやりたい事を探して、それで適当にジムバッチを集める様になったみたいだけどさ…………それ、トレーナーを舐めてるよ」

 

「…………サガリ、キャプチャー完了」

 

 サガリが戦いを諦めた事で、勝負は決着する。何時の間にか背後へ回り込んだカガリがサガリを後ろから抱きしめる中、少女はこの場を厳しい目で見守っていたダイゴへ視線を向けた。

 

「本当の目的はラティオスが持ってるキーストーンだったけど、今回は諦めてあげる。代わりにサガリは連れて帰っちゃうけどね」

 

「彼女をどうするつもりだい?」

 

「別に酷い事はしないと思うよ。ただ、もう外には出られないかもね?」

 

「サガリ、ちゃん……」

 

「……悪い、ハルカ。ヒワマキへは一緒に行けないらしい……じゃあな」

 

 カガリと少女はポケモンを戻し、サガリを連れて森を後にする。膝をついて座り込んでしまったハルカはそれを追えず、ダイゴもその光景を黙って見守る事しかしなかった。




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